「Nothing beats a first kiss.」(「50回目のファーストキス」より)

MY DVD:「50 First Dates:50回目のファーストキス(2004年製作)」発売:(株)ソニー・ピクチャーズエンタテイメント TSDD-32714

「50回目のファーストキス」をテレビで観て、何度も観たくなりました。タッチはラブ・コメディーなんだけど、とても考えさせられるラブ・ストーリーでした。
ルーシーは寝ると前日の記憶を失う記憶傷害があります。1年前、ルーシーはパイナップル穫りのため、お父さんの運転する車に乗っていました。その帰り、道路に入り込んだ牛を避けようとして、木に衝突する事故に遭ったのでした。ルーシーは事故のあと、毎日が日曜日でお父さんの誕生日だと思ってこれまで暮らしています。
一方水族館に勤めるヘンリーは、いずれ必ず帰って行く観光客とのデートを繰り返すプレイボーイの生活を送ってました。ところが、ある日ヨットが破損したのをきっかけに、偶然ルーシーと出会い、恋に落ちるのでした。
ルーシーを演じるのはドリュー・バリモア、ヘンリーはアダム・サンドラー。ふたりの純真な感じが、ハワイの雰囲気にぴったり合って、さわやかな映像となってます。
余談ですが、この物語の舞台が最初はシアトルに設定されていたとは信じられないほどです。

物語の中で、ルーシーがカフェでいつも読んでいる本があります。Tom Robbins 著「STILL LIFE WITH WOODPECKER」です。Tom Robbinsの本は「カウガール・ブルース」・「香水ジルバ」などがあるようですが、この「STILL LIFE WITH WOODPECKER」はあいにく翻訳されていないようです。しかし、著者の名前でインターネット検索中、名言・格言を集めてるホームページに出くわしました。
「私たちは完璧な愛を創る代わりに完璧な恋人を探そうと時を無駄にしている。」
「We waste time looking for the perfect lover, instead of creating the perfect love.」
(http://becom-net.com/wise/tomu.robinzu.shtmlより)
なんだか、この映画からもこの言葉が心に響いてくるような気がします。

ヘンリーはカフェでルーシーと初めて会ったとき、楽しく話ができたのに、次ぎに同じようにアプローチしてもだめでした。それでもあきらめないヘンリー。しかし、ルーシーに誤解され、お父さんにもカフェに近づくなと言われてしまいます。
それではと、ルーシーの帰る道で待ち伏せして、あの手この手で近づくヘンリーでした。

この日は、ヘンリーは車のバッテリーがあがってしまったふりをして、ルーシーに立ち寄らせます。バッテリーをケーブルでつなぐとき、ヘンリーは感電するふりをしますが、ルーシーはびっくりしてしまいます。
「まさか信じるとは!」
「祖父がこれで感電死したの。」
「ごめん。冗談のつもりで…」
「まさか… 信じるとは!」
「やられた。すっかりダマされた。」(日本語字幕より)
「I can't believe you fell for that.」
「Well, my grandfather died trying to jump-start a car.」
「I'm sorry. I was just joking around.」
「I can't believe you fell for that!」
「Oh, my God. That was very good.」(英語字幕より)
こんなルーシーを見れば、彼女に記憶の障害があろうなどととても思えません。明るくて、聡明な彼女なのですから。

「fell」は「fall」の過去形。「fall for」で「だまされる、ひっかけられる」という意味があります。内容は受動的ですが、受動態では使われないようです。「これにだまされるなんて、信じられない。」って言ってますね。
「jump-start」には、動詞として「(車を)押して[あるいは別のバッテリーと連結して]〈車の〉エンジンをかける」という意味があります。
「joke」と「aroound」は特に成句としてありませんでした。「冗談」の「周辺」ということで、「冗談」から離れた他意はないということを表してるのじゃないかと思います。

ヘンリーはまたしても、お父さんに見つかり、家に呼ばれるのでした。
でも、状況はちょっと違ってました。
ルーシーはヘンリーと会った日だけ、ビーチボーイズの「素敵じゃないか:WOULDN'T IT BE NICE」を歌うことをお父さんたちが知ったからです。
「君と会った日だけ、歌うんだ。」(日本語字幕より)
「We figured it out. She only sings on days she meets you.」(英語字幕より)
「figure out」には「(考えた末)理解する」という意味があります。
「やっと分かったんだが、娘は君と会った日だけ歌うんだ。」
この歌は、お父さんにとっても、お母さんを思い出して早く家に帰るよう漁のたびにルーシーがお父さんに渡した大切な歌だったのです。
とても愛らしい歌詞です。ティーンエイジでまだ自律してない若者の恋を歌っているようです。2人で一緒に暮らせたらどんなに素晴らしいかが歌詞になっています。どこかルーシーの制限のある状況に立ち向かっているヘンリーの心情とも通じ合うような気がしますね。(http://blog.livedoor.jp/haru933/archives/50278320.html 参照)

ルーシーの人生に転機が訪れます。それはとても良くない出来事がきっかけでした。
車のナンバープレートの期限切れから、ルーシーは今日が1年前の今日ではないことを知ったのでした。
お父さんの切ない思いが作らせた、”ルーシーの1日”が、ルーシーを傷つけることになってしまったのです。お父さんの毎日の心の痛みはとても大きいものだろうに、ルーシーへの思いが勝って、今日まで、返らない事故の日を作り直し続けてきたのでしょう。しかし、お父さんも心の底では、架空の1日がいつか破綻することを感じていたのだと思います。
ルーシーはたいへんなショックを受けました。しかし、家族とヘンリーと共に病院で説明を受けることにしました。ルーシーの傷害に希望は見つかりませんでした。大きな1日でした。
そして、しかし最後の最後に、やっとルーシーはヘンリーに声をかけるのでした。
「今日はありがとう。」
「いいさ。」
「明日は失敗しないで。きっかけはユリの話がいいわ。」
「ユリ?」
「大好きな花なの。」
「ヒントに感謝。」
「じゃね。」
「おやすみ。」(日本語字幕より)
「Thank you for being so nice to me today.」
「Sure.」
「I don't want you to strike out tomorrow. So maybe you could talk to me about lilies.」
「Lilies?」
「I'm a sucker for lilies.」
「Thanks for the tip.」
「Good night.」
「Good night.」(英語字幕より)

恋の駆け引きは野球に例えられるようですね。「ダイ・ハード」でもご紹介しましたが、うまくいくと”得点:score”、はねつけられると”ストライクアウト:strike out”のようです。「you could talk ~」は分かりにくいです。「もし、あなたがユリのことを私に話していたら、得点できたでしょう。」という意味が込められているようです。
「sucker」は文字通り「吸う人」なんですけど、まだお乳を吸っているという意味も込められているようです。「sucker for」で「夢中になっている人」となります。
「tip」には4つも種類があります。そのうち、「ホテルでボーイにチップを渡す」の「tip」に別の意味があります。「内報、秘密」です。「警告、秘訣」の意もあるようです。

お父さんもヘンリーに声をかけます。
「一杯やってけよ。ビールで借りを返す。」(日本語字幕より)
「You don't have to rush off. Stick around. You've earned yourself a couple beers.」(英語字幕より)

「rush」は「急いで行く」意があり、「rush off」で「急いで去る」意味合いがあるのだと思います。「stick」には「ひっつける、くっつける」意があります。「stick around」は「この辺にいる」意味となり、特に去ろうとする相手を引き留めるときに使うようです。「earn」には、「(当然の報いとして)得る」という意味があります。
「急いで帰る必要はないだろ。つきあえよ。君は少々のビールを飲む権利があるぞ。」
こんな感じですかね。

ルーシーの人生の転機は、ヘンリーの心の中にありました。それは、ルーシーへの愛からでした。
もちろん、お父さんもルーシーを愛するがゆえに、1日を作っていました。しかし、それはすまないという気持ちと娘を守りたい気持ちが強かったと思います。
ヘンリーはルーシーのとても素敵な人間性を損なわない、あるいは聡明な彼女に応えることの出来る何か別の方法があるはずだと思ったのではないでしょうか。それは、彼女を信じ、自分を信じる方法だったように思われます。
「こんな生活とは決別か。」
「”こんな生活”は改善できるよ。」
「何が言いたい?」
「彼女のショックは、事故だけじゃない。お膳立ての生活だってことだ。だから動揺する。」
「専門家か。」
「違う。あんなのは、やめたいんだ。”バレた? じゃ事故の写真”。」(日本語字幕より)
「Guess you won't miss days like this.」
「Well, maybe days like this don't have to be so bad.」
「What are you trying to say?」
「When you guys tell her, she's not just finding out about the accident. She's finding out that her life is basically a setup. I think that freaks her out the most.」
「You're an expert now?」
「No. I'm saying I wish there was another way besides: "Sorry we couldn't trick you today. Here's pictures of your broken head."」(英語字幕より)

NHKの衛星放送では、次のような日本語字幕でした。
「彼女は事故を知ったんじゃない。日常が、でっち上げだと知ったんだ。それが一番怖い。」(日本語字幕より)
この字幕で、思いました。ルーシーにはこんな観点を持てる人が近くに必要だと。これは単に頭がいいとか言う問題ではなく、彼女のことを深く思ってるがゆえに思いつくことなんだと。

「miss」には、人や物の不在を「寂しく思う」意があります。
よく見かける表現ですが、「find out」には「隠された、または知られていない事実」を「見つけ出す」が本義とされています。「basically」には「基本的に」という他に「実のところ、要するに」という意味があります。「setup」はあらかじめ組み上げられたものを表しているようです。「八百長」という意味もあります。「freak out」には、「ヒステリーを起こす、取り乱す、かんかんに怒る」の意味があるようです。「the most」はこの場合、動詞を修飾する副詞句となります。
「expert」は「専門家」。
「besides」は「以外に」。「trick」は「だます」。
「こんな生活には未練はない、か。」
「いや、こんな生活はこんなに悪くせずにすむと思うよ。」
「なにを言おうとしてるんだ?」
「あなた方が彼女に伝えたとき、彼女は事故のことを知っただけじゃない。彼女は生活が要はでっち上げだと知ったんだ。このことが最も彼女にショックを与えるんだ。」
「専門家なのか?」
「いや。僕が言いたいのは、もっと違う方法があればなあということなんだ。”すまない、今日はだませなかった。君の壊れた脳の写真はこれだよ”、じゃなくてね。」

ビデオテープ「GOOD MORNING LUCY」がついに始まりました。これをきっかけにルーシーは日記を書くようにもなります。しかし、とてもショックな内容であることには違いありません。しかし、それには暖かさがありました。
1時間泣いた後、立ち直った彼女は質問をします。
「牛はどうなった?」
「毎日、自分が牛なのを忘れる。」(日本語字幕より)
「So how's the cow?」
「Same as you. Every day they have to convince her she's a cow.」(英語字幕より)
救われる一言でしたね。

「convince」は動詞で、「納得させる」の意味があります。
「それで牛はどうなの?」
「君と同じさ。毎日、彼らは彼女が牛であることを納得させなければならないんだ。」

そしてやっと、最初のキスとなりました。英語字幕を見るまでなんと言ってるのか、とても楽しみにしていました。
「最初のキスって最高。」(日本語字幕より)
「Nothing beats a first kiss.」(英語字幕より)
また、こうも言ってました。
「最初のキスは最高。」(日本語字幕より)
「There's nothing like a first kiss.」(英語字幕より)

「beat」には「たたく」の他に、「まさる、しのぐ」の意味があります。
「ファーストキスにまさるものはない。」
「ファーストキスのようなものはほかにない。」
以外に、力強い表現でしたね。

原題は、「50 first dates」で「50回の初デート」。これだけ単に聞くと、物語最初のヘンリーの不謹慎な頃のデートの回数のように思えますね。しかし、相手は1人、ルーシーだけなんですね。だけど、どうも数が合わないんです。
数が合わないと言えば、そんなのアリ?っていう計算がありましたね。
「何するの?」
「糸くずを払っただけ。」
「胸を触ろうとした!」
「ごめん。でも僕たち、キスはもう23回目だ。欲求不満だよ。」
「分かってる。分かるワケないか。初めてとしか思えないもん。」
「平均値を出そう。僕は23回目。君は初めて。平均すると12回。」
「ええ。」
「ハワイ州法なら12回で、胸を触る資格はある。」
「もし事故の前に出会えていたら…」
「いつもそう言う。」(日本語字幕より)
「What are you doing?」
「Nothing. I was just getting some lint off for you.」
「You were going for a feels!」
「All right, I'm sorry, but this is like the 23rd time we've made out already and they're getting blue.」
「I know. I know. I mean, I really don't know. For me, it still feels like the first time.」
「Okay, let's average it out then. It's the 23rd time for me and the first time for you. That's about our 12th time.」
「Yeah?」
「Now, Hawaiian law clearly states after the 12th date, I'm entitled to unlimited boob access.」
「Why didn't I meet you one day before the accident?」
「You say that all the time.」(英語字幕より)

「lint」は「糸くず、ほつれ糸」。「feel」は基本的に「手で触る」という意味があるようです。
「get」と「blue」では用例が見つかりませんでした。「blue」には、「血の気が引いた、落胆した」などの意味があります。でも、正直言って、よく分からないです。
「average」は「平均をとる」。「state」は動詞として、「(正式に)はっきり述べる、言明する」。「entitle」は「資格を与える」。「unlimited」は「無制限の」。
「何してるの?」
「何も。糸くずを取ってあげただけ。」
「手で触ろうとしてた!」
「そうだね。ごめん。でも今回で僕たちはすでに23回もやりこなしてきたことになる。で、それらは色を失ってる。」
「分かる、分かるわ。でもホントは、よく分からない。私には、まだ初めてとしか感じないもの。」
「よし、平均値を出そう。僕は23回、君は初めて。すると、12回だ。」
「それで?」
「それで、ハワイ州法ははっきりと述べてるんだ。12回目のデート以後は、僕にはおっぱいに無制限にアクセスする資格があるんだ。」
「どうして、事故の前にあなたと出会わなかったのかしら。」
「いつも君はそう言う。」

しかし、まあなんとか23回目には、セイウチにも協力してもらって、ベッドインの2人。
良かった、良かったと思いきや、朝になるとルーシーはパニック。
彼女は、愛する男性と分からずヘンリーをなぐり倒してしまいます。ひどく傷ついたルーシー。しかし、彼女よりもっと傷ついた人に気がつきました。ヘンリーです。ヘンリーが自分の夢を捨てていかに献身的に自分と一緒にいてくれているかを知れば知るほど、ルーシーはさらに心を痛めることになったでしょう。
彼女は人として、自分のあるべき姿を見つめます。そして、ヘンリーと別れる決心をします。

「なぜ」と言うヘンリーに、ルーシーは答えます。
「私と一緒では、未来がないからよ。」(日本語字幕より)
「Because you have to understand that there is no future with me.」(英語字幕より)
結婚して子供も持とうと言うヘンリーに、ルーシーは毎朝大きな自分のお腹を見ても何も思い出せないのにと言います。
24回目は、日記からヘンリーを消し去る前に、一緒に見て欲しいというルーシーの申し出を受けて、決別のデートとなってしまいました。そして、24回目のファーストキスは、最後のファーストキスとなりました。

ようやく、ヘンリーは一新したヨットでセイウチの調査旅行に出掛けることになりました。
ルーシーのお父さんも見送りに来てくれました。実は、ルーシーは、家族の”重荷”になりたくないと、施設に入っていました。でも、そこで絵を教え、自らも絵を描き、歌も歌い始めたとのこと。
ところが、ルーシーのお父さんからの餞別は、あの「素敵じゃない」が入ったビーチボーイズのCD。
旅立ちだと言うのに、CDを流して、ルーシーを思って、泣き叫びながら、その歌を歌って、ふとお父さんの伝えたかったことが、なんだか分かってきたのです。

ルーシーは、ヘンリーが誰だか分かりませんでした。しかし、ルーシーは自分のアトリエにヘンリーを招き入れたのでした。
そこは、ヘンリーを描いた絵で溢れていました。
「あなたが誰かは知らない。でも毎晩、あなたの夢を見る。なぜなの?」
「君は毎日読む日記帳は、かつて僕の話で一杯だった。」
「それで合点が行くわ。」
「君が僕を抹消した。君の存在が、僕の幸せのジャマになると。だが、間違いだ。君なしじゃ、幸せはありえない。君こそ僕の理想だ。そして、僕は君の”夢の男”。」
「ヘンリー、会えて嬉しいわ。」
「ルーシー、僕もだ。」(日本語字幕より)
「I don't know who you are, Henry… but I dream about you almost every night. Why?」
「What would you say if I told you that notebook you read every day used to have a lot of stuff about me in it?」
「I would say that that makes a lot of sense.」
「You erased me from your memories because you thought you were holding me back from having a full and happy life. But you made a mistake. Being with you is the only way I could have a full and happy life. You're the girl of my dreams and apparently I'm the man of yours.」
「Henry. It's nice to meet you.」
「Lucy, it's nice to meet you too.」(英語字幕より)

「あなたが誰だか私は知らないの、ヘンリー。でも毎晩のようにあなたの夢を見るの。どうして?」
「もし、僕が君に、君が毎日読むノートには、かつて僕の事がとってもたくさん載ってたって言ったら、君はどう言うだろうか?」
「とってもたくさん分かるって言うわ。」
「君は君の記憶から僕を消した。なぜなら、君は精一杯の、そして幸せな人生を僕から引き離すと考えたから。でも、君は間違ってた。君と一緒にいることこそが、僕が精一杯で幸せな人生を持つことのできる唯一の方法なんだ。君は僕の夢の女性であり、それにどうも僕は君の夢の男らしい。」
「ヘンリー、逢えて嬉しいわ。」
「ルーシー、僕も逢えて嬉しいよ。」

もしこれが彼らのデートだとしたら、25回目のようです。当然、ルーシーにとってはいつもファーストデートでも、ヘンリーと同じように彼女も25回のデートをしたはずです。ふたり併せて50回のファーストデートなんじゃないのかな。
そして、このときのキスは50回目のファーストキスではないかと。
だからなんなんだと言われましても、意味は分からないのですが。

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「which seats him in the 'crazy but not stupid' section.」(「スピード」より)

MY DVD:「SPEED:スピード(1994年製作)」発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン株式会社 FXBA-8638

前回、「stupid」で「スピード」を思い出しました。1994年製作ですから、もう15年も経ちます。なんだか懐かしくなって、もう一度観てみました。

デニス・ホッパー演じる犯人は、身元を確認しようとする係員をいきなり殺害します。
「悪く思うな。」(日本語字幕より)
「Nothing personal.」(英語字幕より)
「Nothing personal.」は「悪気はありません。」と辞書に紹介されていました。これは直接相手を個人的に攻撃していないことを表明する言い方で、相手を殺しておいて、こんなことを言う犯人の異常な性格がうかがえます。
「ミッション・トウ・マーズ」にも、火星探査のチームに夫婦が選ばれていることを、飛行士の妻たちの一人がおかしいと話しているところへ、その選ばれた妻・テリーがあらわれる場面で、この言い方が使われていました。
「あら、ごめんなさい、テリー。」(日本語字幕より)
「Well, nothing personal, Terri.」(英語字幕より)
「nothing personal」をただ訳してみると、「個人的なことは何もない」ってなります。
辞書には、「personal」には「〈人・発言などが〉個人攻撃の」、同様に「〈人の〉私事に触れた、個人に宛てた」とも記載されていました。少なくとも、この場合、「相手」の個人的なことを意味するようです。
英英辞書でこの意味に相当する部分を読んでみますと、「referring to an individual's character, appearance, or private life in an inappropriate or offensive way;不当な引用、あるいは攻撃する方法において、個人の性格、容貌、あるいは個人的な生活に言及すること」とありました。また、「critical of a person's faults;個人の過失に対する批判」という表現もありました。これらからも、攻撃や批判などの対象は「相手」の個人的なことなんですね。
つまり、「nothing personal」は「(非難されるような)あなた個人に関わるものはない」で、「あなた個人を悪く言ってるわけではない」と解釈できそうです。
ちなみに「悪気はなかった」に関しては「研究社 話すためのアメリカ口語表現辞典」で「一番よく使われる」として、次の表現が挙げられていました。
「ニールには悪気はなかったんです。」
「Neal's heart was in the right place.(ニールの心は正しい場所にあった。)」
なるほど、これではニールの心に曲がったところや邪推、下心などはなかったようですね。

さて、いよいよ「crazy but not stupid」です。
爆弾を仕掛けられたエレベーターに13人の人質が閉じ込められています。残り時間は23分。人質を救い出せないのかとの隊員からの質問に、マック隊長は答えます。
「脱出ハッチにも起爆配線が施されてて、触れない。犯人(ホシ)はイカれ野郎だが利口だ。」(日本語字幕より)
「This is an express elevator. The only way in or out is through access panels. The bomber's also wired the hatch to trigger the bomb, which seats him in the 'crazy but not stupid' section.」(英語字幕より)

「crazy but not stupid」は2回出てきますが、最初のこのセリフでは、表現がひとひねりされてて、意外でした。
「express」は「高速の」。「access」は「入ること、通路、入り口」。「panel」は「小枠、板」。「bomber」は「爆破犯人」。「The bomber's also wired the hatch ~」は、「The bomber has also wired the hatch ~」。「hatch」は「出入り口、上げぶた、くぐり戸」。「trigger」は「引き金を引く、誘発する」。「bomb」は「爆弾」。「section」は「一区画」。
「これは高速エレベータだ。出入りの唯一の通路は、通用パネルだ。爆破犯人は、その上げぶたに起爆の配線をしている。このことは、犯人を”気狂いだがバカじゃない”区画に座らせることになる。」
英語的表現なので、やはり日本語にすると変ですが、こんな言い方するんだという楽しさを味わえるセリフでした。

「ugly」は「醜い」という単語として知っていました。ここでは思ってもみなかった使い方がされていたので、ご紹介します。
「じきハイウェイの入り口だ。キビしい右折だ。」
「キビしい?」
「何が?」
「工事現場の先を右折するんだ。あれだ。」
「行き止まりよ。ムリよ。」(日本語字幕より)
「You got an entrance coming up, Jack. It's gonna be a real ugly turn, though.」
「How ugly?」
「What's ugly?」
「We got a hard right coming up at the construction site. This should be it.」
「That's a dead end. I can't make that turn.」(英語字幕より)

「entrance」は「入り口」。「coming up」は「やって来る」で、「すぐに来る」の意味合いもあるようです。
この場合の「ugly」は、「物騒な、たちの悪い、やっかいな」の意味で使われているようです。
「turn」は「曲がること、折り返すこと」。「though」は「ではあるが、だけれども」。
「a hard right」については、「turn hard right [left]」で「急角度に右折(左折)する」という表現があることから、「急角度の右折」の意味になると思われます。
「a construction site」で「建設現場」という意味があります。「a dead end」で「行き止まり」の意味があるようです。
「じきにハイウェイの入り口だ。ほんとうにやっかいなターンになるが。」
「どれほどやっかいなんだ?」
「何がやっかい?」
「もうじき建設現場で急な右折になる。あれがそうに違いない。」
「あれは行き止まりよ。あんなターンはできない。」

空港でバスから脱出し、倒れ込んだまま抱き合ってるジャックとアニー。下になってるアニーが忠告を。
「あなたも泣くの?」
「どうかな。泣くかも。」
「異常な状況で結ばれた男女は、長続きしないのよ。」(日本語字幕より)
「You're not going to get mushy on me, are you?」
「Maybe. I think I might.」
「I hope not because relationships that start under intense circumstances never last.」(英語字幕より)

「mushy」は「感傷的な、涙もろい」。「relationship」は「(人と人との)関係」あるいは「恋愛関係」。「intense」は「極度の、強烈な」。「circumstance」は「周囲の事情、状況」。「last」は動詞で、「続く」。
「あなたは私に対して過度に感傷的になったりしない、そうなの?」
「たぶん。なってるみたい。」
「そうでないことを祈るわ。なぜって、強烈な状況下で始まった恋愛関係は、決して続かないのよ。」

脱線した上に地上に飛び出した地下鉄車両の中で、倒れ込んだまま抱き合ってる二人。下になってるジャックが忠告を。
「知ってるかい? 異常な状況で結ばれると、長続きしない。」
「それじゃ、セックスで結ばれましょ。」
「やってみよう。」(日本語字幕より)
「I have to warn you. I've heard relationships based on intense experiences never work.」
「Ok, we'll have to base it on sex, then.」
「Whatever you say, ma'am.」(英語字幕より)

「warn」は「警告する、注意する」。「base」は動詞で「基礎を持つ、基づく」。「experience」は「経験、体験」。
「君に警告しなくてはならない。強烈な体験を基にした恋愛関係は、決してうまくいかないと聞いたことがあるんだ。」
「いいわ、じゃあ、セックスを基にしなくちゃいけないわね。」
「なんでも君の言うように、お嬢さん。」

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「If I say it back now, it'll sound so stupid. 」(「最後の恋のはじめ方」より)

MY DVD:「HITCH:最後の恋のはじめ方(2005年製作)」発売:(株)ソニー・ピクチャーズエンタテインメント TSDD-37674

原題は「HITCH」で、これはウィル・スミス演じる主人公の名前「ヒッチ」となってます。しかし、この”ヒッチ”は”ヒッチハイク”の”ヒッチ”と同じ綴り。また、動詞「hitch」には、「ぐいと引き寄せる、引き入れる」などの意味があり、「be hitched up」で「結婚する」、「hitch on」で「(仲良く)一緒にやっていく」の意味があります。
キーワードは「basic principle」。
「principle」には、「原理、原則、法則」といった意味があります。日本語字幕では「basic」と合わせて「基本ルール」と表現されています。ま、「(恋の)基本法則」といったところでしょうか。
さて、ヒッチの職業は”デート・コンサルタント”。男性がどうすれば想いを寄せる女性とつき合えるようになるかを指導すること。物語は、彼の前に、アルバートというかなり高度な不器用さを持つクライエントが現れて、超セレブな女性への想いを打ち明けられ、危なっかしい恋のやりとりが始まります。そこへとっても魅力的なサラっていう女性が登場。ヒッチの「基本法則」はここでも発揮し始めます。しかし、好事魔多し。なにやら暗雲が垂れ込めて、人生は急降下。「恋の基本法則」は総崩れ。しかし、それゆえにこそ気持ちの良いエンディングとなるのが、この映画のミソですね。

さて、ヒッチの言い分を聞いてみましょう。
「”いい男なんか要らないわ”と願う女は、まずいない。”今はタイミングがイマイチだわ”と言う女はいる。”存分に自由を楽しみたい”って女も。”男よりキャリアが大切なの”って女もいる。君は信じないだろ? そんなことを言う女は嘘をついてる。分かるかね? 大嘘だ。”タイミングが悪い”? ”自由が欲しい”? 確かにキャリアは大事。でも本音は、”私をほっといて”。あるいは、”このクドき下手!”。思い当たる? 人間の意志伝達の60%は、言葉でなくボディ・ランゲージ。30%は声の調子。つまり90%の”会話”は、言葉じゃない。彼女は相手を傷つけまいと、嘘をつく。知らない相手だから当然。幸いにも、相手がどんな美女でも、すべてはクドき方次第。だから、僕の職業が成り立つ。基本ルール。”男はいつでも、どこでも、アプローチ次第で、どんな女でも必ず落とせる”。」(日本語字幕より)
「Basic principles: No woman wakes up saying: "God, I hope I don't get swept off my feet today." Now, she might say, "This is a really bad time for me." Or something like, "I just need some space." Or my personal favorite: "I'm really into my career right now." You believe that? Neither does she. You know why? Because she's lying to you, that's why. You understand me? Lying. It's not a bad time for her. She doesn't need any space. She may be into her career, but what she's really saying is, "Get away from me now." Or possibly, "Try harder, stupid." Well, which one is it? 60% of all human communication is nonverbal. Body language. 30% is your tone. So that means that 90% of what you're saying ain't coming out of your mouth. Of course she'll lie to you. She's a nice person, she doesn't wanna hurt your feelings. What else is she gonna say? She doesn't even know you. Yet. Luckily, the fact is that just like the rest of us even a beautiful woman doesn't know what she wants until she sees it. And that's where I come in. My job is to open her eyes. Is this what you're looking for? Basic principles: No matter what, no matter when, no matter who, any man has a chance to sweep any woman off her feet. Just needs the right broom.」(英語字幕より)

「No woman wakes up saying」は、「~と言いながら目覚める女はいない」あるいは「寝起きに、~と言う女はいない」ということでしょう。そして「sweep + O + off + O's + feet」は、なんと「(愛情・幸福感・情熱・説得力などで)〈人〉を夢中ににさせる、とりこにする」の意味となります。英英辞典では「quickly and overpoweringly charm someone」で「すばやく、圧倒的に魅了する」となってました。どうしてこんな意味になるのか分かりませんが、勉強になると言いますか、楽しいですね。
「space」には「自由、放任、不干渉」という意味がありました。意外でした。
「favorite」は「お気に入りの人・物」。面白いのは競馬の「本命」も意味するようです。
「into」には「熱中して、関心を持って」という意味があります。
「get away from me」で、「近づくな」って意味になります。「now」は「さっさと、ただちに」って感じですね。
「possibly」は「~かも知れない、たぶん~だろう」となりますが、「probably」より起こる公算が小さいそうです。
「stupid」は名詞として、「ばか、まぬけ、のろま」。「stupid」と聞くと、いつも映画「スピード」を思い出します。「スピード」における犯人像は巧妙に爆弾を仕掛けて人質を取り身代金を要求する復讐鬼で、「crazy,but not stupid」つまり、「イカれてるが、バカじゃない」です。
「nonverbal」は「言葉を用いない、言葉を必要としない」の意味。
「the fact is that just like the rest of us even a beautiful woman doesn't know what she wants until she sees it.」は、随分長くて理解しにくいですね。まず、「the fact is that ~」で「真実は、(that 以下)である。」となっています。次ぎに(that 以下)を見てみますと。「(Just like the rest of us)+ even a beautiful woman doesn't know + what ~ + until she sees it.」となってます。「Just like the rest of us」で「ちょうど(我々以外の)他の人々のように」です。そして、「美しい女性さえも、(until 以下)までは(what 以下)を知らない」と言ってます。「what she wants」は「彼女が欲しいと思ってるもの」。「 until she sees it」は、「彼女がそれを(実際に)見るまで」です。余計なものを省略しますと、「美女も、実際に見るまでは自分がなにを求めているか分かっちゃいない」でしょうか。これは、直前の「She doesn't know you. Yet.」を受けている言い方ですね。「彼女はまだ君を知らない。幸いなことに、本当は、美女も自分の目で見るまでは自分が何を求めているか知らないのです。」 「doesn't know」を繰り返して、不利な「doesn't know」を、一転して有利な「doesn't know」に変換する、効果的な表現を試みてます。なるほどなって、感じ入りました。
「no matter」は「たとえ~でも」で、「whatever、whenever」などより口語的だそうです。「matter」は「事柄、問題、困難」などの意味がありますが、「no」がついて、「たとえ~でも問題としないで」という意味に使われてるようです。
「sweep + O + off + one's feet」は、最初に出てきたように、「(”Oの足をすくう”および)Oを夢中にさせる」の意です。また、「carry + O + off + one's feet」でも同じだそうです。しかし、ここでは「sweep」の「(ほうきで)掃く、掃除する」意味を利用しています。この「sweep any woman off her feet」を受けて、次の「Just needs the right broom」は、「ただ、適切な”ほうき”は必要です」と表現しています。つまり、「適切な道具」が必要なわけで、「適切な方法、適切な戦略」が必要と言ってるわけです。物語を見てみると、日本語字幕のように最初のアプローチ、きっかけ作りが大切なようですね。余談ですが、大リーグを見てると、3連戦で3連勝すると「sweep」したと言うようです。3連戦で2連勝すると、3戦目に球場のマスコットがほうきを持ってたりします。さあ、「sweep」するぞって。
とにかく、感心するほどのうまい語り口で、乗ってしまいそうです。ただ、あまりにうますぎるので、「ペリカン文書」でご紹介した、「it seems too good to be true.」って感じでしょうか。
「基本法則:次のように言いながら目覚める女はいない。”神よ、今日私をとりこにする男に出逢いませんように”。でもまあ、このようには言えるかも。”本当にタイミングが悪いの”。あるいは、”自由がなによりも必要なの”。あるいは、僕のお気に入りだと、”今はキャリアに集中してるの”。信じる? 彼女さえ信じてないさ。なぜだか知ってる? 彼女は君に嘘をついてる、それが理由さ。言ってること分かるかな? 嘘なんだ。タイミングなんか悪くない。自由なんて必要ない。キャリアに一生懸命かも知れないが、しかし、彼女が本当に言おうとしてるのは、”さあ、近づかないで”、またあり得るのは、”努力足りないわよ、バーカ”。まあ、どちらかかな? 人の意思伝達の60%は言葉を必要としないもの。ボディ・ランゲージだ。30%は声の調子。すると、君が言おうとしていることの90%は君の口から出てきてるわけじゃないってことになる。もちろん、彼女は君に嘘をついてる。彼女はとてもいい人で、君の気持ちを傷つけたくない。他にどんな言い方できる? 彼女は君を知らない。まだね。幸い、本当は、ちょうど他の人たちのように、美女さえも自分の目で見るまでは自分が何を求めているか知らないんだ。そして、そこが僕の出番なんだ。僕の仕事は、彼女の目を開けること。これこそ、君が探していたものだろ? 基本法則。何であろうと、いつであろうと、誰であろうと、いかなる男も女性をとりこにするチャンスがある。ただ、適切な方法が必要なだけだ。」

ヒッチはサラと最初に出逢ったとき、純粋にサラに興味を持つ男性として振る舞いながら、別れ際に少しつれなくこう言います。それは、サラ自身のそれまでの恋愛に対する心情を辿っているかのようでもあり、同時に彼女の心の琴線に触れる言葉でもあったようです。なぜなら、結局引かれ合う男女が結ばれずにそれなりの人生を送るだけという、つまらない先を見せられたのだから。
「2人は各々の人生を歩み続け、それはそれなりに幸せさ。」(日本語字幕より)
「They'd both probably go on to lead the lives they were headed toward. My guess is they'd do just fine.」(英語字幕より)

「They'd」と後の「they'd」は、どちらも「they would」だと考えられます。「go on」は「進み続ける、続く」。「lead」は「導く、リードする」。「lives」は「life」の複数形。「lead a ~ life」で「~な人生を送る、~な生活を送る」という表現があります。ここでは「~」にあたる部分を「lives」の後に説明しているものと考えられます。
「they were headed toward」は、自信はないですが、意味は「they were heading toward」と同じではないかと思います。「be heading for:向かっている」は、アメリカでは「be headed for」となるようです。「toward」がついた場合の例文はなかったですが、「研究社 話すためのアメリカ口語表現辞典」では、「向かう」の表現例として、「彼らは2人ともこちらへ向かっています」を次のようにしてました。
Both of them're ◎A on the way here.
◎B coming here.
○C headed here.
△D heading here.
ただし、☆:一番よく使われる、◎:非常によく使われる、○:よく使われる、△:ときどき使われる、▽:まれに使われる、×:使われない
このように「向かう」の意味の「head」は受け身で表現される方が、アメリカでは普通のようなんです。
「guess」は「憶測、推測する」で、「My guess is that ~」は「I guess that ~」と同じ。
「2人はおそらく各々が目指している人生を送り続けるだろう。彼らは立派(fine)にやり遂げると思うよ。」

しかし、次のヒッチのアタックはサラの予想を上回って、サラとの仲はとてもいい感じ。アルバートとアレグラの恋もうまく進み、とても期待を持てる状況となりました。ところが、ちょっとした思い違いから、サラはヒッチを、そしてアルバートとアレグラの仲もゴシップ記事で糾弾してしまうのでした。
自分が間違っていたことを謝りに来たサラでしたが、ヒッチの傷は深いものでした。ヒッチの最も大切なものを壊されたからでした。しかし、ヒッチも本当の事を伝えておくべきだったかも知れません。しかし、彼はこう言ってしまいます。
「僕は対人関係にいつも一線を引いてる。君との一線は、1週間前だった。」(日本語字幕より)
「I'm not someone who likes to get involved past a certain point. And that point was about a week ago.」(英語字幕より)

これまた、とても英語的な表現でした。
「get」は自動詞として、「get + 過去分詞」で「の状態になる」という意味を持つ使い方があります。「involve」は「受身」の形で、「関係する、親密な関係になる」という意味を持ちます。「past」は前置詞として、「(数・量・年齢・能力・限度・範囲などを)越えて」という意味があります。
「僕は、ある一線を越えて親密になるのを好む人間じゃない。そして、その一線は1週間前だった。」

傷心のアルバートは、しかしアレグラへの想いは消えることなく、ヒッチに「助けてくれ:I want you to fix it.(修復してくれ)」と言います。ヒッチは「僕は無力だ:I got nothing, Albert」と言うだけ。
アルバートは切ない思いを打ち明けるのでした。
「時が癒してくれるよ。」
「そんな癒しは欲しくない。彼女のことを想うために、みじめな気持ちが必要なら、僕はこれで満足だ。」
「バカ言うな。自分を変えて、状況に順応しろ。みじめな気持ちとは縁を切るんだ!」
「君は恋を分かってない。」
「バカ言え。」
「自分が売っている”商品”を君は何も理解していない。」
「愛は僕の人生だ。」
「違うね。君の商売だ。」(日本語字幕より)
「Look, you will. Just give it time.」
「That's just it. I don't want to. I've waited my whole life to feel this miserable. If this is the only way I can stay connected with her, then this is who I have to be.」
「No, you don't. You can change, you can adapt. You can make it so you don't ever have to feel like this. Ever again.」
「Oh, my God. You just don't get it, do you?」
「I get it.」
「Let me get this straight. You're selling this stuff, but you don't believe in your own product.」
「Love is my life.」
「No. Love is your job.」(英語字幕より)

「Look, you will.」はこの直前のアルバートの言葉、「I see a cab and I wanna dive in front of it, because then I'll stop thinking about her.:タクシーを見ると、その前に飛び込みたくなる。なぜなら、そうすれば、彼女のことを考えなくなるから。」の「I'll stop ~」を受けているようです。つまり、「you will stop thinking about her.」と言っているのだと思います。「Just give it time.」は「ただ、それに時間を与えなさい。」で、「時が解決してくれる」といった意味でしょう。
「That's just it.」は用例に同じものがありまして、「まさしくそれが問題だ。」となってました。「I don't want to.」は、「I don't want to give it time.」と考えます。「miserable」は「みじめな」。「僕は人生のすべてをかけて、このみじめさを感じるために待っていた。」って言ってますね。
「No, you don't.」は、実を言いますと分からないです。アルバートの発言全体を否定してることは分かるのですが、具体的にどの文章かと言うと分かりにくいです。少なくとも「I've waited my whole life ~」以下のすべてか、いずれかを否定しているはずです。順当には、やはり「I've waited ~」の文を否定してる感じですが、極端に考えて、直前の「this is who I have to be.」を否定して、「this is who you don't have to be.」と言いたいと考えられなくもありません。「make it」には「成功する、うまくいく」や「回復する」という意味があります。
「get it」は、いろいろな意味を持ちますが、ここでは「理解する、わかる」のようです。
「let me get this straight.」は「ダーク・ナイト」でもご紹介しましたように、「はっきりさせておこう」となります。「beliebe in」には、いくつかの意味があります。(1)存在を信じる、信仰する (2)〈人・能力〉信じる (3)〈事・物〉の価値〔正しさ〕を信じる などです。
「なあ、大丈夫だ。時が解決してくれる。」
「まさにそれが問題だ。そんな風にしたくない。僕はこのみじめさを味わうために今まで生きてきたんだ。もしこれが彼女とつながりを持ち続ける唯一の方法なら、これこそが、僕がなるべき姿だ。」
「いや、そうじゃない。君は変われるし、順応もできる。よくなって、ずっとこんなことを感じる必要などなくなる。二度とね。」
「ああ、なんてことだ。君は分かってないんだ。そうだろ?」
「分かっているとも。」
「はっきりさせておこう。君はこうしたことを商売にしているが、君自身が自分の商品を信じてないんだ。」
「愛は俺の人生だ。」
「いいや。愛は君の仕事なんだ。」

いつの間にか、ヒッチは人の心情を見ないようになっていたのでしょうか。ビジネスライクに、人の心を扱っていたのでしょうか。常に勝利することしか考えなくなっていたのでしょうか。

「パラシュートなしで飛行機から飛び降りたいなら、お好きに。」
「君は愛を恐れている。臆病者は僕でなく君だった。」
「どこへ?」
「スカイ・ダイビング!」(日本語字幕より)
「You wanna jump out a plane without a chute, be my guest. But forgive me if I don't join you.」
「This isn't about love for you at all, is it? This whole time, I thought I was the coward.」
「Where you going?」
「Skydiving.」(英語字幕より)
「chute」には「パラシュート」という意味もあります。「be my guest」は、快諾する言葉として「どうぞご自由に」の意があり、反語的に「勝手にしなさい」という意味もあるようです。
「coward」は「臆病者」。
「パラシュートなしで飛行機から飛び降りたいなら、どうぞご勝手に。でもそこへ参加しなくても、許してもらいたいね。」
「これらは君にとっては愛などとはまったく違うんだ。そうだろ? ずっと、僕が臆病者だと考えてたよ。」
「どこへ行く?」
「スカイ・ダイビング。」

だめと分かっていても、自分の気持ちに正直に生きること。それも愛ですね。アルバートの”スカイ・ダイビング”はアレグラにすべてをさらけだすことなのでしょう。もう、「当たって砕けろ」の心境でしょうか。余談ですが、アニメ「時をかける少女」の中で、「砕けて、どうする」って意外と抑えたセリフがありました。なかなかでした。

さて、アルバートとアレグラの仲はどうなるのでしょう。それは映画を観た方のお楽しみ。ただ、「プライドと偏見」でエリザベスの姉、ジェーンとビングリーのカップルのことを父ベネット氏がお人好しと語ったように、アルバートとアレグラもお人好し同士のカップルになりそうな気がしますね。
ヒッチは、サラのところへ走ります。しかし、ヒッチはメロメロで、いつものスマートさは微塵もありません。しかも、サラは部屋を片付けて、ハンサムな男性と出て行くところ。そして、こう言われます。
「こう言ったわね? ”別々の人生を歩めば、それなりに幸せ”と。」
「”それなりの幸せ”で満足? "すばらしい人生”もある。」
「ないわよ。」(日本語字幕より)
「Maybe it's like what you said. We should just both go our separate ways and then we'll do just fine.」
「What if fine isn't good enough? What if I want extraordinary?」
「No such thing.」(英語字幕より)

痛いところをつかれてしまいました。
「separate」は「ばらばらの、個別の」。
ヒッチは「”fine”じゃ十分ではないとしたら?」って言ってます。
「extraordinary」は「非常な、驚くべき、途方もない」。
「たぶんあなたが言ったことはこのようだと思うけど。私たちは2人それぞれの道を行くべきで、2人は立派(fine)にやれる。」
「もし立派(fine)では十分じゃなかったら? もし僕が最高を求めたら?」
「ないわよ、そんなの。」

「fine」にひっかけた会話が続いてます。サラはマニュアル・ミッション車を運転しようとしますが、動揺して、今にもエンストしそうです。ハンサムな男性が、声をかけます。
「大丈夫?」
「もちろんよ。」
「大丈夫なもんか!」(日本語字幕より)
「You okay?」
「Yeah. No, I'm fine.」
「You'll never be fine, and neither will I!」(英語字幕より)

確かに見るからにサラの運転は大丈夫そうには見えません。しかし、ここでヒッチが言いたいのは、運転のことではなく、2人が別々の人生を送っても、互いに”fine”じゃないということです。2人がそれぞれ”fine”になると言う前提すら、もう幻想に過ぎないと言ってるわけです。
「大丈夫?」
「そうね。いえ、”fine”よ。」
「君は決して"fine”にはならないし、僕もならない!」

「僕に”空を飛べる”と思わせた人はたった一人。君だよ。」
「私が好きなの?」
「愛してる。初めて会った時から。」
「先に言われてしまったわ。」(日本語字幕より)
「And there's only one person that makes me feel like I can fly. That's you.」
「So, you kind of like me?」
「No. I love you. I love you, and I knew it from the first…」
「If I say it back now, it'll sound so stupid.」(英語字幕より)

「たった一人だ。僕に空を飛べると思わせた人は。それは君だ。」
「つまり、私を好きになったみたい?」
「いや。愛してる。君を愛してる。俺は最初から分かっていた…」
「私がそれ(と同じ事)言い返したら、バカみたいに聞こえちゃう。」
めでたし、めでたし。

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「 See, madness, as you know, is like gravity. All it takes is a little push.」(「ダーク・ナイト」より)

MY DVD:「THE DARK KNIGHT:ダーク・ナイト(2008年製作)」発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ GAC-Y2495

シリーズの最高傑作と評価の高い作品ですが、私、恥ずかしながら、実際に見るまで、”ダーク・ナイト”は「dark night;暗い夜」とばかり思ってました。「the dark knight:暗黒の騎士」だったのですね。
さて、物語は冒頭、ジョーカーの度肝を抜く銀行強盗から始まります。その異常なプランから、ジョーカーの異様さが見ている者に伝わります。一方、バットマン、つまりブルースをとりまく人々の、それぞれのキャラクターを存分に示した会話が披露されてゆきます。

ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)とアルフレッド(マイケル・ケイン)。
「休日の尾行は断ります。」
「休日があるのか?」
「限界です。ブルース様。」
「バットマンに限界はない。」
「あなたにはある。」
「知りたくない。」
「もし知る日が来たら?」
「”だから言ったのに”と、君が言う。」
「私も、その日には言いませんよ。たぶんね。」(日本語字幕より)
「I trust you don't have me followed on my day off.」
「If you ever took one, I might.」
「know our limits, Master Wayne.」
「Batman has no limits.」
「Well, you do, sir.」
「Well, can't afford to know them.」
「And what's gonna happen on the day that you find out?」
「We all know how much you like to say "I told you so."」
「On that day, Master Wayne, even I won't want to. Probably.」(英語字幕より)
まずは、「have + O + 過去分詞」で「人に~させる」”使役”の形が出てきました。「私のオフの日に私に追跡はさせないと信じてますが。」となります。
これに対し、「If ~, S + might」で過去形の仮定を使ってるので、この時制では、『現在の事実に反対の仮定をあらわす(東京研究社、新自修英文典 参照)』だったですね。「もし~なら、~だろう。」と言ってます。
「limit」は「限界」。
「can + afford + to」で「~する余裕がある」という意味になります。「can't + afford + to」では「~する余裕がない」になりますね。「can't + afford + not + to」は「ローマの休日」でご紹介しました。また「プライドと偏見」では、エリザベスの親友シャーロットの言葉として、「Not all of us can afford to be romantic.」がありました。自分が結婚相手として選ばれる自信のない彼女は、「皆が皆、(結婚に)ロマンチックになれる余裕はない」と言うのでありました。
さて、ブルースとアルフレッドの2人は長い間柄。若い主人と古株の執事。しかし、悪くない関係です。互いが言いたいことを言い合える仲といった感じ。
「私のオフの日に、追跡はさせないとは信じてますが。」
「休暇をとるようなことがあったら、そうするだろうね。」
「限界を知らないと、ウェイン様。」
「バットマンに限界はない。」
「いや、あなたにはございます。」
「いや、限界を知る余裕はない。」
「では、知る日が来たら、どうなるので?」
「お互い、きみがどんなに”だから言ったのに”と言いたいか知ってるよね。」
「そんな日に、ウェイン様、申し上げたくなどないです。たぶん。」

レイチェル(マギー・ギレンホール)とデント(アーロン・エッカート)。
「心配したわ。」
「僕の代役をと?」
「ハービー。私も準備万端よ。」
「じゃ、問題ない。表なら僕が担当、裏なら君だ。」
「コインで決める気?」
「父の”幸運のコイン”さ。君とのデートも...」
「コインが招いた幸運?」
「違う。僕が引き寄せた。」(日本語字幕より)
「Where were you?」
「Worried you'd have to step up?」
「Harvey, I know these briefs backwards.」
「Well, then... fair's fair. Heads, I'll take it. Tails, he's all yours.」
「Yeah? You wanna flip a coin to see who leads?」
「My father's lucky coin. As I recall, it got me my first date with you.」
「I wouldn't leave something like that up to chance.」
「I don't. I make my own luck.」(英語字幕より)
「step up」には「昇進する」意味があります。ここではデントが遅れた場合、レイチェルが法廷で代行するためには身分を上げる必要があるようです。
「backwards」は「backward」と同意で、「逆さまに」といった意味があります。
「fair's fair」で「(お互い)公正にしよう」という意味。「heads」は複数形ですが単数扱いとのことです。コインの表に王や王女の頭像があったことから、「(硬貨の)表」の意味を得たようです。「tails」も同様で、単数扱い。こちらは「裏」を意味します。硬貨を投げて物事を決める場合に使うようですね。
「flip」は「ピンとはじく」。
「as I recall, ~ = You might [will]」は「確か~、ほら~、例の~、あの~」といった感じのようです。
「leave + O2 + to + O1」で「O2をO1に任せる」という意味になるようです。「He left everything to chance.:彼はいっさいを運に任せた。」や「You must leave nothing to chance.;何事も運任せにしてはいけない。」などが例文に見つかりました。「up + to + 〈人〉」で「〈人〉次第で」という意味があります。ここでは「運」を擬人化して、「up」をつけて意味を強めている感じです。
こちらは新しい関係。新任地方検事、デントの風変わりなこだわりが披露されます。そして2人の仲も。
「どこにいたの?」
「昇進しなくてはと心配してた?」
「ハービー、これらの書類は逆さまだって分かるわ。」
「そう、じゃあ、公正にやろう。表なら、僕が取る。裏なら、彼は皆君のものだ。」
「そう? あなたは誰が主導権を取るかコインをはじきたいの?」
「父のラッキー・コインだ。例の君との最初のデートをつかんだのも。」
「私は運次第のそのようなものに任せはしないわ。」
「僕もだ。自分の運は自分で招く。」

デントとゴードン(ゲイリー・オールドマン)。
「紙幣に放射線処理。高価だ。協力者が?」
「政府系機関に...」
「バットマンでは?」
「ならず者の自警市民だ。我々も追ってる。」
「あの投光照明は?」
「故障してるだけだ。メンテナンス部に連絡を。」
「私はマフィアと戦ってきた。だが資金洗浄は、なくならない。君と君の協力者は、資金を断つという手段に出た。大胆な捜査法だ。私も入ろう。」
「関係者が増えると、腐敗が起こる。」
「君の部下たちこそ汚職警官だ。内務調査部で私が調べた。」
「私1人では組織犯罪とは戦えない。私は理想主義者じゃない。できることを、やるだけだ。」
「私に5つの銀行への捜査令状を出せと? 隠し事をしたまま?」
「銀行の名は言える。」
「進展ありだ。令状は出す。私を信じろ。」
「分かってるさ。君は有名な”光の騎士”だ。」
「現場では、悪名も高いらしいな。」
「初耳だ。」(日本語字幕より)
「Lightly irradiated bills. Fancy stuff for a city cop. Have help?」
「We liaise with various agencies...」
「Save it, Gordon. I wanna meet him.」
「Official policy is to arrest the vigilante known as Batman on sight.」
「Mm-hm. What about that floodlight on the top of MCU?」
「If you got problems with malfunctioning equipment... I suggest you take them up with Maintenance, counselor.」
「I've put every money launderer in Gotham behind bars...but the Mob is still getting its money out. I think you and your friend have found the last game in town. You're trying to hit them where it hurts, their wallets. It's bold. You gonna count me in?」
「In this town, the fewer people know something, the safer the operation.」
「I don't like that you got your own special unit...and it's full of cops I investigated at Internal Affairs.」
「If I didn't work with cops you'd investigated while at IA...I'd be working alone. I don't get political points for being an idealist. I do the best I can with what I have.」
「You want me to back warrants for search and seizure on five banks...without telling me what we're after.」
「I can give you the names of the banks.」
「Well, that's a start. I'll get you your warrants, but I want your trust.」
「Oh, you don't have to sell me, Dent. We all know you're Gotham's white knight.」
「Yeah, well, I heard they have a different name for me down at MCU.」
「I wouldn't know about that.」(英語字幕より)
「lightly」は「少しばかり、かすかに」。「irradiate」は「放射線を当てる」。「fancy」は米国用法として「高級な、極上の」という意味があります。
「liaise」は「連絡をつける」。「various」は「さまざまの」。「agency」はこの場合米国用法として「政府機関」の意。
「Save it!」の表現には、「(空席を見つけて)その席を取ってくれ:(黒板の数字などを)消さないでくれ;黙れ、口を出すな、その話はよしてくれ」などの意味があるようです。ここでのセリフには感嘆符「!」はついていませんが、「黙れ」とか「その話はよしてくれ」はぴったりの感じですね。
「official」は「職務上の、公式の」。「policy」は「方針」。「arrest」は「逮捕する」。「vigilante」は「自警団員」。「on sight」は「at sight」と同様とされています。これには「見てすぐに」という意味があります。ここでは、「見ているところで」から「現場で」と言った意味になってると思われます。似た語感で「on-site」は「現場で」という意味があります。
「floodlight」は「投光照明」。申し訳ありません。「MCU」について調べられませんでした。建物の名前の省略形なんだと思いますが、Gotham Cityの地図を見ましたが、該当するものを見つけられませんでした。
「malfunction」は動詞として「うまく動かない」。「equipment」は「装置」。「take ~ up」で「~にとりかかる」。「maintenance」は「保守、メンテナンス」。頭文字が大文字になっているので、「保守管理」部門があると思われます。「counselor」は「カウンセラー、弁護士、法廷専門弁護士」。ここでのデントは「地方検事」のようです。
「launderer」は〈不正な金を〉(銀行などを転々とさせて)出所を隠す意味の動詞「launder」の名詞形。ここでは資金洗浄している人間を示しているようです。「behind bars」は「獄中で、刑に服して」の意味がありました。「mob」は「暴徒」ですが、「the Mob」で「マフィア」を意味するようです。「get out」で「取り出す」。「the only game in town」で「最上の[最も重要な]もの;関心に値する唯一のもの」という意味があります。ここでの「the last game in town」はこれと同じ意味、あるいはもじったものだと思われます。 「hurt」は「痛みを感じる」。「bold」は「大胆な、勇気のある」。「count ~ in」で「~を仲間に入れる」の意味になります。
「the + 比較級, the + 比較級」で、「~すればするほど、ますます~」の意味を表す(東京研究社、新自修英文典 参照)ことになります。
「investigate」は「調査する」。「Internal」は「内部の」。「affair」は「業務、問題」。「Internal Affairs」は、警察内部の不正などを扱う部門のようです。「リーサルウエポン3」では、女性のレネ・ルッソがローナー・コール刑事として「INTERNAL AFFAIRS」と書かれたファイルを手に持って登場します。そのときの日本語字幕では「"内務監査部”」となってましたね。
「political」は「政治の、政治的な、政略の」。「point」は「目的、目当て」という意味があります。「idealist」は「理想家、理想主義者」。
「back」は他動詞として、「後援する、裏書きする」などの意味があります。「warrant」は「令状」。「search」は「捜査」、「seizure」は「押収」。
元内務監査官の地方検事と、警部補。水と油のような仲でありながら、今互いに助けを必要とする関係でもあります。
「かすかに放射線を当てた紙幣。市警にとっては高級品だ。助けがある?」
「我々はさまざまな政府機関とつながりを持ってます。」
「黙るんだ、ゴードン。彼に会いたいんだ。」
「公式方針は、巷で”バットマン”と知られている自警市民は逮捕することになっています。」
「MCUの屋上のあの投光器はなんだ?」
「もし、不具合機器で問題がおありでしたら、保管部に問い合わせるのが良いかと思います。地方検事。」
「私はゴッサムの資金洗浄する奴らを皆堀の中に入れてきた。しかし、いまだにマフィアは資金を取り出している。察するに、君と君の友人は最上で最後のものを見つけたようだ。君たちがやろうとしているのは、奴らの痛いところ、奴らの財布をつくことだ。大胆だ。私も仲間に入れてくれるんだろうな?」
「この街では、知ってる者が少なければ少ないほど、作業はより安全となります。」
「君が自身専用の特別チームを組んでいることは気に入らないな。私が内務監査部で調査した警官満載だ。」
「もしあなたが内務監査部にいた頃調査した警官たちと働かないとなると、私は1人で働かなくてはなりません。私には理想家でいるための政略的な目的など持ち合わせていません。私は私の持てるものでベストを尽くすだけです。」
「君は私に、5つの銀行の捜査および押収令状の承認を欲しいと。それでどうなるか私に言うことなしに。」
「銀行の名前はお教えできます。」
「それが手始めだな。君の令状は取ろう。しかし、私が欲しいのは君の信頼だ。」
「いや、私になど売り込む必要はないです。私たちは皆あなたがゴッサムの光の騎士だと知ってますから。」
「ああ、しかし、MPUの下じゃ、私を違う名で呼んでるらしいな。」
「それは知りませんな。」

フォックス(モーガン・フリーマン)とブルース。
「また徹夜を? 今回の合弁事業は、あなたの案ですが。危険です。ラウ社の伸び率は、毎年決まって8%。おそらく裏帳簿がある。違法行為がね。」
「分かった。中止だ。」
「承知でしたか。」
「財務記録が必要だった。」
「ほかに必要なものは?」
「新しいスーツを。」
「確かに、3つボタンは古い。」
「ファッションより機能性だ。フォックス。」
「首を回したいと?」
「車のバックが楽だ。」
「作ってみます。」(日本語字幕より)
「Another long night? This joint venture was your idea, and the consultants love it. But I'm not convinced. Lau's company has grown by 8 percent annually like clockwork. His revenue stream must be off the books...maybe even illegal.」
「Okay. Cancel the deal.」
「You already knew.」
「Just needed a closer look at their books.」
「Anything else you can trouble me for?」
「I need a new suit.」
「Yeah. Three buttons is a little '90s, Mr. Wayne.」
「I'm not talking fashion, Mr. Fox, so much as function.」
「You wanna be able to turn your head.」
「Sure make backing out of the driveway easier.」
「I'll see what I can do.」(英語字幕より)
「night」は「日没から日の出まで」を言うそうです。ちなみに「evening」は「日没から就寝まで」だそうです。「joint」は名詞では「関節、接合箇所」を言いますが、形容詞で「共同の」の意味があります。「venture」は「adventure」の頭の部分が取れた言葉なんだそうで、「adventure」は「突然降りかかってくる刺激的な(わくわくする)冒険」を言うのに対し、「venture」は「結果予測のできない(危険な)冒険」を意味するようです。そして「投機的事業」も意味します。「consultant」は「(専門的意見・助言を提供する)顧問」などを意味します。「convince」は「納得させる、確信させる」。「annually」は「毎年」。「revenue」は「歳入、収入総額」。「stream」は「連続、傾向」。「off the books」は「帳簿外で」。「illegal」は「法外の、違法の」。
「a close look」は「a good look」と同意で、「丹念に見る、詳しく調べる」ことを意味しています。
「anything else」で「他になにか?」ってなります。「trouble」は動詞として、「迷惑をかける、めんどうをかける」意があります。「Can I trouble you for a cigarette?」で「すみませんが、タバコを1本いただけませんか?」、「May I trouble you for the pepper?」で「すみませんが、こしょうを取ってくださいませんか?」になります。
「not so much as 〜」で「〜ほどではい」という意味になります。ここでは、「not」と「so much as」は離れていますが、この形だと言えそうです。そうすると、日本語字幕より少し味わいのある表現であることが分かります。
「Sure make backing out of the driveway easier.」は、次のように分解します。
(Sure) + (make + backing out of the driveway + easier)
(Sure)と以下の間には、「to」が省略されてると考えて良さそうです。「sure」は「確信している、きっと〜する」。「make」以下は、(make + 目的語 + 状態)となっていて、「〜を〜の状態にする」ってなります。「driveway」は「(道路から家・車庫などへ通じる)私設車道」なんだそうです。
フォックスは、ウェインの会社の右腕であり、バットマンの技術顧問のような存在です。多くを語らなくとも、わかり合える仲と言えるでしょう。
「また長い夜で? この度の合弁事業はあなたのアイデアでした。それに顧問たちもとても気に入ってます。しかし、私は納得していません。ラオの会社は毎年時計のごとく正確に8パーセント成長しています。彼の継続的収入は、帳簿外のものに違いありません。しかも違法でさえありえます。」
「オーケー。取引を中止しよう。」
「すでにご存じでしたか。」
「彼らの帳簿をより詳しく調べたかっただけだ。」
「他に何か差し上げられることは?」
「新しいスーツが欲しいな。」
「ええ。3つボタンは少々90年代っぽいですな、ウェイン様。」
「ファッションのことは、フォックスくん、機能のことほど言ってないんだがね。」
「首を回したい。」
「車道からバックで抜けるのがきっと楽になる。」
「私でできることを検討しましょう。」

アルフレッドは、ジョーカーが想像を超えたとても危険な敵であることを理解してました。アルフレッド自身がビルマで体験した山賊を例にとって説明するのであるが、彼は宝石を盗んだが、売ることもせず、捨ててしまったと言うのである。ブルースはなぜ彼は宝石を盗んだと聞く。
「世の中には、金など目じゃない悪党もいる。脅かしも理屈も通じず、交渉も成り立たない。世界が燃えるのを見て喜ぶ連中です。」(日本語字幕より)
「Because he thought it was good sport. Because some men aren't looking for anything logical, like money. They can't be bought, bullied, reasoned or negotiated with. Some men just wanna watch the world burn.」(英語字幕より)
「なぜなら、彼はそれが面白いスポーツだと思ったから。なぜなら、金のような理屈に合うものをなにも求めない奴らもいる。奴らは、買収されることもなければ、脅されることもない。説得されることもなければ、交渉を受け入れることもない。ただ、世界が燃える尽きるのをながめたいと思っている輩(やから)なんです。」

弁護士リースがウェイン社の秘密に気がついたという。ウェイン社がバットマンの武器を大金をつぎ込んで開発していると。しかし、フォックスはまるで楽しいものでも見つけたかのような目をして答えるのだった。
「口止め料は、年間1000万ドル。僕が死ぬまでだ。」
「では、こうか。君の有力な顧客にして、世界有数の資産家である男が、謎の自警市民で、毎晩街に出て丸腰で犯罪と戦っている。君は、そんな男から金をゆすろうと? 名案だな。」
「これは返す。」(日本語字幕より)
「I want $10 million a year for the rest of my life.」
「Let me get this straight. You think that your client, one of the wealthiest, most powerful men in the world, is secretly a vigilante who spends his nights beating criminals to a pulp with his bare hands, and your plan is to blackmail this person? Good luck.」
「When-- Keep that.」(英語字幕より)
「million」は「100万」。「rest」には3種類あります。ここでは「「休息」ではなく、「残り」の意味の「rest」です。「for the rest of one's life」で「その後死ぬまで」の意。
「let me get this straight」で「はっきりさせておこう」となります。「client」は「依頼人、顧客、得意客」。「wealthiest」は「wealthy:裕福な」の最上級。「secretly」は副詞で「内密に、ひそかに」。「spend」は、「使う、過ごす、費やす」。「beating」は「beat」の現在分詞で、「たたく、撃退する、追い出す」意があります。「criminal」は名詞で「犯罪者」。「pulp」は「どろどろしたもの」。日本語になっている”パルプ”はここから来ているのでしょう。「beat a person to a pulp」で「〈人を〉たたきのめす」となります。「bare」は「裸の」。「with one's bare hands」で「素手で」となります。ここでは日本語字幕が「丸腰で」と言っているように、バットマンが拳銃で相手を殺したりしていないことが語られてるのだろうと思います。
「blackmail」は動詞として「恐喝する」。
「私の要求は、年間1000万ドル。死ぬまでだ。」
「はっきりさせておこう。君は、君の顧客で、世界で最も裕福で最も力のある人物のひとりである方が、夜を素手で犯罪者たちをたたきのめすことに使っている密かな自警市民と考えている。そして君の計画は、この人を恐喝すること。幸運を祈るよ。」
「これは持っててくれ。」

ジョーカーは、バットマンが自らの正体を明かさなければ人を殺し続けると言う。ブルースはあらゆる手を尽くすが、ジョーカーの正体どころか、ジョーカーに近づけもしない。
「人が死んでいく。僕はどうすればいい?」
「屈さずに耐えるんです。ブルース様。市民に憎まれても、バットマンなら、もともと社会のはぐれ者。人にできない決断が下せます。正しい決断が。」
「ここがバットマンの限界だ。憎しみには耐えられない。”だから言ったのに”か?」
「今日は気分じゃありません。...だから言ったのに。私も捕まるでしょうな。共犯として。」
「共犯? 僕は、君が黒幕だと言うつもりだよ。」(日本語字幕より)
「People are dying, Alfred. What would you have me do?」
「Endure, Master Wayne. Take it. They'll hate you for it, but that's the point of Batman. He can be the outcast. He can make the choice that no one else can make. The right choice.」
「No, today I found out what Batman can't do. He can't endure this. Today you get to say "I told you so."」
「Today, I don't want to. But I did bloody tell you. I suppose they're gonna lock me up as well...as your accomplice.」
「Accomplice? I'm gonna tell them the whole thing was your idea.」(英語字幕より)
「endure」は動詞で、「耐え抜く」。「take it」で「(困難・非難などに)耐える」という意味があります。「outcast」は「追放された人、浮浪者、のけ者」。「choice」は「選択」。
「find out」は〔「(隠された、または知られていない事実を)見つけ出す」が本義〕だそうです。「探り出す、気がつく」という意味になります。「S + get + to + do」で「〜するようになる、する機会を得る」となります。
「bloody」は「ひどく、やけに(very)」の意。「suppose」は「思う、考える」で、通例「think」より意味の軽い語となってます。「lock up」で「刑務所に入れる」の意があります。面白いのは、「lock O up and throw away the key:鍵をかけて、キーを投げ捨てる」で「終身刑にする」という意味になるそうです。「accomplice」は「共犯者、共謀者」。
「人が死んでいく、アルフレッド。君なら私に何をさせる?」
「耐え抜くのです、ウェイン様。耐えるのです。このことで憎まれるでしょう。しかし、それこそがバットマンの核心となります。彼は社会から追放される身になり得ます。彼なら誰にもできない選択をすることができます。正しい選択です。」
「いや、今日バットマンのできないことが分かった。彼にこのことは耐えられない。今日、君は”だから言ったのに”ということができるな。」
「今日、私は言いたくなどありません。しかし、あれほど言ったのに。思うに、刑務所に入れられるでしょうな、あなたの共犯者として。」
「共犯者? 私はすべては君の考えだと言うつもりだよ。」

しかし、バットマンは身代わりを立てることになる。レイチェル・ドーズはその不満をアルフレッドに。アルフレッドは自分の信じることをレイチェルに伝えるのだった。
「でも黙って見てた。」
「ブルース様とデント様は、おそらく信念で行動されたのでしょう。憎まれてもバットマンには、すべきことがあると。犠牲的精神です。ヒーローになるのでなく、街を守るために。」(日本語字幕より)
「He just stood by.」
「Perhaps both Bruce and Mr. Dent believe that Batman stands for something more important than the whims of a terrorist, Miss Dawes...even if everyone hates him for it. That's the sacrifice he's making. He's not being a hero. He's being something more.」(英語字幕より)
「stand by」には「そばに立つ」のほかに「傍観する」の意味があります。
「stand for」は「味方する、ために戦う」意味があります。ここではレイチェルの言う「stand by」を受けて、そうではなくて、「stand for」なんだと言い換えた表現に、この会話の質の高さを感じました。「whim」は「気まぐれな思いつき」。「terrorist」は「テロリスト」。「sacrifice」は「いけにえ、犠牲」。
「彼はただ傍観してた。」
「おそらく、ブルース様とデント様は、バットマンはテロリストの気まぐれよりもっと大切なもののために戦うのだと信じておられるのです。ドーズ様、このためにすべての人から憎まれたとしてもです。これこそがバットマンが選んだ犠牲なのです。彼はヒーローであろうとしているのではありません。彼はもっと上のものであろうとしているのです。」

市民に大きな試練がきます。一方は善良なる市民のみのグループ。一方は囚人たちのグループ。どちらかが一方を爆破する通信機を押さなければ、時刻になれば両方爆破すると。囚人グループでは、風格のあるリーダー格の黒人が詰め寄ってきます。
「お前には人は殺せねえ。生き残るためでも。俺に渡せ。さもなきゃ、こいつらはお前を殺して奪うぞ。渡せ。皆には力ずくで奪われたと言え。渡すんだ。10分前にすべきだったことをしてやる。」(日本語字幕より)
「You don't wanna die but you don't know how to take a life. Give it to me. These men will kill you and take it anyway. Give it to me. You can tell them I took it by force. Give it to me, and I'll do what you should've did 10 minutes ago.」(英語字幕より)
「お前は死にたくない。しかし、人の殺し方なんて知らない。それを俺に渡すんだ。いずれにせよ、こいつらはお前を殺してそれを取り上げるだろう。俺に渡すんだ。俺が力ずくで取ったと言えばいい。渡すんだ。そうすれば、お前が10分前にすべきだったことを俺がしてやろう。」
このあと、ここで起こったことに私はなんと驚いたことでしょう。

ジョーカーの予想を超えた、次々と用意された仕掛け。それらは容赦なく、人の心に襲いかかってきます。”覚悟せよ。度肝を抜かれる”のコピーは、見た者しか分からない。ジョーカーはそれらを軽々とやってのけるのである。
「お前も知っての通り、”狂気”は重力のようなもの。人は、一押しで落ちてく。」(日本語字幕より)
「See, madness, as you know, is like gravity. All it takes is a little push.」(英語字幕より)

我々の心も、たった一押しで狂気に落ちていくのかも知れません。いとも簡単に。

ジョーカーに勝つことはむずかしい。しかし、乗り越えることで、心で打ち勝つことは出来るのかも知れません。バットマンは5人の犠牲者を出した罪を自分がかぶると言う。そして、ゴードンに自分を追うよう指示を出させるのだった。しかし、逃げるバットマンを見守る人間がもう1人いた。ゴードンの息子だ。
「悪くないのに?」
「彼は街に必要な人だ。ただし今は”時”が違う。だから追う。だが彼は強い。彼はヒーローじゃない。沈黙の守護者。我々を見守る監視者。”暗黒の騎士”だ。」(日本語字幕より)
「He didn't do anything wrong.」
「Because he's the hero Gotham deserves, but not the one it needs right now. So we'll hunt him because he can take it. Because he's not our hero. He's a silent guardian, a watchful protector. A dark knight.」(英語字幕より)
「deserve」は「受けるに値する」。「guardian」は「守護者」。「watchful」は「用心深い、油断のない」、あるいは「不眠の」。
「彼は何も悪いことはしていない。」
「なぜなら、彼はゴッサムが受けるに値するヒーローだが、今必要とされてる者ではないから。だから我々は彼を追う。彼は耐えることができるのだから。なぜなら彼はヒーローではない。彼は沈黙の守護者、油断のない保護者。暗黒の騎士だ。」

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「 what matters is what you believe.」(「ダ・ビンチ・コード」より)

MY DVD:「THE DAVINCI CODE:ダ・ビンチ・コード(2006年製作)」発売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテイメント TSDD-40862

なにやら、ヨーロッパの深く閉ざされた不思議な歴史の闇の世界に招かれたかのような物語。世界史が苦手な私でも、わくわくしながらの映画でした。
今回は見つかったメッセージなどを中心にたどってみます。種明かしはしませんけどね。

トム・ハンクス演じるラングドン教授。彼の講演での語りは、そのままこの物語への招待のメッセージとなっています。
「我々は、過去を知ることにより、現在を理解できるのです。”真実だ”と信じることと、真実をどう見分けるのか。私たちのことを伝える歴史をどう書き残せばいいのか。何世紀もの長きにわたって、歪められた歴史から、元の真実を掘り起こせるのか。今夜は、その探求の旅です。」(日本語字幕より)
「Understanding our past determines actively our ability to understand the present. So how do we sift truth from belief? How do we write our own histories, personally or culturally and thereby define ourselves? How do we penetrate years, centuries, of historical distortion to find original truth? Tonight, this will be our quest.」(英語字幕より)
さすが教授の講演とあって、難しい表現となってます。
「determine」は「決定する」、「actively」は「活動的に、能動的に」。
「sift」は元々「ふるいにかける」という言葉から来ているようです。間違いやすいのは、「移す」という”シフト”は綴りの違う「shift」なんです。したがって、「sift」には、「ふるいわける」や「厳密に調べる、吟味する」という意味があります。「belief」は「信じること」なんですが、実は「(証拠なく真実と)信じること」と辞書にあります。また、「belief」には、興味深いことに「信仰」という意味もあります。
「personally」は「個人的に」、「culturally」は「文化的に」。「thereby」は「それゆえ」。「define」は、「定義する、意味を明確にする」です。
「penetrate」は、難しい言葉で、「〈弾丸・光などが〉〈物など〉を貫通する」、あるいは「〈目が〉〈やみなど〉を見通す、〈人が〉〈秘密・偽装など〉を見抜く」という意味があります。「distortion」は、「ゆがみ、ゆがめられた状態」を意味します。
「quest」は、「探求」を意味しますが、「(中世騎士の)冒険の旅」という意味もあります。これはどうも「アーサー王伝説」で有名な「円卓の騎士」の物語に、「聖杯伝説」の要素が取り入れられて作られた、円卓の騎士による”聖杯探求の旅”を思い起こさせます。なかなか、奥の深い話です。
以上からすると、”歴史の中でゆがめられた真実を紐解き、現在にその真実を表すための探求を行う”と言いつつ、”信仰の裏で隠されてきた聖杯を探求する旅を始める”と解釈することもできそうですね。
「我々の過去を理解することは、積極的な意味で現在を理解する我々の能力を決定することであります。我々は、信じ込んでいるものからどのようにして真実をふるいわけるのか。どのようにして、自らの歴史を個人的に、あるいは文化的に記述すればいいのか。そしてそれからどのように自らを定義すればいいのか。我々は、いかにして、歪められた歴史を何世紀も切り進み、元の真実を見出すことができるのか。今夜、この講演は我々の探求の旅となります。」

その講演会に刑事が訪れます。そして、ある奇妙で、理解しがたい殺人現場に立ち会うことになった、ラングドン教授。戸惑う彼に謎の女性ソフィーが近づいて来るのでした。
まずは、被害者のダイイング・メッセージから。
「”ドラコンのごとき悪魔! 役に立たぬ聖人め”」(日本語字幕より)
「O, Draconian devil. Oh, lame saint.」(英語字幕より)
早速ひっかかるのは「draconian」なんです。意味は「ドラコンのような」あるいは、「〈法が〉厳しい、過酷な」となります。「ドラコン」じゃなくて、「ドラゴン」の間違いかと思いました。しかし、「ドラコン」はどうも人の名前のようなんです。この人は古代のアテネの立法者。紀元前7世紀後半に活動し、貴族共和制当時の習慣法を成文化するなどの「ドラコン法」を成立させた人物です。これにより貴族が作った法律等は文章にして市民に公開されることになり、貴族による法の独占を打破したとされるようです。しかし、厳格すぎる法律であったため、「血で書かれた」とも評価され、のちに殺人に関するもの以外は廃止されたとのことであります。
つまり、「ドラコン」さんが厳しすぎるということではなく、彼の成立させた法律が厳しかったようです。ですから、「ドラコンのような」よりは、「ドラコン法のような」に近いようです。
「lame」は、古英語「lama:足の不自由な」から、原義は「壊れた」となっておりまして、「貧弱な、熱意のない」などの意味があります。「saint」は「聖人」。
いきなり、ダ・ビンチどころかギリシア時代まで遡ってしまいました。で、ラングドン教授は、同じ場所に書かれていたフィナボッチ数の順番が乱れているのに気がつき、メッセージを解くヒントを得るのでした。
フィナボッチ数というのは、どの数もその前2つの数の和になっているように書かれた数列なんだそうです。
”0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21"
となります。確かに床に書かれてたのは、
”13-3-2-21-1-1-8-5”
と乱れていました。なお、"0"は省かれているようです。また、このフィナボッチ数を乱れたまま使うのか、正しい順番なのかを問うセリフがあり、表現が面白かったので、ご紹介しておきます。
「Scrambled, unscrambled?」
ここでの「scramble」は「ごちゃごちゃにする」意のもので、受け身の「ごちゃごちゃにされた」という表現になっています。スクランブル発進は、「scramble」の「緊急出撃」するという軍事的意味から来ているようです。他によく知っているところでは、「〈卵〉をフライパンでかき混ぜながら焼く」という意味がありますね。
「unscramble」は、「〈混乱状態〉を整頓する」意味があり、面白いことに「〈暗号文など〉を解読する」意味もあるようです。

ジャン・レノ演じるファーシュ警部。ソフィーから書かれたフィナボッチ数には意味がないという意見を聞いて、彼はトイレに行こうとするラングドン教授に問い直します。ラングドン教授は、あとで調べ直してみるといいます。
「戻ってから考えます。」(日本語字幕より)
「I'll take another look when I come back.」(英語字幕より)
「look」には名詞として「注視」の意も持っています。「take a good look at the paper」で「新聞に丹念に目を通す」となります。ここでは言葉にされていませんが、ソフィーが「調べた:she took a look at the message」のだけど、自分も調べてみようという言い方です。「私の目でも見てみましょう。」といった感じ。また、「another」には「もう一つの」の意の他に、「別の、異なった」という意味もありますから、「違った見方もしてみましょう」とも取れます。自分にも相手にも期待を感じさせる言い方であり、知的な言い方だと思います。

2つ目は隠れたメッセージ。
「人の欺瞞は、かくも邪悪なり」(日本語字幕より)
「So dark the con of man. 」(英語字幕より)
「con」は、「confidence」の短縮形で「信頼させて~する」意から来ているようで、本来の意味からすれば反対のような「騙す」意があり、驚いたことに「confidence man」や「con man」で「詐欺師」の意味となります。「dark」には、「〈行為・たくらみ・表情などが〉邪悪な、腹黒い」などの意味があります。

ラングドン教授は、殺人事件の検証のはずが、犯人として逃亡しながら、巧妙に仕組まれた謎解きメッセージを目の当たりにして、思わず感想を口にします。しかし、ソフィーにとっては違ってました。
「パズル。暗号。宝探しだな。」
「犯人捜しよ。」(日本語字幕より)
「Puzzles. Codes. A treasure hunt.」
「To find his killer.」(英語字幕より)

ソフィーの質問に、説明を続けるラングドン教授。この物語のキーワードとなる”聖杯”の言葉が出てきます。また、教皇がテンプル騎士団を手のひらを返したように、敵とみなし壊滅させたくだりは、スターウォーズにおけるクローン戦争後のジェダイの運命に似てますね。
「その宝物(ほうもつ)は見つかったの?」
「こう答えよう。騎士団は突然探索をやめ、聖地を捨てて、ローマに戻った。そして教皇を脅したのか、金をもらったのか、とにかくテンプル騎士団は、教皇から無限と言える権力を得た。14世紀に入ると、騎士団の力は脅威となった。教皇はヨーロッパ全土に、秘密指令を出し同時に発布。”騎士団は悪魔崇拝団であり、これら異端者の浄化は、神の使命である”と宣言した。事は速やかに精密に遂行され、テンプル騎士団は壊滅した。その日は1307年10月13日、金曜日だった。」
「13日の金曜日ね。」
「教皇は軍隊に宝物を探させたが何も見つからず、生き残ったわずかな騎士も消え、再び、”聖なる宝物”を探し始めた。」
「”宝物”って何なの? 聞いたことがないわ。」
「あるとも。誰もが知っているよ。”聖杯”と呼ばれてるものだ。」(日本語字幕より)
「Did they find it. this buried treasure?」
「Put it this way: One day the Templars simply stopped searching. They quit the Holy Land and traveled directly to Rome. Whether they blackmailed the papacy or the Church bought their silence, no one know. But it is a fact the papacy declared these Priory knights... these Knights Templar, of limitless power. By the 1300s, the Templars had grown too powerful. Too threatening. So the Vatican issued secret orders to be opened simultaneously all across Europe. The Pope had declared the Knights Templar Satan worshipers and said God had charged him with cleansing the earth of these heretics. The plan went off like clockwork. The Templars were all but exterminated. The date was October 13th, 1307. A Friday.」
「Friday the 13th.」
「The Pope sent troops to claim the Priory's treasure but they found nothing. The few surviving Knights of the Priory had vanished and the search for their sacred artifact began again.」
「What artifact? I've never heard about any of this.」
「Yes, you have. Almost everyone on earth has. You just know it as the Holy Grail.」(英語字幕より)

「Templars」は、「Templar」の複数形で、「テンプル騎士団員」。「simply」は「まったく」と、意味を強める役目もするようです。
「quit」は「放棄する、去る、立ち退く」の意。「the Holy Land」は「聖地、パレスチナ」。
「blackmail」は「ゆする、恐喝する」。「papacy」は、「the papacy」で「ローマ教皇」。「bought」は「buy:買う」の過去形。「the Church」で「ローマカトリック教会」という意味があります。
「declare」は「宣言する」。「priory」は「小修道院、修道分院」を意味しますが、「Priory」と頭文字が大文字となった特定の修道院は辞書からはうかがうことができませんでした。しかし、テンプル騎士団は、れっきとした修道会であり、同時に武器を持って戦闘を行う戦士でもあったわけです。十字軍以降、このような”騎士修道会”がいくつか誕生し、テンプル騎士団は最も有名なひとつだったとのことです。したがって、ここでの「Priory knight」は「修道騎士」と訳すことができ、「テンプル騎士団」を意味するものと考えられます。
「threatening」は「脅迫的な」。
「Vatican」はいわゆる「バチカン」ですが、「ローマ教皇庁」の意。「issue」は、「〈宣言・命令など〉を出す」。「simultaneously」は「同時に」。「all across」は前置詞として「〜の至る所に」の意。
「pope」は「the Pope」と書かれて「ローマ教皇」。「satan」は「悪魔」。「worshiper」は「崇拝者」。「charge」はこの場合、「SVO1 with (doing) O2」の形で、「(責任などを)ゆだねる、負わせる」意味があります。「cleansing」は「cleanse」の進行形で、「cleanse」は「清浄にする、浄化する」意。「heretic」は「異教徒、異端者」の意。
「go off」は、「[様態の副詞(句)を伴って]〈事が〉進む、行われる」の意味があります。ここでは「clockwork:時計のような、(時計のように)規則的な」が副詞句に使われているので、「時計のように正確に遂行された」となります。
「all but」は、形容詞もしくは動詞の前に置いて「ほとんど」の意となります。「exterminate」は「絶滅させる」。
「troop」は「軍隊」。「claim」は”苦情=クレーム”として良く知られている単語です。動詞として、「求める」や「(当然の権利として)要求する」意味となります。「「surviving」は、「survive」で「生き残る」。「vanish」は「なくなる、消滅する」。
「sacred」は「神聖な」。「artifact」は「人工の物」。
「the Holy Grail」で「聖杯」。
「その埋葬された宝物は見つかったの?」
「こう答えよう。ある日テンプル騎士団員たちは探索をまったくやめた。彼らは聖地を立ち去り、まっすぐローマに向かった。彼らがローマ教皇を恐喝したのか、教会が彼らの沈黙を買ったのかは誰も分からない。しかし、実際にローマ教皇は、無限の権限を修道騎士たち、テンプル騎士団員たちに宣言した。1300年代までに、テンプル騎士団はあまりに力を持ちすぎるまでになった。あまりに脅威となりすぎたのだ。そこで、バチカンはヨーロッパ全土で一斉に発布される秘密の命令を出した。ローマ教皇はテンプル騎士団を悪魔崇拝者と呼び、神が地上の異教徒たちを浄化することを彼にゆだねたと言った。計画は、時計のように正確に遂行された。テンプル騎士団はほぼ壊滅。その日は、10月13日、1307年、金曜だった。」
「13日の金曜日ね。」
「教皇は修道会の宝物を求めて軍隊を送ったが、何も見つからなかった。わずかに生き残った修道会騎士たちも消え、聖なる人工物の探索がまた始まった。」
「どんな物なの? そんなもの聞いたことがないわ。」
「いや、あるとも。地上のほとんどの人が聞いたことがある。聖杯としてなら君も知ってるはずだ。」

”クリプテックス”。
見たことのないからくり装置です。この装置の中に封印された秘密の地図がなければ、聖杯に近づくことはできません。
ソフィーは詳しく内部構造を説明してくれます。その中で、「無理に開けようとすると、瓶が割れる」という表現がありました。字幕で見てみますと、シンプルで英語的表現でした。
「If you force it open, the vial breaks」(英語字幕より)
「vial」は「小瓶」の意。
次に、5文字の暗号を見つけなくてはならないのですが、それぞれに26文字のアルファベトが組まれているのですから、「つまり、組み合わせは1200万通り」(日本語字幕より)となります。ここは「possibility:可能性」を使って、スマートな表現でした。
「That's 12 million possibilities.」(英語字幕より)
「1200万の可能性があるわ。」
ついでにソフィーの説明に感心したラングドン教授の感想も英語的でしたので、ご紹介しておきます。
「クリプテックスに詳しいんだね。」(日本語字幕より)
「I've never met a girl who knew that much about a cryptex.」(英語字幕より)
「クリプテックスについてそんなにもたくさんを知っている女の子に会ったことがないよ。」

ラングドン教授が友人の家に入れてもらおうとしたとき、3つの質問に答えるよう要求されます。面白かったのは、3つめの質問に対する”答え”でした。どう言ってるのか気になりました。
「そんな珍事は起こってない。」(日本語字幕より)
「Surely such a travesty has never occurred.」(英語字幕より)
「travesty」は「滑稽化したもの、にせ物」という意味があります。「occur」は「起こる、生じる」の意。
ついでに、女性をほめることばがあったので、ご紹介しておきます。
「魅力的な笑顔だ。」(日本語字幕より)
「What a lovely smile you have.」(英語字幕より)
「あなたはなんと愛らしい笑顔を持っていることか。」とは、せっかく学んだのですが、照れくさくて使えそうにありませんね。

次は、皆をイギリスに向かわせることになったメッセージ。
”教皇の葬った騎士が、ロンドンに眠る”
”彼の辛苦の果は、神の怒りを招く”
”その墓を飾るべき球体を求めよ”
”それはバラの肉と種宿る胎児を表す”(日本語字幕より)
"In London lies a knight a Pope interred
His labor's fruit a Holy wrath incurred
You seek the orb that ought be on his tomb
It speaks of Rosy flesh and seeded womb"(英語字幕より)
「lie」は「横たわる」の意。この意味の用例として、なじみのないものですが、墓標の文が紹介されていました。「Here lies the body of Roy Smith.:ここにロイ・スミスの遺骸眠る」。また、"at"や"in"の場所を示す前置詞を伴って、「〈死体が〉埋葬されている、眠っている」といった意味もあるようです。「inter」は「埋葬する」です。
「labor」は「(つらい)労働」や「(骨の折れる)仕事、労作」という意味。”つらい”という意味合いが含まれているのですね。「fruit」には「成果、報い」という意味もあるようです。「wrath」は「激怒、憤怒」。ノーベル文学賞のジョン・スタインベックの作品で、ヘンリー・フォンダ主演で映画化された「怒りの葡萄」の原題は、「the grapes of wrath」だそうです。「incur」は、「〈危険・怒りなど〉を招く」意味があります。
「orb」は「球体」ですが、「天体」・「地球」・「太陽」・「月」や「(天体の)軌道」などの意味もあるようです。「tomb」は「墓」。アンジェリーナ・ジョリー主演の「トゥームレイダー」は、「TOMB RAIDER」でした。「raider」は「侵入者」あるいは「墓泥棒」の意味があります。ハリソン・フォードのインディー・シリーズの1作目にも「レイダース:Raiders」がついていましたね。
「Rosy」は「バラのような、ばら色の」の意。「flesh」は「肉、身」。ちなみに「新鮮な」の方は、「fresh」でした。「seed」は名詞として「種」の意ですが、「精液、精子」という意味もあります。動詞としては「種をまく」となります。「womb」は「子宮」。「seeded womb」は「種のまかれた子宮」・「精子の入った子宮」などとなり、婉曲的に「胎児」を意味するものと考えられます。

さらなるメッセージ。
”聖杯”は、古のロスリンの下で待つ”
”剣と杯が門を守り、匠の美しき芸術に囲まれ”
”それは輝く星空の下で、眠りにつく”(日本語字幕より)
"The Holy Grail 'neath ancient Roslin waits
The blade and chalice guarding o'er her gates
Adorned in masters' loving art, she lies
She rests at last beneath the starry skies"(英語字幕より)
「the Holy Grail」は「聖杯」でした。「neath」は「beneath」のこと。「beneath」は「下に、すぐ下に」の意。「ancient」は「古代の、太古の」。「Roslin」は不明ですが、この映画で登場する「ロスリン礼拝堂」は「Rosslyn Chapel」であることが、英語字幕でも紹介されていました。「blade」は「葉」を意味し、「刃、刃物」の意味があります。「chalice」は「杯」。「o'er」は【詩語】とありましたので、詩などに使われる特別な単語のようです。「over」と同じようです。「gate」は「門」。
「adorn」は「飾る」の意。
「rest」は「休む、眠る」で、婉曲的には「永眠する」意があるようです。「starry」は「星の多い、星明かりの」。

物語の前半、秘密の口座があった銀行のところで、ソフィーはラングドンに質問しました。
「専門家だから?」
「何だって?」
「ソニエールは、あなたを選んだ。」
「僕よりも詳しい学者は大勢いる。彼は僕に格別の好意も持っていなかった。僕をネタにした冗談も。」
「どんな冗談?」(日本語字幕より)
「Because of your expertise?」
「I'm sorry?」
「About the Priory. Do you think that's why Sauniere sought you out?」
「I can think of dozens of scholars who know a lot more about it. Actually, I didn't think he liked me very much. Once made a joke at my expense. Got a big laugh out of it.」
「What was it?」(英語字幕より)
残念ながら、銀行の受付の登場でそのジョークも聞けずじまいでした。
しかし、もう一度ジョークについて聞いています。
「ソニエールの言った、あなたのジョークって?」
「”パトロール警官”。歴史の中をウロウロ。警官の下っ端だよ。来る日も来る日も同じ仕事。」
「ソニエールのお父さんも警官よ。人間的にすばらしい人だったと言ってたわ。人って結局、誰を守るか。何を信じるか。」(日本語字幕より)
「You never told me the joke Sauniere made of you. What was it?」
「He called me a flatfoot. A beat cop of history. Oh, a dumb policeman who just does his job day after day, of history.」
「You know, his father was one. A policeman. Sauniere said he was the most honorable man he had ever known. We are who we protect, I think. What we stand up for.」(英語字幕より)
以前にもご紹介しましたが、「flatfoot」は「警官」を意味します。フランス人であるソフィーが聞き返してないのを見ると、共通語と言えそうです。
ソニエールは、歴史の謎にのめり込んで、感情移入が過ぎたり、独自の解釈に走っている人間を良しとしなかったのではないでしょうか。少なくとも、彼の大きな秘密を解き明かす人物としては。
ラングドンは、仮説や推測と真実を明確に分けて考える人物だと言えそうです。熱意に動かされて探求している他の研究員たちと比べれば、ただ毎日同じことを繰り返しているだけの歴史の番人のように見えるのかも知れません。
だからこそ、ソニエールはラングドン教授を選んだのかも知れません。ラングドンなら、ソニエールが示した衝撃的な手がかりをも冷静に解き明かすだろうし、”聖杯”の秘密に迫るときにも何が事実かを見極めながら、真実のみを受け入れ、聖杯を葬り去ることも、聖杯を世に開かすことも求められていないことを受け入れるだろうと考えたのではないでしょうか。

ラングドンの言葉。どの謎解きのメッセージよりも強く大切なメッセージでした。
「結局は”何を信じるか”だ。」(日本語字幕より)
「So again I say, what matters is what you believe.」(英語字幕より)

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「I was dead.」「Me too.」(「月の輝く夜に」より)

MY DVD:「MOONSTRUCK:月の輝く夜に(1987年製作)」発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ DL-56265

「月の輝く夜に」は、英語で楽しめるイタリア映画っていう感じです。原題の「MOONSTRUCK」は、「気がふれた、感傷で心が乱れた」という意味です。月が狂気をもたらすという迷信、もしくは信仰のようなものが欧米にはあるようです。
昔、フランス映画は男女を描き、イタリア映画は家族を描くと言われた時代があったように思います。この映画は、ロマンティック・コメディなんですが、やはり男女の仲も家族がからんで描かれていますね。
舞台はニューヨーク。亭主と死別して独身を通していた主人公ロレッタは、友人のジョニーから求婚される。ジョニーには仲違いから長年連絡を取っていない弟ロニーがいた。ジョニーはロレッタにロニーを結婚式に呼ぶため、必ず連絡を取って欲しいと依頼して、危篤状態の母を見舞うため、一人イタリアへ発つのだった。一方ロニーは今もひどく傷ついた状態だった。ロレッタもロニーも心を閉ざして生きてきたのであったが、二人が出逢ったとき、月の狂気がゆえなのか、止めど消せぬ恋の炎が立ち上がるのでありました。

ロレッタは結婚することを父・コズモに報告し、父とともに2階で休んでいる母・ローズのもとへやって来ます。
「起きろ。」
「誰が死んだの?」
「ロレッタが結婚する。」
「また?」
(「ああ。」)
「ジョニーね。」
「虫が好かん。」
「当人の問題よ。愛してるの?」
「別に。」
「ホレたら振り回されるわ。」(日本語字幕より)
「Rose.」
「Who's dead?」
「Nobody. Loretta's getting married.」
「Again?」
「Yeah.」
「Johnny Cammareri.」
「I don't like him.」
「You're not gonna marry him, Cosmo. Do you love him?」
「No.」
「Good. When you love them, they drive you crazy...'cause they know they can. 」(英語字幕より)
なんだか、この家族どうなってんのといいたくなるような会話が続きます。
元気のなさそうなローズさんですが、だんなの浮気癖に長年悩まされたようで、今もだんなはどうも浮気をしていると感づいているようなのです。ローズさんの「結婚観」は、ちょっと傾いているような感じです。
「drive + 人 + 状態」で、「人をある状態に追いやる」となるようです。
「ローズ。」
「誰が死んだの?」
「誰も。ロレッタが結婚する。」
「また?」
「ああ。」
「ジョニー・カマレーリ。」
「やつは好かん。」
「あなたが彼と結婚するのじゃないのよ、コズモ。彼を愛してるの?」
「いいえ。」
「良かった。男どもを愛しでもしたら、やつらお前の気を狂わせてしまう。なぜなら、やつらはそうできると知ってるのよ。」

ロレッタは、ジョニーに促され、ロニーの働くパン屋さんを訪ねます。
ロニーは、心も声も言葉も、そして態度も暴力的でした。左手を失ったのも、恋人を失ったのも兄のせいだと怒りをぶちまけます。まるで、開けてはならない扉を、ロレッタが開けてしまったかのようです。ロレッタはなんとかしたくて、ロニーの住まいに乗り込みます。しかし、ロニーに「君には分からんさ」と言われたとき、彼を「狼」だと言ってしまいます。
「あなたは、利いたふうに言うけど、真実を見ていない。恋人のこともそうよ。私に言わせると、あなたは狼なの。」
「俺が?」
「ほかに言いようがないわ。あなたは狼で、彼女は罠。罠を外すために、前足をかみ切ったの。自由への代償よ。彼は関係ない。あなた自身の問題よ。罠に捕まるより、足を失うほうを選ぶ人だわ。だから、あなたは罠を恐れて、恋人を作ろうとしないのよ。痛みを繰り返すのが怖いのね。」
「何だと。」
「図星でしょ。」
「なぜ兄貴と結婚を?」
「運がないの。」
「俺は兄貴のせいで、手を無くしたんだ。君も首を切られるぞ。」
「花嫁になりたいの。」
「首なしのか?」
「前足のない狼!」
「やめてよ!」
「何すんの。」
「あのヤロー!」
「どこ行くの?」
「ベッドだ。」
「こうなったら好きにして。構わないわ。」
「まさか、君と。夢中だ。」
「私も。」
「兄貴は?」
「彼への怒りを私にぶつけて。私のすべてを奪いつくして。」
「兄貴には、何も残してやるもんか。」(日本語字幕より)
「You tell me the story, and you act like you know what it means... but I can see what the true story is and you can't. That woman didn't leave you, okay? You can't see what you are, and I see every thing. You're a wolf.」
「I'm a wolf?」
「Yeah. The big part of you has no words, and it's a wolf. That woman was a trap for you. She caught you, and you couldn't get away... so you chewed off your own foot. That was the price you had to pay for your freedom. Johnny had nothing to do with it. You did what you had to do between you and you. And now you're afraid... Because you know the big part of you is a wolf... that has the courage to bite off its own hand... to save itself from the trap of the wrong love. That's why there's been no woman since that wrong woman. Okay? You're scared to death of what the wolf will do... if you make that mistake again.」
「What are you doing?」
「I'm telling you your life.」
「Stop it.」
(「No.」)
「Why are you marrying Johnny? He's a fool!」
「Because I have no luck.」
「He made me look the wrong way, and I cut off my hand! He could make you look the wrong way. You could lose your whole head!」
「I'm looking where I have to become a bride!」
「A bride without a head!」
「A wolf without a foot!」
「Wait a minute! Wait a minute!」
「What are you doing?」
「Son of a bitch!」
「Where are you taking me?」
「To the bed.」
「Oh, God. Okay, I don't care. Take me to the bed. I don't care a about anything.」
「I don't believe this is happening.」
「I was dead.」
「Me too.」
「What about Johnny?」
「You're mad at him. Take your revenge out on me. Leave nothing left for him to marry. Leave nothing but the skin over my bones.」
「All right. There will be nothing left.」(英語字幕より)
ところで、この会話のちょっと前に、日本語字幕からは省略されてますが、
「Then he gets hit by a bus.:彼はバスに轢かれたの。」
とあります。ロレッタの前のだんながなんで死んだのか良く分からなかったのですが、交通事故だったのですね。
さて、ロニーに失恋のことは「君には分からんさ」と言われ、ロレッタは、自分の不幸を話したあと、ロニーが死をもってしても名誉を守る「狼」であるとその正体を明かして見せたのですが、どうやらロニーは好きな女性に襲いかかる「狼」の正体の方を甦させていたようです。足をかみ切る狼と女の罠とは良い発想だったと思うのですが、満月を迎える日に「狼」はまずかったのか。事態は思わぬ展開を見せます。
「The big part of you has no words」は訳しにくいところです。「have no words」は後に「for」や「to」がついて、言葉でうまく表せない」という意味になります。例えば、主語が「私」なら、「I have no words for it.」などのように、「うまく言えない」となります。「あなたの大きな部分」は「あなた」に違いないのだから、「you have no words」と考えやすいように書き換えて、「あなたはうまく言えてない」は、それらしく聞こえます。しかし、あまり考えすぎないで、「言葉を持ってない」というところで考えても良さそうです。今度は主語の方に注意を向けてみて、「part of you」で捜してみると、「part of one」で「〈人の〉心の奥底」と言う意味もありました。そこで、ロニーの心の大きな闇の部分というふうに考えてみます。すると、「あなたの中の大きな部分は言葉を失っている」とも言えます。セリフの後半で、「the big part of you is a wolf」と言っているので、冒頭の部分も「the big part of you」を説明していると考えた方が良さそうです。
「chew 」は「咬む」ことなので、特に成句としてありませんが、「chew off」は「かみ切る」ことだと分かります。いわゆる「ガム」である「チューイング・ガム」の「チューイング」は、「chewing」から来ているみたいですね。それと、「bite」も「咬む」ことで「bite off」も「かみ切る」ことです。ところで、「chew」は「かみ砕く」意で、「bite」は「かみつく」意のようです。ですから、辞書に面白い文章が紹介されていました。「Don't bite off more than you can chew.」、つまり「かみこなせない以上のものをかみ切るな」で、「消化できない量の仕事を引き受けるな」という教えになっていました。
「price」には「代価、代償」という意味があります。元々は、品物の「価格、値段」という意味です。他の同類語を集めると面白いです。サービス料金は「charge」、乗物の料金は「fare」、費用は「cost」、知的専門職に対する謝礼は「fee」だそうです。勉強になりますね。話を戻しますと、「代償」で使いたいときは、「the price you have to pay for ~」というのを覚えるといいみたいです。辞書にも用例として「The failing mark is the price you have to pay for your laziness.」がありました。「落第点が君の怠慢に対する代償である。」となってました。
「way」には、「(進むべき将来の)方向、(選択すべき)進路」という意味があるようです。ここでの「He made me look the wrong way」はそんな意味を使っているようです。直訳風にすると、「彼は私を間違った方向へ見るようにしむけた」となりそうです。そして「could」を使った仮定法で、「He could make you look the wrong way:やつは君を間違った方向を見させることができるだろう」などと言うわけです。それに対し、ロレッタは同じ「look」を使って、「I'm looking where ~」と反論しているわけです。余談ですが、一方通行の出口側には「WRONG WAY」と標識が書かれているそうです。
「I was dead.」、「Me too.」は、納得のセリフですね。二人は互いに、輝く相手とたった今出逢い、過去の自分をたった今捨てたのでした。ふたりの心情をとっても良く表していますね。残念ながら、日本語字幕の中に埋もれてました。
「take out O1 on O2」は「O1〈怒りなど〉をO2〈人・物〉にぶつける」とありました。また、「revenge」は常に「on」を使って、相手を示すようです。それぞれの例を示しますと、「She took her mistakes out on her racket:彼女は自分のミスをラケットに八つ当たりした」(この場合は、take O1 out on O2ですけどね)、「He revenged his father's death on his uncle:彼は叔父に父の死の復讐を行った」。
以上から、次のように訳してみました。ああ、なんという熱情なんでしょうか。
「あなたは私に話をして、それが意味していることを分かったかのように振るまってる。でも、私にはほんとうの話が分かるけど、あなたにはできてない。あの女はあなたを置き去りにしたんじゃないわ、いい? あなたにはあなたがなんなのか分からないけど、私には何もかも見えるわ。あなたは、狼なの。」
「おれが狼?」
「そう。あなたの中の大半の部分は言葉を失っているわ。それは狼なの。あの女はあなたにとっては罠だった。彼女はあなたを捕らえて、そしてあなたは逃げられなくなった。だから、自分で脚をかみ切ったの。あれは、自由のために支払わなければならなかった代価だったのよ。ジョニーは関係なかった。あなたは自分と自分の間ですべきことをやっただけ。そして、今は恐れているのね。なぜなら、あなたの中の大きな部分は、誤った愛の罠から自分を救うためなら、自分の手を噛み切る勇気を持つ、狼だとあなた自身知っているから。これが、あの間違った女以来、女性がいない理由なのよ。いい? あなたがあのような間違いをまた犯すなら、狼がするだろう死を恐れているのよ。」
「あんたはなにをしてんだ?」
「あなたに、あなたの人生を語ってるのよ。」
「やめろ。」
(「イヤよ。」)
「なんでジョニーと結婚する? あいつはまぬけ野郎だぞ!」
「私に運がないからよ。」
「やつは、俺に間違った方へ向けさせた。そして、俺は自分の手を切ってしまった! やつは、あんたも間違った方へ向けさせるだろう。あんたは、頭全部失うことになるぞ!」
「私は、花嫁になるべき方を向いているわ!」
「首のない花嫁だ!」
「脚のない狼よ!」
ロニーは、テーブルをなぎ倒し、ロレッタを抱きよせ、キスをする。
「待ちなさい! 待ちなさいよ!」
しかし、ロレッタもロニーにキスをする。ロニーはロレッタを抱き上げる。
「何をするの?」
「ちきしょう!」
「どこへ連れていこうとしてるの?」
「ベッドへ。」
「ああ、神様。いいわ、構わないわ。ベッドに連れて行きなさいよ。もう、なにも気にしないわ。」
「こんなことが起こってるなんて、信じられない。」
ロニー、ロレッタをベッドに寝かせる。
「俺は、死んでた。」
「私もよ。」
「ジョニーはどうなる?」
「あなたは彼にものすごく怒ってる。その恨みを私にぶつけて。結婚する彼には何も残さないで。骨の上の皮以外は何も残さないで。」
「よし。何も残さないぞ。」

ロレッタの「狼恋愛論」では「狼」が犯しかねない「死」の実行を恐れて、ロニーは恋人を作れなかったのですが、ローズさんの「人間の繁殖行動における根源論」によると、「死への恐怖」こそが男の熱情の根源となるようです。
「男が女を追う理由。」
「本能かな。」
「死への恐怖よ。」(日本語字幕より)
「Why do men chase women?」
「Nerves?」
「I think it's because they fear death.」(英語字幕より)

一方、若い教え子といつも破局を繰り返す落ちぶれた教授は、ローズに会って、素直な少年に戻ったかのようです。そして、告白とも取れる、空蝉のような自分の存在を映した、今の自分の虚ろな恋愛の遍歴を語るのでした。
「彼女は僕の正体を見破り、月光のような自分の美しさに気がつくんだ。」(日本語字幕より)
「Then she catches on that I'm just this burnt-out, old gasbag... and she's as fresh and bright... and full of promise as moonlight in a martini.」(英語字幕より)
「catch on」で「理解する、受け入れる」。「burnt-out」は「burned-out」と同じで、「燃え尽きた、疲れ切った」の意。「gasbag」は「ほら吹き、おしゃべりな人」。「promise」は「有望」。
「それから、彼女は私がただの燃え尽きた人間で、年老いたほら吹きだと見破るのさ。一方、彼女はマティーニに浮かぶ月光のように、新鮮で、聡明で、大いに前途を嘱望された存在なんだ。」
こちらは、日本語字幕の方が、とっても詩的。

さて、ロニーとロレッタは約束のオペラを観て、それなりの時間を過ごしました。しかし、ロニーはまだ目覚めた「月夜の狼」のままなのでした。
「ママは浮気に気づいている。相手の女もふしだらね。私と同じ。」
「何が?」
「分かるでしょ。」
「俺のせいか?」
「私たちは同罪よ。」
「裁けるのは神様だけだ。」
「つらいわ。」
「なぜだ? 今度は僕が、君について話そう。君が子羊なら、狼を求めやしない。求婚に、軽く飛びつくな。君に妥協は似合わないよ。愛せる男が現れるのを、なぜ待てなかった。」
「あきらめたの。」
「俺がいる。」
「遅いわ。あなたの家ね。誘う気で? 約束したはずよ。オペラに付き合ったら、すべて忘れると。私は結婚するわ。それで終わり。人は破滅を経験して、自分の人生を守る方法を学ぶのよ。あなたを好きでも、関係ないわ。感情くらい抑えられる。自分を破滅させるものには、近づかないわ。そうしなきゃ、人生の意味なんてないわ。聞いてる?」
「君と愛し合うことだけが望みだ。君と僕とが、地獄の業火に焼かれようとも構わない。過去も未来も、僕には重要じゃない。大切なのは、今の君と僕なんだ。」
「帰るわ。離して。凍え死ぬわ。」
「中に入ろう。何でもいいから入れ。ごめん。ロレッタ、愛してる。ウソだったんだ、愛が人生を輝かせるなんて。人生を破壊し、心を傷つける。それは僕たちが、完璧じゃないからだ。雪は完璧だ。星も完璧だ。僕たちは違う。自分たちで破滅に向かい、心を傷つけている。愛に苦しみながら、人生を終える。おとぎ話とは大違いだ。僕の部屋に行こう。そして、愛し合おう。おいで。さあ。」(日本語字幕より)
「You know, my mother guessed that my father was seeing somebody. That Mona... I mean, she's some piece of cheap goods. Who am I to talk?」
「What's the matter?」
「How can you ask me that?」
「You're making me feel guilty.」
「You are guilty. I'm guilty.」
「Of what? Only God can point the finger.」
「I know what I know.」
「And what do you know? You tell me my life. I'll tell you yours. I'm a wolf. You run to the wolf in me. That don't make you no lamb. You're gonna marry my brother. Why you want to sell your life short? Playing it safe is just about the most dangerous thing... a woman like you could do. You waited for the right man the first time. Why didn't you wait for the right man again?」
「Because he didn't come.」
「I'm here.」
「You're late. This is your place.」
「That's right.」
「This is where we were going.」
「Yeah.」
「You know, we had a deal. You told me if I came with you to the opera then you'd leave me alone forever. I came with you. Now I'm gonna marry your brother and you're gonna leave me alone forever, right? A person can see where they've messed up in their life and they can change the way they do things and they can even change their luck. So maybe my nature does draw me to you. That don't mean I have to go with it. I can take hold of myself. I can say yes to some things and no to other things that are gonna ruin everything. I can do that. Otherwise, you know what good is this stupid life that God gave us? Are you listening to me?」
「Yeah. Everything seems like nothing to me now. I guess I want you in my bed. I don't care if I burn in hell. I don't care if you burn in hell. The past and the future is a joke to me now. I see that they're nothing. I see they ain't here. The only thing that's here is you and me.」
「I want to go home. I'm going home. I'm freezing to death.」
「Come upstairs. I don't care why you come. That's not what I mean. Loretta, I love you. Not like they told you love is. And I didn't know this either. But love don't make things nice. It ruins everything. It breaks your heart. It makes things a mess. We aren't here to make things perfect. The snowflakes are perfect. The stars are perfect. Not us. We are here to ruin ourselves and to break our hearts and love the wrong people and die. I mean, the storybooks are bullshit! Now, I want you to come upstairs with me and get in my bed! Come on.」(英語字幕より)
人はたくさんの理屈がいるのですね。そして、それでいて、心のままに生きられるのなら、生きたいと願ってるものなんでしょうか。ほんとは心のひらめきが先で、理屈はあとから来るものじゃないかと思ってるのですが。
「That don't make you no lamb.」は不可解です。つまり、狼のもとへやってきたが、狼の餌食である、子羊の肉片にはならなかったという例えのようです。ロレッタは頑なに自分のものになろうとしないことを言ってるようです。
「Playing it safe is just about the most dangerous thing... a woman like you could do. 」も分かりづらいですね。「安全にそれを遊ぶということは、最も危険なことについてのことだ。君のような女がしそうなことだ。」って、要は「やってることは、君らしくない」ってことのようなんです。「君のような女なら、最も危険なことにだけ無難な妥協をするものだ。」って、言えそうなんですが、どうでしょうか。
「We aren't here to make things perfect.」これもなんだか訳しにくいですね。「here」には「この世、現世」って意味もありますから、「我々は物事を完璧にするためにこの世にいるわけではない」と言えなくもないです。二人が出逢って、完璧じゃないから一緒にならないという考えが間違ってることを言いたいのかも知れませんね。恋愛はロマンチックな星や雪が必要かも知れないけど、愛や人生が星や雪みたいというのは間違っているのかも知れません。ロニーはただ、人生をぶち壊しているだけの存在ではなくなったのかも知れません。壊したいのはロニーやロレッタを縛っているものであって、必要なのはロレッタの愛だと分かっているのだから。そうでなければ、ロレッタがロニーの愛に応えたわけが見つかりません。
「ねえ、母は父が誰かと会っていることを感づいているわ。あのモナ...、つまり、彼女は安物の中の片割れなのよ。あれ、誰としゃべってるのかしら?」
「どうかしたか?」
「よくまあそんなことが聞けるわね?」
「君は俺に罪を意識させてようとしてる。」
「あなたは罪を犯した。私も罪を犯した。」
「なんの? ただ神だけが、指さすことができるんだ。」
「私は私が何を知ってるか、知ってるわ。」
「それで君は何を知ってる? 君は僕の人生を語った。僕が君のを話そう。僕は狼。君は僕の中の狼に駆け込んできた。だからと言って、それで君が子羊の肉になったわけじゃない。君は兄と結婚しようとしている。自分の人生の安売りを望む理由は?君のような女なら、最も危険なことにだけ無難な妥協をするものだ。最初は君もふさわしい男を待った。なぜもう一度ふさわし男を待てないんだ?」
「そんな男は来なかったからよ。」
「俺がここにいる。」
「遅いわよ。...ここはあなたの家じゃない。」
「そうだ。」
「ここに向かって来たのね。」
「ああ。」
「わかってるでしょ。私たちは取引したわ。あなた言ったわよ、もし私があなたとオペラを観たら、それっきり私に近づかないと。私はあなたに付き合った。さあ、私はあなたの兄さんと結婚するし、あなたは私から永遠に去る、いいわね? 人は、人生の中でしくじったことが分かるし、物事をやる方法を変えることができる。また運さえも変えることができるのよ。おそらく私の本性が私をあなたに引き寄せたのかもしれない。しかしそれは、そのことに付き合わなくてはならないという意味ではないのよ。私は私を確立することができるわ。私はいくつかのことにイエスと言えるし、すべてを台無しにするその他のことにノーと言えるわ。私はそうできるの。そうでなければ、良いことというのが、この神が与えたくだらない人生ってことになるわ。あなた聞いてる?」
「ああ。すべては俺に取っちゃ意味ないってことだ。俺は君をベッドに欲しいみたいだ。たとえ地獄で燃えてもかまわない。たとえ君が地獄で燃えようとかまわない。過去も未来も俺にとっちゃジョークだ。それらにはなにもないのが分かる。それらはここにはないんだ。ここにあるただひとつのことは、君と俺だ。」
「家に帰りたいわ。家に帰るの。凍えて死にそうよ。」
「2階に来るんだ。君が来てくれる理由はなんでもいい。それは俺が意味することじゃない。ロレッタ、君を愛してる。みんなが言ってるような愛じゃないようにだ。それにそのことも知らない。しかし、愛は物事をすてきになんかしない。それはすべてをむちゃくちゃにしちゃう。それは君の心を打ちのめす。それは物事を台無しにする。俺たちはここで物事を完璧にはできない。雪片は完璧だ。星は完璧だ。でも俺たちはそうじゃない。俺たちは自分自身を台無しにして、心を打ちのめし、間違った人を愛し、そして死ぬためにここにいる。つまり、物語なんてたわごとだ。さあ、君に2階へ俺と来て欲しいんだ。そしてベッドで寝よう! 来てくれ。」

ローズさんは、「死の概念に翻弄される男性の性とその行動における考察」の結論を急いでいるようであります。キーワードは、「複数の女性」だったのかな。
「ジョニー。聞きたいことがあるんだけど、正直に答えて。なぜ男は女を追うの?」
「聖書にある。神は、アダムの肋骨でイブを造った。男は自分の骨を捜している。胸にポッカリと穴が開いているんです。最初はなかった。女性はその穴を埋めてくれる。男は女がいないと、完全な人間にはなれない。」
「なぜ複数の女性を求めるの?」
「さあ。死への恐怖かも。」
「そうよ。その通りよ。」
「確信はない。」
「間違いないわ。答えてくれて、ありがとう。」(日本語字幕より)
「Listen, Johnny, there's a question I want to ask. I want you to tell me the truth, if you can. Why do mean chase women?」
「There's the Bible story. God took a rib from Adam and made EVE. Now maybe men chase women to get the rib back. When God took the rib... He left a big hole there a place where there used to be something. And the women have that. Now maybe, just maybe, a man isn't complete as a man without a woman.」
「Why would a man need more than one woman?」
「I don't know. Maybe because he fears death.」
「That's it. That's the reason.」
「I don't know!」
「Thank you for answering my question.」(英語字幕より)

ローズさんは、論理家だけでなく、実践派でもあったようです。しかし、むしろ卓越しているのは、だんなの方かも知れません。
「どうあがいても、死は必ずやってくるわ。」
「ご親切に。」
「お礼はいいわ。」(日本語字幕より)
「I just want you to know no matter what you do, you're gonna die just like everybody else.」
「Thank you, Rose.」
「You're welcome.」(英語字幕より)

ツキも捨て、今ある罪深き自己をあるがままに受け入れる喜びを、愛の喜びと共に知ってしまったかのようなロレッタも、ジョニーがすぐ近くにいることは受け入れがたかったようです。
しかし、「奇跡」と「現代」の矛盾の解決法として、シチリアの中世論は卓越してると感じ入りました。なかなかの論客のおふたりです。
「どうしたの?」
「分からない。」
「髪が違う。」
「生まれ変わったの。」
「酔ってるの?」
「ママは?」
「気分だけ二日酔い。」
「パパは?」
「2階よ。昨晩、ジョニーが来たわ。」
「彼はシチリアのはずよ。お母様の看病で。」
「治ったの。」
「危篤だった。」
「奇跡よ。」
「この現代に奇跡を信じろと?」
「シチリアは中世なのよ。彼は話があるそうよ。首筋にキス・マークが。もうじき彼がやって来るわ。洗面所に行って、お化粧で隠しなさい。」
「分かったわよ。ママも手伝って。」
「急いで...」
「出て。」(日本語字幕より)
「What the hell happened to you?」
「I really don't know where to start.」
「Your hair's different.」
「Ma, everything is different.」
「Are you drunk?」
「No, are you drunk?」
「No, but I have a hangover.」
「Where's Pop?」
「Upstairs. Johnny Cammareri showed up last night.」
「What? He's in Sicily.」
「No more he's not.」
「He's with his dying mother in Sicily.」
「She recovered.」
「She was dying.」
「It was a miracle.」
「This is modern times. There ain't supposed to be miracles no more.」
「I guess it ain't modern times in Sicily. He came right from the airport to talk to you. You got a love bite on your neck. He's coming back this morning. What's the matter with you? Your life's going down the toilet! Cover up that thing! Put makeup on!」
「All right!」
「Ma, okay, fine! But you got to help me!」
「Hurry up!」
「Oh, my God. You get it.」(英語字幕より)
「the hell」は、「プラウダを着た悪魔」の中で紹介した「the hell out of」と同じように、強調で挿入されているだけと思われます。
「Your hair's different.」
「everything is different」
は「恋に落ちたシェークスピア」の
「It is a new day.」
「It is a new world.」
を思い出させますね。それほど煌めいた印象じゃありませんが。
「Sicily:シシリー」は「シチリア」のことです。
「love bite」はキス・マークですが、「愛の噛み跡」なんですね。なつかしい響きと言うと、おじさんになった証拠でしょうか。
「 Your life's going down the toilet! 」で「あなたの人生はトイレ向かって落ちているわ」はえらい表現ですね。
「いったいどうしちゃったの?」
「どこから始めていいのか本当に分からないの。」
「髪の毛が変わってるわ。」
「ママ、すべてが変わったの。」
「飲んでるの?」
「いいえ、ママは?」
「いいえ、でも二日酔いのようよ。」
「パパはどこ?」
「2階よ。ゆうべジョニー・カマレーリが現れたわ。」
「なに? 彼はシシリーよ。」
「いいえ、もうシシリーじゃないわ。」
「彼はシシリーで死にかけてる母と一緒よ。」
「回復したの。」
「死にかけてるの。」
「奇跡ね。」
「今は現代よ。もう奇跡なんてあり得ないわ。」
「どうやら、シシリーじゃ現代じゃないのよ。彼は空港からまっすぐあなたに話しに来たわ。首にキス・マークがあるわ。彼は今朝またやって来るのよ。どうしたの? あんたの人生はトイレに真っ逆さまよ。それを覆い隠しなさい。上から化粧するのよ!」
「わかったわ。ママ、オーケー、大丈夫! でも、助けてちょうだい。」
「急ぎなさい!」
ドアベルが鳴る。
「ああ、神様。出て。」

ねじれてどうかなりそうな恋愛のふたりに、おかまいなしに家族がからんできます。ロニーも家族を意識しているようです。
「ジョニーじゃない。」
「兄貴が?」
「来るのよ。」
「いい機会だ。ジョニーの弟、ロニーです。」
「ローズよ。」
「よろしく。」
「キス・マークが。お母様が回復よ。」
「そりゃすごい。一応、喜ぶか...」
「帰って。」
「あいさつに来た。」
「お願いよ。」
「オートミールは?」
「僕の大好物なんです。」
「いらないわ。ありがと。」
「ロニーよ。ジョニーの弟さん。」
「初めまして。今度はどうも...」
「奴の弟か。」
「見ないでよ。」(日本語字幕より)
「It's not Johnny!」
「Is Johnny here?」
「No, but he's coming.」
「Good. We can get this out on the table. Hi, I'm Ronny, Johnny's brother.」
「I'm Rose Castorini.」
「It's nice to meet you.」
「It's nice to meet you. Got a love bite on your neck. Your mother's recovered from death.」
「Good. We're not close. I'm not really moved.」
「You gotta get outta here.」
「I'm here to meet the family.」
「Really, you gotta get outta here.」
「Anyone want some oatmeal?」
「No, Ma.」
「Yes, Mrs. Castorini. I would love some oatmeal.」
「No, we don't want any oatmeal!」
「Take your coat off. Sit down.」
「Ma! What? This is a... Thanks, Ma.」
「You're welcome. Cosmo, this is Ronny, Johnny's brother.」
「It's very good to meet you. I have a feeling this is going to be just delicious.」
「You're Johnny's brother?」
「Yeah.」
「Don't look at me like that.」(英語字幕より)
ここで、「You gotta get outta here.」は、「You got to get out of here.」です。
ロニーは家族に会いに来たと言ってます。一方ローズさんは招かざる客と言えるロニーに対しても、朝食を勧めています。心の広い食卓です。いいですね。
「ジョニーじゃないわ。」
「ジョニーがここに?」
「いいえ、でも彼は来るわ。」
「いいだろう。このことを片付けられるだろう。ハイ、ロニーです。ジョニーの弟です。」
「ローズ・カストリーニよ。」
「お会いできて嬉しいです。」
「お会いできて光栄よ。首にキス・マークがあるわ。あなたのお母様は死から回復されたわ。」
「すごい。仲良くないんだ。ほんとはそんなに感動してません。」
「ここから出なきゃいけないわ。」
「家族に会いにここへ来たんだ。」
「お願い、出て行って。」
「どなたかオートミールはいかが?」
「いいえ、ママ。」
「はい、ミセス・カストリーニ。オートミールには眼がないんです。」
「いいえ、私たちはオートミールなんていらない。」
「コートを脱ぎなさい。座って。」
「ママ! 何? これは... ありがとう、ママ。」
「どういたしまして。コズモ、こちらはロニー。ジョニーの弟さんよ。」
「お会いできてうれしいです。とても楽しくなるという感じがしてます。」
「君はジョニーの弟さん?」
「ええ。」
「そんな風に私を見ないで。」

やはり、大切な話は家族の前で。そして、家族がそろうと言えば、食卓。まるで、にぎやかな刺繍を観ているかのように、家族がみんなの前に持ち込んでくる様々な事柄がさまざまな色の糸のように絡まりながら、しかし全体として平然と調和が保たれていることに、驚きを覚えます。
「どうかした?」
「私は老人だ。何を話しても、たわ言と思われているが、息子よ、これだけは言っとく。結婚式の費用は父親の義務だ。お前は片意地を張って、家庭を壊しとる。覚えとけ。」
「結婚するのなら払うよ。」
「それでいい。分かってくれたな。」
「食べよう。」
「私はいい妻? 浮気はやめて。」
「分かった。」
「ざんげに行って。」
「ある日、自分の人生が空しく思える。とてつもなく、つらい。」
「あなたの人生は空しくないわ。愛してる。」
「私もだ。」(日本語字幕より)
「Hi, Pop.」
「What's the matter, Pop?」
「I am old. The old are not wanted. And if they say it, they have no weight. But, my son, I must speak. You must pay for the wedding of your only daughter. You break your house through pride. There. I've said it.」
「It's okay, Pop. If she gets married, I'll pay for the whole thing.」
「Now you talking.」
「Let's eat.」
「Have I been a good wife?」
「Yeah.」
「I want you to stop seeing her.」
(「Okay.」)
「And go to confession.」
「A man understands one day that his life is built on nothing and that's a bad, crazy day.」
「Your life is not built on nothing.」(英語字幕より)
とても言いにくいことも、家族と分かち合う。それにはそれ相当の信頼がなくてはできませんよね。
「build on」で「当てにする、頼る」という成句がありますが、これに「頼る」までもなく、「彼の人生はなにもないところに建てられている」と訳せるので、大凡の意味は把握できます。
「やあ、おとうさん。」
「どうかしたの、とうさん?」
「わしは年寄りだ。年寄りは求められてるわけじゃない。もし年寄りがなにか言ったとて、重要なことはない。しかし、我が子よ、わしは言わなければならない。お前はお前の唯一の娘の結婚に金を払ってやらねばならん。お前は自尊心で自分の家を壊しとる。さあ。わしは言ったからな。」
「いいよ、とうさん。娘が結婚するなら、すべて払うよ。」
「そう、お前は言ったな。」
「さあ、食べよう。」
「私は良い妻だった?」
「ああ。」
「彼女に会うのはやめてもらいたいわ。」
コズモ、立ち上がり、机を強くたたく。
「オーケー。」
「そして、懺悔に行って。」
「ある日男は自分の人生に基盤がなにもないことに気がつく。そしてそれは不快で、腹立たしい日だ。」
「あなたの人生に基盤がないことなどないわ。Ti amo(ティアーモ:愛してる).」
「×△□、Ti amo.」
(英語字幕にはイタリア語の翻訳がなく、なにもなしで語られています。「ティアーモ」は「愛してる」で、ローズもコズモも言ってるようですが、コズモの最初の言葉は想像がつきません。)

肝心のジョニーはなかなか現れませんが、ロレッタがお金のことを思い出すまでの、カポマージ夫婦の不安そうな表情とそのあとの開放感など、とてもいい場面が続きます。
「ジョニーよ。」
「僕から話す。」
「何を話すの?」
「真実を話せば済むことさ。」
「そうね。」
「私の天使...」
「ロレッタ。」
「店番はいいの?」
「何か忘れてない?」
「銀行に行ってきた。」
「いけない。入金を忘れてた。」
「様子が変だったのよね。銀行へ行って、驚いたのなんのって...」
「コーヒーをいかが。」
「なぜ忘れた?」
「あとで話すわ。」
「座ってコーヒーを。」
「何してるの?」
「ジョニーを待っている。」
「ロニーです。」
「ジョニーの弟よ。」
「よろしく。リタよ。」
「ローズの兄の、レイモンドだ。」
「冗談も出んのか。」(日本語字幕より)
「It's Johnny. I'll get it.」
「I'll get it. I think I should tell him.」
「I'll tell him. What am I gonna tell him?」
「Tell him the truth. They find out anyway.」
「You're right, Pop.」
(「Hi.」)
(「Hi, Loretta.」)
(「Hi.」)
「Why aren't you at the store?」
「Do you have something you want to tell us?」
(「No.」)
「We just come from the bank.」
「Yeah? My God! The bank! I forgot to make the deposit!」
「She's got it!」
「I knew she had it!」
「We didn't know what to think.」
「I forgot!」
「It was so weird yesterday.」
「I know. I'm sorry. 」
「Then we went to the bank and no bag.」
「We never suspected you.」
「Would you anyone like some coffee?」
「Yes, coffee.」
「That's a good idea.」
「What's with this?」
「I'll tell you later. I forgot to make their deposit.」
「Here, sit down. Have some coffee.」
「So what are we doing?」
「Waiting for Johnny Cammareri.」
「My name's Ronny.」
「Johnny's brother.」
「Nice to meet you. I'm Rita Cappomaggi.」
「HI.」
「Raymond Cappomaggi, Rose's brother.」
「Someone tell a joke.」(英語字幕より)
今更ですが、「get it」で「(電話・ベルなどに)出る」意味となります。大リーグで外野の守備で覚えなくてはならないのは、この「I'll get it」・「I get it」のようです。「俺が取る」ということなんでしょうね。「ア、ガリ!」って聞こえるのでしょうか。
「make a deposit」で「預金する」という意味になります。
ここでもローズさんは、何か口を挟むということはせず、コーヒーを勧めています。コズモさんは、これまたなにを言うでもなく、ただ、娘に確かめているだけです。ふたりは大きくみんなを包み、迎え入れているようなのです。
「ジョニーだわ。私が出る。」
「俺が出る。俺が兄貴に話すべきだと思う。」
「私が話すわ。何を話せばいいのかしら?」
「真実を言いなさい。いずれ分かってしまうことだ。」
「そうね、パパ。」
「×△□、Ti amo.」(たびたびすみません)
「ハイ。」
「ハイ、ロレッタ。」
「ハイ。」
「どうしてお店にいないの?」
「なにか私たちに言いたいことない?」
「いいえ。」
「私たちは銀行から来たんだ。」
「ええ? ああ、神様! 銀行! 預金するのを忘れてた。」
「彼女、分かってたわ。」
「そうだと思ってたんだ。」
「どう考えればいいのかわからなくて。」
「忘れてしまったの!」
「昨日はとても変だったの。」
「そうよ。ごめんなさい。」
「それで、私たち銀行へ行って、バッグがないの。」
「私たちは決して疑わなかった。」
「どなたかコーヒーを召し上がる?」
「はい、コーヒーをお願い。」
「それはいいね。」
「なにがあったんだ?」
「あとで話すわ。預金するのを忘れたのよ。」
「さあ、座って。コーヒーを飲んで。」
「それで、みんな何してるの?」
「ジョニー・カマレーリを待ってるの。」
「俺の名前はロニーです。」
「ジョニーの弟さん。」
「よろしく。私はリタ・カポマージ。」
「ハイ。」
「レイモンド・カポマージ、ローズの兄だ。」
「誰かジョークをいわんか。」

とうとうジョニーさんご登場です。さあ、どうなっちゃんでしょうか。
「出るわ。」
「ジョニーが来た。」
「お待たせ。」
「ロレッタ。ロニー。私と和解を?」
「問題がある。」
「解決する。」
「どうしてお母様は回復を?」
「結婚の話をしたら元気に。」
「だろうね。」
「奇跡だ。」
「ジョニー、話があるの。」
「僕もだ。2人だけで。」
「家族の前で話を。」
「ロレッタ。結婚できない。ママが死ぬ。」
「私たちは婚約したのよ。」
「落ち着け。」
「約束について話してるの。」
「ママが助かったんだ。」
「42にもなって、まだママかよ。」
「お前は親不幸だ。」
「大ウソつき! 証拠は指輪よ。」
「返してくれ。」
「婚約は破棄ね。」
「一番いい方法だ。」
「あんたの葬式では着飾るわ。」(日本語字幕より)
「I'll get it.」
「I thought Johnny was in Palermo.」
「It's Johnny Cammareri.」
「(Loretta. Ronny!)Have you come to make peace with me?」
「Yes. But you may not want to.」
「Ronny, of course I want to.」
「But, Johnny, your mother was dying. How did she recover?」
「I told my mother we were to be married, and she got well right away.」
「I'm sure she did.」
「It was a miracle.」
「Thank God.」
「Yeah.」
「I have something I have to tell you.」
「And I have something to tell you, but I must talk to you alone.」
「I need my family around me now.」
「(Loretta,)I can't marry you.」
「What?」
「If I marry you, my mother will die.」
「What the hell are you talking about? We're engaged.」
「What are you talking about?」
「I'm talking about a promise. He propposed!」
「Because my mother was dying. Now she's not!」
「You're 42 years old. She's still running your life.」
「You are a son who doesn't love his mother!」
「You are a big liar! Because I have a ring right here.」
「I must ask for that back.」
「All right, the engagement is off.」
「In time you will see this is best.」
「In time you'll drop dead, and I'll come to your funeral in a red dress!」(英語字幕より)
「Palermo」はパレルモ。シシリー島の中心都市だそうです。
特に難しい表現はなかったですが、「あんたが死んだら、葬式には赤いドレスを着て来るわ」とは、すごい発想ですし、どうして怒りまくったときに、まわりくどい皮肉を言うことができるのか不思議です。とても楽しいですけど。
「私が出るわね。」
「ジョニーはパレルモだと思ったが。」
「ジョニー・カマレーリよ。」
「ロレッタ。ロニー! 私と仲直りしに来てくれたのか?」
「うん。でも兄貴は望まないかも。」
「ロニー、もちろん、おれは望んでる。」
「しかし、ジョニー、お母様は死にかけてると。どうやって回復したの?」
「母に私たちが結婚することを話したんだ。すると急に母は良くなったんだ。」
「確かにそうだと思うよ。」
「奇跡さ。」
「神に感謝を。」
「ああ。」
「あなたに言わなければならないことがあるわ。」
「私も君に言うことがある。だが、君と二人で話さなければならない。」
「私は家族にいてほしいわ。」
「ロレッタ、君と結婚できない。」
「なに?」
「もし君と結婚したら、母は死んでしまう。」
「いったいなにを言ってるの? 私たちは婚約したのよ。」
「なにを言ってるんだ。」
「私は約束について言ってるの。彼は結婚を申し込んだの!」
「それも母が死にかけてたからだ。もう母は死にかけてない!」
「兄貴は42にもなる。かあさんはまだあんたの人生をきりもりしてる。」
「お前は自分の母も愛していない息子だ!」
「あんたは大ウソつきね! 私にはここに指輪があるのよ。」
「それを返してもらわなくてはならん。」
「ええ、いいわ。婚約も破棄よ。」
「そのうち、君もこれがベストだと分かるさ。」
「そのうち、あなたが死んだら、あんたの葬式には赤いドレスを着て来るわ!」

結婚の申し込みなのですが、加えて家族の前で家族の一員となることを宣言する。あたたかい儀式ですね。
しかし、やっぱりローズさんは相手に惚れ込むことをよしとしていません。当分ローズさんの信念はゆらぎそうもありませんね。
「ロレッタ。結婚してくれ。」
「指輪は?」
「兄貴。それを。ロレッタ・カストリーニ。結婚して下さい。」
「あなたの妻になるわ。」
「愛してるの?」
「夢中よ。」
「困ったものね。」
「愛されている。」(日本語字幕より)
(「Loretta.」)
「What?」
「Will you marry me?」
「What?」
「Where's the ring?」
「(Johnny,)Can I borrow that ring? Thanks. Will you marry me?」
「Yes, Ronny. In front of a all these people, I'll marry you.」
「Do you love him, Loretta?」
「Ma, I love him awful.」
「God, that's too bad.」
「She loves me.」(英語字幕より)
「ロレッタ。」
「なに?」
「結婚してくれ。」
「なに?」
「どこに指輪があるの?」
「ジョニー、その指輪を借りれる? ありがとう。結婚してくれますか?」
「イエス、ロニー。これらの人々の前にて、あなたと結婚するわ。」
「彼を愛してるの、ロレッタ?」
「ママ、彼を恐ろしいほど愛してる。」
「神よ、それは良くないわ。」
「彼女は俺を愛している。」

「confuse」って、随分昔から「混乱する、困惑する」って知ってましたが、始めてはっきりと使われているのを聞きました。しかもこんなに分かりやすく。
「父さん。」
「混乱しとる。」(日本語字幕より)
「What's the matter, Pop?」
「I'm confused.」(英語字幕より)

さあ、みんな家族になりました。家族って、なにか足りない人たちの集まりなんですね。だから、多ければ多いほどお互いに補い合えるということなのでしょうか。家族という絆も完全なんかじゃないようです。欠点だらけでいいようです。
「さあ、君もみんなの所へ。」
「君も家族の一員なんだ。」(日本語字幕より)
「come. Your brother is her and you're...」
「I don't want any.」
「You're part of the family. Don't you realize? Come on, please.」(英語字幕より)
「part of」って、冠詞の「a」が付かなくていいのですね。ただ、形容詞がつくと「a」がつくようです。「a large part of 」ってね。
「アラ、ファミーリア!」って言ってるのでしょうか?
家族に乾杯!

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「Live dangerously, take the whole day.」「I just haven't had the chance to do it for anyone.」(「ローマの休日」より)

MY DVD:「ROMAN Holiday:ローマの休日(1953年製作)」発売元:パラマウント ホームエンタテインメント ジャパン株式会社 PDAA-202

とてもとても愛らしい作品です。いいものに触れて、しばし心を癒しましょう。
冒頭で蛇足というもの変ですが、この映画でオードリー・ヘプバーンは、初演で、主演を演じ、アカデミー賞の主演女優賞の栄誉に輝いています。また、この作品は他に脚本賞、衣装デザイン賞も得ています。
ついでに、当時オードリーは舞台には立ってましたが、映画では無名だったこともあり、映画のタイトルは『グレゴリー・ペックの「ローマの休日」』といった感じだったそうですが、グレゴリーがオードリーの才能を認め、オードリーの名前を自分と同等に出すようにさせたことは、良く知られたお話のようです。実際、製作中から、オードリーは関係者の間で評判だったそうです。

物語は、ある国の麗しい王女のヨーロッパ各国を歴訪する報道ニュースから始まりますが、実はまだ無邪気さの残るアン王女にとってはこの公務は苦痛に満ちていたのでした。自分を抑えられず興奮したために睡眠薬を打たれたにも関わらず、夜外に飛び出す王女は道ばたのベンチに寝込んでしまいます。そこへ通りかかったアメリカ人新聞記者のジョーはそれと知らず彼女を自分のアパートに泊めるはめに。
しかし、次の日、きらめくふたりのローマの休日が始まるのでした。

まずは愛らしくも、おてんばな王女の就寝支度の場面から。
「いやなネグリジェ。ネグリジェは嫌い。下着も。」
「ご立派なお品ばかり。」
「私はお婆さんじゃない。パジャマで寝たいわ。上衣だけで。何も着ずに寝る人もいるのよ。」
「さような事は存じません。」(日本語字幕より)
「I hate this nightgown. I hate all my nightgowns, and I hate all my underwear too.」
「My dear, you have lovely things.」
「But I'm not 200 years old. Why can't I sleep in pyjamas?」
「Pyjamas!」
「Just the top part. Did you know there are people who sleep with absolutely nothing on?」
「I rejoice to say I did not.」(英語字幕より)
「ネグリジェ」はフランス語なんですね。英語で「nightgown」はなんだか男物に聞こえてしまいます。
「pyjama」は米国風で、イギリス風の「pajama」。ここで面白いのは、パジャマは元々インドのヒンズー語で、脚を意味する「pa」と着物を意味する「jama」からできたズボンだけを意味する言葉。ヨーロッパに入ってから、上衣が付け加えられたとされています。
それなのに、アン王女は、パジャマの上衣だけを着て寝たいと言ってます。パジャマの発展形と申しましょうか、本来の言葉の意味から外れると申しましょうか。知ってか知らずか、とにかく無邪気と言えども、とても良い思いつきとは言えません。後でこの願望のためにちょいとうろたえることになりますね。
「このナイトガウンは嫌い。ナイトガウンは全部嫌い。下着も全部嫌い。」
「王女さま、あなたはすてきな品々をお持ちですよ。」
「でも、私は200才の年寄りじゃないわ。どうして、パジャマで寝ちゃだめなの?」
「パジャマ!」
「それも上衣だけで。まったく何も身につけないで寝る人たちがいるのを知ってたでしょ?」
「知らないとお答えすることを嬉しく思います。」

王女さまは子供っぽいだけなのかなと思いきや、彼女の痛々しい叫びから、悩みがとても深刻であることが分かります。
お世話役の伯爵夫人の職務的な言葉使いが、彼女の心の痛みを強めているかのように映ります。
「一人で安らかに死なせて。」(日本語字幕より)
「I don't want him. Please let me die in peace.」(英語字幕より)
「ドクターは必要ないわ。どうか安らかに死なせて。」

ただ、救いは先生でした。さすがにこの方は良い先生みたいで。
「ちょっとお加減を拝見。」
「バナクホーフェン先生、恥ずかしいわ。」
「涙は正常な現象です。」
「明日の記者会見に差し支えると困る。」
「大丈夫。明日は落ちつき払って、会釈をし、貿易を促進して...」
「ほらまた、何かお薬を。」
「袖をまくって。」
「それは?」
「眠り薬です。神経をしずめ、気持ちを明るくします。新薬です。」
「効果ないわ。」
「もう少したつと効きますから、安静に。」
「灯を全部消さないで。」
「当分、気ままになさる事がお体のためです。」
「ありがとう。」(日本語字幕より)
「I'll only disturb Your Royal Highness a moment.」
「I'm very ashamed, Doctor. Suddenly I was crying.」
「To cry is perfectly normal.」
「It's important she be calm and relaxed for the press conference.」
「Don't worry, Doctor, I'll be calm and relaxed. I'll bow and I'll smile, I'll improve trade relations and I'll...」
「There she goes again. Give her something, please.」
「Uncover her arm, please.」
「What's that?」
「Sleep and calm. This will relax you and make you feel a happy.It's a new drug, quite harmless. There.」
「I don't feel any different.」
「You will. It may take a little time to take Hold. Just now, lie back.」
「Can I keep just one light on?」
「Of course. The best thing I know is to do exactly what you wish for a while.」
「Thank you, Doctor.」(英語字幕より)
「Highness」で王族に対する敬称。「Her Highness」で妃殿下。直接呼びかける時は「Your Highness」となるようですが、彼女が王の実の娘だからでしょうか、王の血をひくという「Royal」もつけるようですね。
ドクターはここでは、日本語字幕のように「お加減を」とは言わず、医者なんか必要ないと言う王女を刺激しないような、さりげない言い方を選んだようです。また、泣くこともまったく正常なことだと言ってあげてます。
しかし、将軍のおじいさんはやっぱり厳格な方で、ここで求められている父親のようなやさしい気持ちにはなれないようです。王女より記者会見を心配しています。伯爵夫人も興奮する王女に薬をと、またまた事を収めることばかり。
ハッピーになると言われて注射された王女は、「なにも違いを感じない」と「different」を使って言います。解決・改善を目指すとき「違い」という結果を求める言い方をすることは、「エイリアン2」のときにご紹介したとおりです。
「take hold」は「定着する・確立する」の意。「lie back」には「(休むために)あお向けになる」という意味があります。
「電灯ひとつは点けていてもかわまないですか」というかわいい要求に、ドクターもやさしく応えています。「しばらくは、好きなことをするがいい」と。しかし、それは鎮静剤が効いてくるまで、寝室を出ないという前提だったはずです。
「王女さま、ちょっとお邪魔しますね。」
「とても恥ずかしいです、ドクター。突然泣き出してしまって。」
「泣くことは、まったく正常なことですよ。」
「記者会見では彼女が落ち着いて、リラックスしていることが大切なんです。」
「心配しないで、ドクター。落ち着いて、リラックスしますわ。うやうやしくお辞儀をし、微笑みます。貿易関係を促進させ、そして私は...」
「ほら、また彼女は。なにか与えて下さい、どうか。」
「袖をまくってください。」
「それはなに?」
「睡眠と落ち着きのためです。これでリラックスして、良い気持ちになりますよ。新しい薬なんです。害がないんですよ。ほら。」
「少しも違いを感じないわ。」
「感じるようになります。効き目が出るまでには少し時間がかかるかも知れません。さあ、あお向けになって。」
「電灯をたったひとつだけ点けていてもかまいません?」
「もちろん。しばらくは、あなたがまさに願っていることをするのが、最もいいことだと私は思います。」
「ありがとう。」

アン王女は、ドクターの言葉に気分を良くしたのはいいのですが、外から聞こえる音楽の誘惑に勝てず、城を飛び出してしまいます。
オードリー・ヘプバーン演じるアン王女は、王女の職務は行っているものの、まだ無邪気な子供のようなまま彷徨っている感じ。
一方、グレゴリー・ペック演じるアメリカ人記者ジョー・ブラドリーも、アパートの家賃を溜めながら仲間とカードゲームを楽しむ気ままな少年のよう。しかし、そんな二人だったがゆえに、互いの出会いを美しいものにしていったのかも知れません。
実は、二人は何度も出会います。
というのは、まずはアン王女が睡眠薬が効いた状態で、道端でジョーと。
次に、アン王女がやっと目覚めて、ジョーの部屋の中でジョーと。アン王女は、自らを「アーニャ」とだけ名乗る。
アン王女がジョーのアパートを出た直後、お金を借りるために戻ったときにジョーと。
アン王女を尾行していたジョーが、偶然を装ってアン王女と。カフェでアン王女は学校から抜け出したとして、ジョーは化学品の会社員として。
最後に記者会見で、ふたりが真の姿で、王女と記者として。

夜、道端で。
ふたりが出会ったとき、まだお互いに見知らぬ同士。しかも、アン王女は儀礼的挨拶を朦朧とした意識の中で繰り返しています。
その中のことばに、「Charmed」というのがありました。ジョーもこれに応じて、「Charmed too.」と言っています。
これは紹介されたときの上品な挨拶で、「お会いできて光栄です」といった意味になるようです。
眠りの中から起こされたアン王女はある詩を紹介します。混沌とした意識の時に聞こえた、ジョーの呼びかけは、救いの声に聞こえたのかも知れませんね。その心情とうまく合致した詩と言えます。また、アン王女独特の控え目な感情表現とも言え、また彼女の感性とセンスの良さを示したものとも言えそうです。この詩は、あとでジョーの部屋でキーツかシェリーかで言い合うものと違って、オリジナルが分かってないものだそうです。この映画のために創作されたものではないかとも言われてます。
「我れ死して埋められるとき、君がみ声聞かば、大地のもとを野辺の我が心喜びに震えん。」(日本語吹き替えより)
「If I were dead and buried and I heard your voice, beneath the sod my heart of dust would still rejoice.」(英語字幕より)
「beneath」は「下に、真下に」という意味。「sod」は「芝生、草地、地面」といった意。「beneath the sod」に似た表現で、「under the sod」で、「芝生の下に」の他に、「(墓に)葬られて、草葉の陰で」という意味があります。「dust」は「ちり」ですが、「遺骨、なきがら」の意味もあり、亡くなって土に戻った「ちり」も意味します。再び「rejoice」が出てきました。「喜ぶ」という動詞です。
「もし私が死んで埋められたとき、あなたの声を聞けば、草地の下、ちりとなった私の心は、それでも喜ばすにはいられないでしょう。」

同じ夜、ジョー・ブラドリーの部屋。
アン王女はまだ酔っぱらったような意識のまま。部屋に入ったときのセリフで、アン王女の暮らしぶりが分かるというもの。狭くて小さな部屋は見たことがないのですね。それに終始、人を疑って怖がることがありません。はっきりしない意識の状態だからこそ、彼女の人間性が描かれている場面とも言えそうです。どうせネグリジェしかないのだから、バラの柄のものを頼むと、パジャマが出てきて、嬉しい驚きを示すアン王女。一方ジョーはけなされたと勘違いするところは、二人の行き違いを象徴していて面白いですね。
唐突に、服を着ているときでさえ、男性とふたりきりなどなかったのに、服を脱ごうとしているといる自分に気づきます。しかし、不思議と平気のようだと話します。ここでも、お嬢様育ちというより、彼女の人を信用してやまないおおらかさのようなものが感じられます。
また、字幕では分かりにくいのですが、長椅子(couch)で寝るよう指示されて、雪の長椅子(couch)の詩を紹介するアン王女。彼女が詩を介して世界の広がりを感じていることが分かります。そんな彼女も、まだ知らぬ次の日の午後、自分の五感で世界を感じ、ジョーという人間を知ることになるわけです。そして、その詩の作者をキーツと言い張るアン王女。彼女の意志の強さも垣間見られます。
「ここはエレベーター?」
「僕の部屋だ。」
「どうも失礼。目まいがひどくなって... ここに寝てよくて?」
「仕方がない。」
「バラの蕾のついた、絹のネグリジェを。」
「これで我慢してくれ。」
「パジャマだわ。」
「ネグリジェは着ないんでね。」
「服をぬぐのを手伝って。」
「あとは自分でしたまえ。」
「私にも。」
「ダメだ。君は...」
「珍しい事だわ。服を着た時も、男性と二人きりはなかった。それが、ぬいだ時に。でも不足はないわ。あなたは?」
「コーヒーを飲みに行く。君は寝たまえ。こっちだ。」
「ごていねいに。」
「これがパジャマだ。着て寝るものだよ。着たら長椅子で寝るんだ。ベッドでも椅子でもなく。」
「私の好きな詩は...」
「もう拝聴した。」
「アレトゥーサは身を起こしぬ。山をおおう雪の寝床より。キーツ。」
「シェリーだ。詩よりパジャマをさっさと着たまえ。」
「キーツ。」
「シェリーだ。10分で戻る。」
「キーツよ。退ってよろしい。」
「どうも。」(日本語字幕より)
「Is this the elevator?」
「It's my room!」
「I'm terribly sorry to mention it, but the dizziness is getting worse. Can I sleep here?」
「That's the general idea.」
「Can I have a silk nightgown with rosebuds on it?」
「I'm afraid you'll have to rough it tonight. In these.」
「Pyjamas.」
「Sorry, honey, I haven't worn a nightgown in years.」
「Will you help me get undressed, please?」
「OK. There you are. You can handle the rest.」
「May I have some?」
「No! Now, look!」
「This is very unusual. I've never been alone with a man before, even with my dress on. With my dress off, it's most unusual. I don't seem to mind. Do you?」
「I think I'll go out for a cup of coffee. You'd better get to sleep. Oh, no. On this one.」
「You're terribly nice.」
「Hey, come here. These are pyjamas, they're to sleep in. You're to climb into them. Understand?」
「Thank you.」
「And you sleep on the couch. Not on the bed, on the couch. Is that clear?」
「Do you know my favourite poem?」
「You've already recited it.」
「"Arethusa arose From her couch of snows In the Acroceraunian Mountains." Keats.」
「Shelley. Keep you mind off the poetry and on the pyjamas. You'll be fine.」
「Keats.」
「Shelley. I'll be back in about ten minutes.」
「Keats. You have my permission to withdraw.」
「Thank you very much.」(英語字幕より)
セリフの中だけですが、ネグリジェに「バラの蕾」の柄のものが何度も出てきますが、英語の「rosebud:バラのつぼみ」には、「美しい少女、年ごろの少女、初めて社交界に出る少女」という意味もあるようです。
「rough it」で「〈キャンプなどで〉不便な生活をする」という意味。
「climb into」には「(急いで、努力して)〈服などを〉着る」という意味があります。
寝ることもできる「長椅子」で寝なさいと言われて、アン王女は「私の好きな詩をご存じ?」と言います。ジョーは「recite」という言葉を使って反論しています。「recite」は「〈聴衆などに向かって詩などを〉暗唱・朗読する」こと。これは僕らの知っている「リサイタル」と同じ語源の言葉ですよね。つまり、「君はもうすでにリサイタルしたよ」って言ってます。だから、日本語字幕では「拝聴した」となっていたのですね。ユーモアのあるセリフです。
さて、詩のことについては、ジョーの方が正しいそうです。「パーシー・ビッシュ・シェリー:Percy Bysshe Shelley( 1792-1822 )」が1820年に書いた詩の冒頭部分がこれで、この作品はギリシア神話の妖精(精霊)・アレトゥーサを描いているそうです。
最後の日本語字幕で、「退って(さがって)よろしい」は宛て字っぽくなってましたが、「withdraw」は「退く(しりぞく)」の意。「permission:許可、承認」を使って、「あなたは退く私の許可を持っている」という言い方になっています。
「これはエレベーター?」
「私の部屋だ。」
「そんなこと言って本当にすみません。でも、目まいがひどくなって。ここで寝てもいいですか?」
「普通そう考えるだろう。」
「バラのつぼみ柄のシルクのナイトガウンをお願いできます?」
「恐れ入りますが、今夜はご不便をお願いせねばなりません。これにて。」
「パジャマだわ。」
「悪いな、ハニー。私はここ数年ナイトガウンは使っていないんだ。」
「脱ぐのを手伝っていただける?」
「オーケー。ほらこれを。あとはあつかえるだろ。」(ジョー、ワインを飲む)
「私もいただける?」
「だめ。ねぇ、君。」
「これはとても珍しいわ。私はこれまで一度も殿方とふたりきりになったことがないのよ、服を着ていたときでさえね。それが服を脱いだときになりそうなの。これは最も珍しいことね。私はどうも気にしてないみたい。あなたは?」
「コーヒーでも飲みに出かけるとするか。君は寝なさい。あ、いや。この上だ。」
「とても親切ですこと。」
「おい、こっちへ。これはパジャマ。身につけて寝るためのものだ。君はこれをなんとか着なさい。分かった?」
「ありがとう。」
「そして、君はこの長椅子の上に寝る。ベッドでなく、長椅子にだ。ちゃんと分かった?」
「私のお気に入りの詩をご存じ?」
「君はすでにご披露なさったよ。」
「”アレトゥーサは起き上がった アクロサローニアの山々の中 雪の長椅子より” キーツよ。」
「シェリーだ。詩のことは忘れて、パジャマに注意を向けなさい。なら、問題ないから。」
「キーツ。」
「シェリー。10分くらいで戻るからね。」
「キーツよ。下がってよろしい。」
「どうもありがとう。」

翌日の昼すぎ、ジョー・ブラドリーの部屋。
アン王女の記者会見時間を寝過ごしたジョー。新聞社へ出て、言い訳して怒られているうちに、夕べ部屋に泊めた女性が王女であることに気づきます。一山当てて、アメリカに帰ることを夢見るジョーは、千載一遇のチャンスを逃すまいと必死です。
お昼というのにまだ寝ているアン王女は、ようやく目覚めようとしています。
記事のため、なんでも聞き出したいジョーは、ドクターを呼ぶアン王女の言葉にドクターのふりをして応えます。
「バナクホーフェン先生。」
「だいぶ、よくおなりです。何かお望みのものは?」
「山ほど。」
「医者の私に、全部仰せつけ下さい。」
「夢ばかり見て...」
「どんな夢を?」
「道端に寝ていたら、若い男の人が来たの。背の高い人で、私にとても意地悪でした。」
「意地悪?」
「すばらしかったわ。」(日本語字幕より)
「Dear Dr Bannochhoven...」
「Oh, sure, yes, well... You're fine, much better. Is there anything you want?」
「So many things.」
「Yes? Well, tell the doctor. Tell the good doctor everything. 」
「I dreamt and I dreamt...」
「Yes? Well, what did you dream?」
「I dreamt I was asleep in the street, and a young man came, he was tall and strong. He was so mean to me.」
「He was?」
「It was wonderful.」(英語字幕より)
ここでは特にむずかしい表現はないと思われますが、ジョーがとても意地悪だったというところがあります。
「mean」には3種類あります。動詞・形容詞・名詞でそれぞれ違う言葉として存在します。今回は、「was」のあとに来て形容詞となっています。形容詞は「並の、劣った、意地悪な」というような意味となります。「be+mean+to~」の形で「~に意地悪」ということになります。(動詞では「意味する、するつもりである」、名詞では「中間、平均」といった意味になります。)
アン王女は、ジョーが意地悪だったと言いながら、その体験をとても楽しんでいたようです。
「バナクホーフェン先生。」
「ああ、はいはい。あー、大丈夫ですよ、とても良くなられた。何かお望みのものがございますか?」
「とってもたくさん。」
「はい? そう、このドクターにお話し下さい。この良き医者にすべてをお話し下さい。」
「夢を見て、また夢を見て...」
「はい? そう、どんな夢を見たのですか?」
「見たのは、道端で寝てましたら、若い男性が来まして、彼は背が高くてたくましかったです。私にとても意地悪でした。」
「そうだった?」
「あれはすばらしかった。」

さて、アン王女が目覚めて、ここからが本当に二人が出会うと言える場面。アン王女は自分の状況が分からず、ちょっと慌てます。
「おはよう。」
「バナクホーフェンは?」
「そんな人はいない。」
「今、話をしていたのに。」
「何のこと?」
「私はケガをしたの?」
(「いや。」)
「起き上がれて?」
「もちろんさ。」
「ありがとう。」
アン王女は、自分がパジャマを着ていることに気づく。
「あなたの?」
肯くジョー。慌てて下半身を確かめるアン王女。
「なくしもの?」
「(いいえ。)ここは一体どこですの?」
「僕の安アパートさ。」
「無理に私をここに?」
「いや、その反対だ。」
「私は一晩ここに... 一人で?」
「僕を除けばね。」
「あなたとここに泊まったの?」
「その言葉はあまり、適当ではないが、泊まった事は確かだ。」
「よろしく。あなたは...」
「僕はジョー・ブラドリー。」
(「よろしく。」)
「君に会えて実に嬉しい。」(日本語字幕より)
「Good morning.」
「Where's Dr Bannochhoven?」
「I'm afraid I don't know him.」
「Wasn't I talking to him just now?」
「Afraid not.」
「Have I had an accident?」
「No.」
「Quite safe for me to sit up, huh?」
「Perfectly.」
「Thank you. Are these yours?」
「Did you lose something?」
「No. Would you be so kind as to tell me where I am?」
「This is what is laughingly known as my apartment.」
「Did you bring me here by force?」
「No, no. Quite the contrary.」
「Have I been here all night...alone?」
「If you don't count me, yes.」
「So I've spent the night here with you?」
「Well, I don't know that I'd use those words exactly, but from a certain angle, yes.」
「How do you do?」
「How do you do?」
「And you are?」
「Bradley, Joe Bradley.」
「Delighted.」
「You don't know how delighted I am.」(英語字幕より)
アン王女は自分がパジャマを着ていることから、上衣だけしか着ていないのではと不安になったようです。上衣だけ着てみたいという、いたずらなアイデアにバチが当たりましたね。
アン王女が自分がどこにいるのか尋ねていますが、とても英語的な表現でした。直訳すると、「あなたはあまりに親切なので、私がどこにいるかを私に教えてくださいます?」。あるいは「私がいるところを私に教えていただけるほど、とても親切でいらしてくださいます?」
ジョーも自分のアパートを紹介しますが、こちらも英語的な表現でした。「ここは、私のアパートとして笑われながら知られているところであります。」となりましょうか。回りからもおそまつだと知られている部屋となりますね。
「by force」で「力ずく」という意味になります。
「quite the contrary」という成句がありました。文尾または単独で、「まるでその反対に」という意味になります。
「from a certain angle」の「angle」は「観点、見方、視点」という意味ですね。辞書ではほかの例として「from all angle」で「あらゆる観点から」という表現がありました。
不安な表情のアン王女でしたが、自分が大丈夫であり、見知らぬ男性のアパートに泊まったりはしたが、何事もなく、むしろ親切にしてもらったことを知って、瞬く間に輝くような笑顔でジョーにあいさつを送ります。彼女の笑顔で場がわっと明るくなります。なんという存在感なのでしょう。
「delight」は「うれしい」です。「Delighted.」は、「I'm delighted to see you.」といったあいさつを省略したものだと思います。ジョーはこれに答えて、「あなたは、私がどんなに嬉しく思っているか知らない。」と言ってます。婉曲的にたいへん嬉しく思っていることを表現する言い方になってますね。
「おはよう。」
「バナクホーフェン先生は?」
「すまないが、その方は知らないね。」
「たった今、私は彼と話していたでしょ?」
「いいえ、すまない。」
「私は事故にあったのですか?」
「いいえ。」
「起き上がって座ってもまったく大丈夫?」
「まったくね。」
「ありがとう。これはあなたのもの?」
「なにかなくなった?」
「いいえ。よろしければ、私がどこにいるのかおっしゃっていただけません?」
「ここは、私のアパートとして笑われながら知られているところです。」
「あなたはここへ力ずくで私を連れてきたのですか?」
「いいえ、いいえ。まったくその反対です。」
「私は一晩中ここで、ひとりでいたのですか?」
「私を数えないのなら、そうです。」
「では、私は一夜をあなたと過ごしたのですか?」
「そう、その言葉をそのように使っていいか分かりませんが、ある意味、そうですね。」
「はじめまして。」
「はじめまして。」
「嬉しいです。」
「こちらこそ、本当に嬉しいです。」

スペイン広場での再開。
髪をカットしたあと、スペイン広場にやってきます。そこでアン王女は”ジェラート”を買います。そのジェラートをほおばるアン王女にジョーが偶然通りがかったように近づきます。
「やあ、君か。」
「ブラドリーさん。」
「見違えた。」
「似合って?」
「とてもね。約束とはその事か。」
「あなたに白状する事があるわ。昨夜、学校から逃げて来たの。」
「どうして。先生に叱られて?」
「違うわ。」
「訳があるはずだ。」
「1~2時間のつもりが、眠り薬を飲んでいたので。」
「なるほど。」
「車で帰るわ。」
「もう少し遊んでからにしたまえ。」
「ではあと1時間。」
「思い切って一日中遊ぶんだ。」
「前からあこがれていた事をしたいわ。」
「どんな?」
「何でも気が向くままにしたいの、一日中。」
「髪を切るような事?」
「カフェに入ったり、ウインドーショッピングしたり、雨の中を歩いたり。楽しみたいの。冒険も少しは。くだらないと思うでしょ。」
「すばらしい。よし。では一緒に遊んで回ろう。」
「お仕事は?」
「今日は休みにする。」
「でもあなたには退屈でしょ。」
「第1の希望は、オープンテラスのカフェだね。ロカの店に行こう。」(日本語字幕より)
「Well, it's you!」
「Yes, Mr Bradley.」
「Or is it?」
「Do you like it?」
「Very much. So that was your mysterious appointment.」
「I have a confession to make.」
「A confession?」
「Yes, I ran away last night...from school.」
「Why? Trouble with the teacher?」
「No, nothing like that.」
「You wouldn't run away for nothing.」
「It was only meant to be for a few hours. They gave me something last night to make me sleep.」
「Oh, I see.」
「I'd better get a taxi and go back.」
「Look, before you do, why not take a little time for yourself?」
「Maybe another hour.」
「Live dangerously, take the whole day.」
「I could do some things I've always wanted to.」
「Like what?」
「You can't imagine. I'd like to do whatever I liked, the whole day long.」
「Like having your hair cut and eating gelati?」
「Yes, and I'd like to sit at a sidewalk cafe, look in shop windows, walk in the rain. Have fun, and maybe some excitement. It doesn't seem much to you, does it?」
「It's great. Tell you what. Why don't we do all those things...together?」
「Don't you have to work?」
「No. Today will be a holiday.」
「You don't want to do a lot of silly things.」
「Don't I? First wish, one sidewalk cafe. Coming right up. I know just the place.」(英語字幕より)
アン王女は、告白することがあると言います。「confession:告白」は「make」するもののようです。
どこかで同じことを申し上げたかも知れませんが、今一度ご紹介しますと。「インデペンデンス・デイ」で、それとは知らない運命の朝の大統領と夫人の電話での会話でも、まったく同じように表現されています。大統領が娘と一緒にベッドで寝たことを、「告白します。若いブルーネットの美人の横で寝ています。」と言います。このときのオリジナルは、「I have a confession to make.」なんです。
どちらの告白も、告白にもかかわらず、ささやかな嘘が含まれているということに大いなる興味を抱きます。
ジョーの悪魔とも天使とも言えぬ誘惑の一言で、二人はおとぎ話の世界に踏み込みます。「dangerously」は副詞で、「危険なほどに、危うく」の意で、「live」を修飾します。「Live dangerously:生きなさいよ、危険に」って。これは、ジョーがポーカーゲームから自ら学んだ教訓なんでしょうか。あまり強くなさそうでしたけど。アン王女は、一人で街を歩きながら、本当は何度も「帰ろう」と「もう少し」、そして「1日はもう無理かしら」を繰り返し、自問自答していたことでしょう。「Live dangerously.」は命令形ですが、アン王女の最も従いたい言葉だったことでしょう。それまで、聞いてきたどの指示よりも。
「I could~」以下は、どうも仮定法の文型ですね。ジョーの「Take the whole day.:1日中使いなさい」という言葉を受けて、「If I took the whole day, I could do some things I've always wanted to.」という、仮定法過去の形の後半を述べたと言えそうです。この時制では、『現在の事実に反対の仮定をあらわす(東京研究社、新自修英文典 参照)』そうです。「もし、私が1日中使えば、いつもしたいと思っていたことをいくつかできるだろうに。」となりそうです。このニュアンスがすんなり理解できないですね。現在形では未来を仮定し、過去形では現在を仮定する。過去完了形になって、やっと過去のこと仮定するというのですから、頭で理解するだけではなかなか使えないですよね。とっさに英語で「~したら?」って勧められても、「I could ~」とは話せないですよね。とても、勉強になります。
ところで、道端にテーブルを出しているカフェのことを、「a sidewalk cafe」と言ってます。「sidewalk」は歩道という意味ですが、ちゃんと舗装されている歩道のことのようです。「look in」には「ちょっとのぞく」という意味があって、「look in shop windows」は私どもの言う「ウインドー・ショッピング」でいいのだと思います。「walk in the rain:雨の中を歩く」は、なるほど王女さまには許されないことでしょうね。「look」も「walk」も動詞が続いていますが、「I'd like to」の「to」が省略されているようです。「to」をつけると、説明がくどくなるのかも知れません。
最後の「ロカの店に行こう」に当たる英語字幕が見あたりません。ジョーは確かに「ロカ」って言ってるのですが、英語字幕からは省略されちゃったみたいです。
「あれ、君じゃないか!」
「そうですわ、ブラドリーさん。」
「あるいは、それって?」
「気に入ってくださる?」
「とっても。それが君のミステリアスな約束だったんだね。」
「告白することがあります。」
「告白?」
「はい、夕べ私は抜け出してきてしまったのです。学校から。」
「どうした? 先生ともめごと?」
「いいえ、そんなのじゃないわ。」
「なんにもなくちゃ、逃げ出したりしなかっただろうに。」
「ほんの1~2時間のつもりだったんです。かれらは、昨夜私に眠たくなるものを与えてたからなの。」
「ああ、なるほど。」
「タクシーを拾って、帰らなくてはなりません。」
「ねぇ、そうする前に、自分のためにもう少し時間を作ったら?」
「そうね、もう1時間ぐらいなら。」
「危険を恐れず生きなきゃ。1日を取りなさい。」
「(それなら)私がいつもやってみたいと思ってた事ができるんですけど。」
「どんな?」
「想像できないでしょ。好きなことをなんでもやってみたかった。1日中ね。」
「髪を切ったり、ジェラートを食べたりのような?」
「そう、そしてカフェで座ったり、ウィンドウ・ショッピングをしたり、雨の中を歩いたりしたいわ。楽しいことをするの、そしてちょっとどきどきするようなことも。こんなことは、あなたには大したことない、でしょ?」
「それはすばしい。言おうか。それらのことをやろう、一緒に。」
「仕事はいいのですか?」
「いいよ。今日はホリデーだ。」
「あなたは、たくさんのばかばかしいことはしたくないでしょ?」
「したくない、わたしが? 最初の願いは、カフェだね。さっそくこっちへ。ちょうどそんな場所を知ってるんだ。」

カフェでの会話。
「髪を見て先生達が驚く?」
「気絶するわ。昨夜の事が知れたら大変ね。」
「お互いに家族には黙っていよう。」
「いいわ。」(日本語字幕より)
「What will they say in school about your hair?」
「They'll have a fit. What would they say if they knew I'd slept in your room?」
「Tell you what, you don't tell your folks and I won't tell mine.」
「It's a pact.」(英語字幕より)
「fit」と言う言葉にはいくつかの種類があるようです。ここで使われているのは第2のもので、名詞です。「発作、気絶」という意味があります。第1の「fit」には、「フィットする」で知られている「ぴったりの、ふさわしい(形容詞)」の意味があります。
「folk」は「家族」の意。
面白いと思ったのは、「pact」です。個人間での「約束、契約」の意味があります。国家間になりますと、「協定、条約」という意味になります。アメリカ映画なら、条件を言い合って、「It's a deal.」あるいは「deal!」と言って取引を行ったり、握手をして互いの気持ちを確かめたりするところです。アン王女はおそらく公務で使われて耳にする「pact」をより身近な言葉として使っているのではないかと思いました。少し上品な感じがあるのではないでしょうか。
実際、このあと「deal」を使っているところがあります。ジョーはアービング・ラドビッチにやっとアン王女のことを打ち明け、互いの分け前を確認します。そしてジョーがアービングから金を借りてアン王女の世話をすると言うところでは、尻込みするアービンに、「deal」を使って、「Do you want in on this deal or don't you?」って聞いています。「want in」は「事業などに加わりたいと思う」意味があります。従って「君はこの取引に加わりたいのか、それとも違うのか?」って言ってます。「deal」は男の言葉と言えるのかも知れません。
余談ですが、アン王女の話す言葉と内容には、一般人にしては不自然さが出てしまってますね。しかし、ここはジョーが彼女がアン王女だと知っているがゆえに、不審がらず話を合わせているところ。そうでなければ、「あれ? あなた王家かなんかなの?」って言われそうなほど、王女らしい話し方になっているのだと思います。しかし、観客は彼女が王女であることを知っており、ジョーもつじつまを合わせようとしていることも知っているのであり、観客は二人の微妙な会話のやりとりの綾を俯瞰の位置からながめたり、互いの気持ちになったりして楽しんでいる部分だろうと思います。
「学校の人は、君の髪を見てなんて言うだろうね?」
「きっと気絶するわ。かれらが私があなたの部屋で寝たと知ったらなんていうでしょう?」
「言っとくがね。君の家族には言わないように。私も私の家族には言わない事にするよ。」
「協定ね。」

カフェにやっと写真係となるアービングがやってきます。事情を知らないアービンは、アン王女を見て「王女に似てると言われない?」って言いそうになります。
「名字は?」
「スミス。」
「よろしく。」
「光栄です。」
「まるで替え玉だ。」
「向こうに行く。」
「そう言わずに。いたまえ。」
「ではフランチェスカが来るまで。」
「ラトビッチさん、かえだまって?」
(「ああ、ちょっと。」)
「一種の俗語だ。魅力的な人という意味。」
「ありがとう。」
「いいえ。」(日本語字幕より)
「Anya...?」
「Smith.」
「Oh. Hiya, Smitty.」
「Charmed.」
「Hey, did anybody ever tell you you're a dead ringer for...」
「Well, I guess I'll be going.」
「No, don't do that, join us.」
「Well, just till Francesca gets here.」
「Tell me Mr Radovich, what is a ringer?」
「Oh, waiter!」
「It's an American term. It means anyone who has a great deal of charm.」
「Oh, thank you.」
「You're welcome.」(英語字幕より)
アービングは、自分のきさくなあいさつにも関わらず、アーニャ・スミスと名乗るアン王女が「Charmed:光栄です」と答えるのを聞いて、普通じゃないと思います。「ringer」には「ベルを鳴らす人」の他に、「替え玉、生き写し」という意味があります。「be + a + dead + ringer for + O」で、「Oによく似ている、うりふたつである」の意味となります。アン王女は、耳慣れない「ringer」という言葉を聞いて、どういう意味か尋ねます。ジョーはすかさず、「an American term」と言います。「term」はこの場合は「(ある種の)言葉、専門用語」の意で、「アメリカ特有のことば」といったことを示しているようです。「a great deal of 〜」は「たくさんの〜、多量の〜」の意。「charm」は「魅力、人を魅惑する力」。素直なアン王女はそれと信じて、ダンスパーティのとき、ジョーに教えられた意味で、「あなたはうりふたつ」と言うところがあるので、ご紹介しておきます。
「アーニャ...?」
「スミス。」
「おー、ハイ、スミティ。」
「光栄です。」
「ねぇ、誰かに言われなかったかな、うりふたつだって。」
「じゃ、失礼するとしよう。」
「いや、それはよせよ。一緒にいなよ。」
「じゃあ、フランチェスカが来るまでだぞ。」
「教えて、ラドビッチさん、うりふたつってなんですの?」
「おい、ウエイター!」
「それはアメリカの言葉さ。とても魅力のある人のことなんだ。」
「あら、ありがとう。」
「どういたしまいて。」

有名な場面です。
「"真実の口”だ。嘘つきが手を入れると、咬まれるという言い伝えがある。」
「怖いのね。」
「やってごらん。」
「あなたが。」
「いいとも。」
「こんちは。」
「ひどいわ。だましたのね。」
「ごめんよ。大丈夫?」
「びっくりした。」
「大丈夫?」
(「ええ。」)
「行こう。ああーっ!」(日本語字幕より)
「The Mouth of Truth. The legend is, if you're a liar and you put your hand in here, it'll be bitten off.」
「What a horrid idea.」
「Let's see you do it.」
「Let's see you do it.」
「Sure.」
「Hello!」
「You beast, you're all right!」
「I'm sorry. It was just a joke.」
「You never hurt your hand.」
「I'm sorry. OK?」
「Yes.」
「All right, let's go. Look out!」(英語字幕より)
水を差すようですが、この場面はグレゴリー・ペックがオードリー・ヘップバーンには内緒で、監督と相談して手を取られるふりをする演技をしたそうです。ご覧のように、オードリーの演技は自身は予期していなかったのに、完全な反応、演技だったことが分かります。彼女は本当にジョーの手を心配したように反応しています。カメラの前でオードリーがアン王女になったあとは、相手をいかに見て演技していたかが分かります。この最初のワンテイクでOKだったそうです。
小さなところですが、ジョーが「やってごらん」と言ったあと、試すかのようないたずらっぽい表情をしたのに対し、アン王女は困った表情から、意を決して受けて立つと言わんばかりの表情に変わります。どこまでも自然に見える演技ですが、オードリーが心の動きを表情にすぐに表現できる、たいへん優れた演技者であったことが伺えます。
「bite off」で「かみ切る」。「horrid」は「恐ろしい、背筋がぞっとするような」の意。
「真実の口だ。伝説では、もし君が嘘つきなら、手をこの中に入れると、かみ切られるそうだ。」
「なんて恐ろしい考えだこと。」
「君がするのを見るとしよう。」
「あなたがするのを見ましょう。」
「いいとも。」
ジョーは入れた手に異常が起こるふるをする。必死に助けようとするアン王女。無事手は抜けたが、袖の先には手がない。驚くアン王女に、袖の中から手を出すジョー。
「こんにちは。」
「いやな人、なんでもないじゃない!」
「すまない。ただの冗談だよ。」
「あなたの手はまったくなんともなかったのね。」
「すまない。大丈夫?」
「ええ。」
「よかった、行こう。うわっ、見ろ!」

お昼の観光が終わって、サンタンジェロ城のダンス・パーティーが話題になります。サンタンジェロは、「Sant'Angelo」ですから、英語だと「Saint Angel」、つまり「聖 天使」ということですね。聖天使城とは、アン王女のダンスにはぴったりの場所ですね。
(また余談ですが、親近感のあるロサンゼルスは略して、ロスと我々言いますが、これは日本だけで、ロスは「Los Angeles(天使たち);スペイン語、男性複数の定冠詞のlosと天使たちの意のAngeles」の定冠詞の部分なので、通常国際的にはこれを省略形としては使わないそうです。「LA」と呼ぶそうです。)
「船のダンス・パーティーへ。」
「サンタンジェロ城の?」
「今晩、連れていって。」
「もちろん。」
「行こう。」
「12時に私はカボチャの馬車で、姿を消すわ。」
「それが、おとぎ話の終わりか。」
「アービングはもう帰る。」
「おれが?」
「焼いたり付けたりする仕事があるだろう?」
「あれか。」
「早くやれよ。」
「また後で、スミティ。」
「頑張って。」(日本語字幕より)
「I've heard you can dance on a boat.」
「You mean Sant'Angelo.」
「Couldn't we go tonight?」
「Why not?」
「Anything you wish.」
「At midnight I'll turn into a pumpkin and drive away in my glass slipper.」
「That'll be the end of the fairytale.」
「I guess Irving has to go now.」
「I do?」
「Yes, you know, that big business development you have to attend to?」
「That development.」
「Can't afford not to.」
「Yeah. See you later, Smitty.」
「Good luck with the big development.」
「Thanks.」(英語字幕より)
「slipper」は通常日本では「スリッパ」のことですが、本来は「(舞踏用)軽い上履き」のことのようです。
「fairytale」は辞書では見つかりませんでした。通常2つの言葉で「fairy tale」として、「おとぎ話」の意味となります。
写真で「フィルムを現像する」の、現像は名詞では「development」。ジョーは今すぐ撮った写真を現像しておく必要があると考え、アービングに気がつくように、そしてアン王女には気づかれないように、「development」を「開発」というビジネス用語として使って指示します。
「Can't afford not to.」は分かりにくいですが、日本語字幕では「早くやれよ」と表現しています。「afford」には「〜できる、〜しても大丈夫だ」という意味があります。すると、「それをしないと、大丈夫でなくなるぞ」って感じになります。実は、辞書には「You can't afford not to do it right away.:すぐそれをやらないとたいへんなことになる。」というのがありました。ひょっとすると、この言い回しは、全部言わなくてもそれを言っていると思われるほど、一般に使われているのかも知れません。ただ、ここではあくまで、「You can't afford not to attend to that big business development.:あの大きな事業開発に出席しなければたへんなことになるぞ。」って言おうとしてると、アン王女には聞こえるはずです。
「ボートの上でダンスができると聞いたわ。」
「サンタンジェロのことを言ってるんだね。」
「一緒に行っていただけません?」
「もちろん。」
「君の望むことならなんでも。」
「真夜中になったらカボチャに乗り込んで、ガラス製の舞踏用上履きのまま走り去るわ。」
「それがおとぎ話の終わりなんだね。」
「アービングはこれから失礼しなきゃならないと思うが。」
「おれが?」
「そうさ、なあ、あの大がかりな事業開発は君が出席しなくてはならないんだよね?」
「あの開発だね。」
「でなきゃたいへんだぞ。」
「そうだな。あとでね、スミティ。」
「その大きな開発によき幸運を。」
「ありがとう。」

そのサンタンジェロ城でのダンス・パーティー。
アン王女はジョーとのダンスするなか、
「Hello.」
と言い、ジョーも
「Hello.」
と答えます。
王女なら使わないあいさつのことばでしょう。ジョーに使う。それは、ジョーの住む世界で、ジョーの使っていることばで呼びかけてみたいという願いだったのかも知れません。

アン王女は、改めて感謝を伝える。彼女はなにかを伝えたいかのようだが、まっすぐ見つめる彼女から逃げるようにするジョーでした。
「ブラドリーさん、失礼だけど、あなたはかえだまね。」
「どうもありがとう。」
「なぜ一日中、私にお付き合いして下さったの?」
「何となくだ。」
「本当にご親切ね。」
「それほどでも。」
「私のためにこんなにまで。」
「バーで何か飲もう。」(日本語字幕より)
「Mr Bradley, if you don't mind my saying so, I think you're a ringer.」
「A what? Oh, thanks very much.」
「You're spent the whole day doing things I've always wanted to. Why?」
「It seemed the thing to do.」
「I've never heard of anybody so kind.」
「It wasn't any trouble.」
「Or so completely unselfish.」
「Let's have a drink at the bar.」(英語字幕より)
アン王女は、ジョーがとてもすてきであることを、そのまま言わず、今日習ったアメリカことばで伝えます。
アン王女の「unselfish:無私の」という言葉を聞いて、ジョーは気まずく、バーに誘うのでした。
「ブラドリーさん、私の言うことを許していただければ、あなたはうりふたつですわ。」
「え? ああ、ありがとう。」
「あなたは、私がいつもしたかった事に1日を使って下さったわ。どうして?」
「するべきことだと思えたのさ。」
「そのように優しい方のことは聞いたことがありません。」
「大したことじゃないよ。」
「あるいは、まったくの無私の方なんて。」
「バーで何か飲もうよ。」

一方、秘密警察たちに連れ去られようとするアン王女を助けようとして、ジョーは自分のほんとうの気持ちが分かったかのようでした。
ずぶ濡れになったふたりがキスをしたとき、二人は互いの存在の大切さを感じたのでしょうか。
ジョーは彼女が守ってあげるべき存在であることに気がつき、アン王女は自分がいかに幼かったかに気づいたのでしょうか。

ジョーのアパート。
互いを思う気持ちがあふれ出しそうな場面。今日という日まで、いやほんの少し前まで、無邪気な少女だったアン王女でしたが、一生懸命自分を律しようとする健気な姿、今や彼女の方がほんの少し大人に見えます。
「服は?」
「もうすぐ乾くわ。」
「僕のどの服もよく似合う。」
「そうね。」
「元気がつくよ。」
「お料理させて。」
「台所がない。いつも食事は外だ。」
「イヤでしょ?」
「ままならぬのが人生だ。」
「本当に。」
「疲れた?」
「少し。」
「よく遊んだ。」
「楽しかったわ。」
ーアメリカ放送が特別ニュースをお知らせします。ヨーロッパご旅行の途中、病に倒れられたアン王女のご病状の発表がないところから、もしやご重体ではないかと、国民は心を痛めています。ー
「聞きたくない。」
(「そうだね。」)
「もっとお酒を。お料理したいわ。」
「学校で習ったのか?」
「お料理は得意よ。専門にやれるくらい。お裁縫もお掃除も習ったのよ。ただ、人にしてあげる機会がなくて。」
「では引っ越そうかな。台所付きの所に。」
「そうね。」
ー間ー
「もう帰らなければ。」
「話がある。」
「言わないで。着替えをするわ。」(日本語字幕より)
「Everything ruined?」
「No. They'll be dry in a minute.」
「Suits you. You should always wear my clothes.」
「Seems I do.」
「I thought a little wine might be good.」
「Shall I cook something?」
「No kitchen. I always eat out.」
「Do you like that?」
「Well, life isn't always what one likes. Is it?」
「No, it isn't.」
「Tired?」
「A little.」
「You've had quite a day.」
「A wonderful day」
「This is the American Hour with a special news bulletin. There is no further word from the bedside of Princess Ann, who was taken ill yesterday on the last leg of her European tour. Rumours suggest her condition may be serious, causing alarm and anxiety among the people in her country.」
「The news can wait.」
「Yes.」
「May I have a little more wine? I'm sorry I couldn't cook us some dinner.」
「Did you learn how in school?」
「I'm a good cook. I could earn my living at it. I can sew too, clean a house, iron. I learned to do a all those things, I just haven't had the chance to do it for anyone.」
「Well, looks like I'll have to move and get a place with a kitchen.」
「Yes.」
「I shall have to go now.」
「Anya... ...there's something I want to tell you.」
「No, please. I must go and get dressed.」(英語字幕より)
「料理を作りたかった」というアン王女のことばにすべてが語られています。もちろん、今日のお礼というわけではありません。ジョーのためにすることをしたかった、せめてそのまねごとでもいいからしたかったのだと思います。
「みんなくちゃくちゃ?」
「いいえ。もうすぐ乾くわ。」
「似合ってるよ。君はいつも僕の服を着るべきだね。」
「そのようね。」
「少しワインを飲むといいと思ってたんだ。」
「なにか料理してかまわない?」
「台所がないんだ。いつも外で食べてるんだ。」
「それが好きなの?」
「いや、人生って思ってるものとはいつも違うんだよ。違わないかい?」
「いいえ、違ってる。」
「疲れた?」
「少し。」
「なかなかの1日だったよ。」
「素敵な1日だった。」
ーこちらはアメリカ・アワー。特別ニュースを速報でお知らせします。アン王女はヨーロッパのご旅行に疲れ、昨日ご病気になられましたが、病床からは新しい発表がありません。彼女の病状は深刻ではないかという噂もあり、国民の間に懸念と不安が広がっています。ー
「ニュースは待つことがないのね。」
「ああ。」
「もう少しワインをいただける? 夕食を作れなかったのは残念だわ。」
「学校で作り方を学んだのかい?」
「私は腕の良いクックよ。料理で食べて暮らせるくらい。裁縫もできるし、家の掃除だって、アイロンかけも。みんな習ったのよ。ただ、誰かにしてあげる機会がなかったの。」
「じゃ、僕は引っ越しして、キッチンのある場所を見つけなきゃいけないね。」
「そうよ。」
「もういかなきゃ。」
「アーニャ、君に話したいことがある。」
「いいえ、お願い。私は着替えをしなくては。」

門の外での別れ。
アン王女は自分に言い聞かせるかのように、ジョーに指示します。
ジョーは今は本当に彼女のためにだけを思っているかのようです。
「ここでおります。私はその先の角を曲がります。あなたは、このまま帰って。私の行き先を見ないと約束して。決して振り返らないでね。私もそうするわ。」
「分かった。」
「お別れの挨拶も言えないわ。」
「言わなくていい。」(日本語字幕より)
「I have to leave you now. I'm going to that corner there and turning. You stay in the car and drive away. Promise not to watch me go beyond the corner. Just drive away and leave me. As I leave you.」
「All right.」
「I don't know how to say goodbye. I can't think of any words.」
「Don't try.」(英語字幕より)
「Don't try.」がこのようにやさしい言葉となるとは思いもしませんでした。
「これであなたとお別れです。あそこの角まで行って、曲がります。あなたは車にいて、走り去ってください。約束して下さい。角を超えて私を見ないと。ただ車で去ってください。私を残して。私があなたを去るように。」
「いいよ。」
「なんてさよならを言ったらよいのか分かりません。なにも言葉が思いつかないんです。」
「言わなくていい。」

アン王女の寝室で。
「24時間の間、何もなかったとおっしゃるので?」
「ありました。」
「両陛下に何とご報告します?」
「病気だったが回復したと。」
「私には大使としての義務があります。王女にも義務がおありのように。」
「義務の話なら、心配に及びません。私が義務をわきまえていなかったら、今晩帰っては来なかったでしょう。この先も永久に。また忙しい日程が続きますから、もう、やすみなさい。」
「要りません。もう退って結構。」(日本語字幕より)
「Your Royal Highness, twenty-four hours, they can't all be blank.」
「They are not.」
「What explanation am I to offer Their Majesties?」
「I was indisposed. I am better.」
「Ma'am, you must appreciate that I have my duty to perform, just as Your Royal Highness has her duty.」
「Your Excellency, I trust you will not find it necessary to use that word again. Were I not completely aware of my duty to my family and my country, I would not have come back tonight. Or indeed, ever again. And now, since I understand we have a very full schedule today, you have my permission to withdraw. No milk and crackers. That will be all thank you, Countess.」(英語字幕より)
アン王女はもうお転婆な少女ではありませんでした。
すてきな異性に出会って、成長したというだけのものでもありません。自ら王女の道を選んだのです。今は勢いだけかも知れませんが、決して表面を取り繕っただけのものではないと言えそうです。彼女は本気になったのです。自分に対し、自分の人生に対し。表面的な理解なら、誰しも色々あろうかと。しかし、それらも本人が心の底でどう思っているかで態度となって出てくるようです。
簡単に言うと、痛快でしたね。
「blank」は「白紙の、からっぽの」の意。「まったく何もなかった」とは言わせませんという感じです。
「Majesty」は複数形で、「Highness」と同様な使い方で、「両陛下」を意味するようです。
「indispose」には「軽い病気させる」という意味があります。また「indisposed」も形容詞の言葉としてなりたっています。意味は「(一時的に)気分がよくない、軽い病気の」。
「appreciate」は「感謝する」の他に「正しく理解する、価値を認める」意があります。「understand」が「内容の知的な理解が中心的な意味であるのに対し、「appreciate」は人の気持ち、ものの価値、ことの重大さなどの理解が中心的な意味になるそうです。勉強になりますね。
「Excellency」も大使・大臣・知事・総督などの高官・高僧に対する敬称だそうです。これも「Highness」と同様に、「His Excellency」や「Your Excellency」で使い分けします。アン王女は、会話も王女としての姿勢となり、自然と職務に応じた呼びかけを相手にしているかのようです。
「aware of」で「気づく」の意。「Countess」は「伯爵夫人」。
「王女様、24時間、すべて何もなかったなどはあり得ません。」
「ありました。」
「私はなんと両陛下にご説明すればよいので?」
「私は気分が悪くなり、そして良くなったと。」
「お嬢様、私が行うべき義務があります。王女様が義務をお持ちと同じように。このことをよく理解していただかなければなりません。」
「閣下、私は、あなたがそのような言葉を再び使う必要を見出さないと信じます。もし、私が私の家族、私の国に対しての義務にまったく気づかないようであれば、今夜戻って来なかったでしょう。いや、実際には永遠に2度と。それから、今日はいっぱいの日程が入っていると分かっていますから、退がってよろしい。ミルクもクラッカーも要りません。なにもかもご苦労でした、伯爵夫人。」

アン王女の記者会見。
アン王女は、記者たちを見回し、すぐにジョーたちがいることを見つけます。一瞬曇ったその表情に昨夜から今朝にかけてまでの、彼女の苦しみが伝わります。彼女に決意はあっても、ジョーへの思いが軽かろうはずがありません。ただただ、何も知らぬアン王女が少しでも心の糧を得られますよう、この場を見守るだけです。
「一同を代表して、お祝い申し上げます。ご病気のご回復を。」
(「ありがとう。」)
「ヨーロッパの経済問題は、同盟で解決し得るとお考えですか。」
「ヨーロッパ諸国の緊密化なら、いかなる方法も賛成です。」
「国家間の親善関係の前途を、どうお考えですか。」
「永続を信じます。人と人の間の友情を信じるように。」
「私の通信社を代表して申しますが、王女のご信念が裏切られぬ事を信じます。」
「それで安心しました。」
「どこの都市が、一番お気に召しましたか。」
ー間ー
「どこにもそれぞれ...」
「どこにもそれぞれよいところがあり、どことは申せま... ローマです。なんといってもローマです。私はこの町の思い出を、いつまでも懐かしむでしょう。」
「ご病気あそばしたのに?」
「そうです。」
「ではお写真を」
アービングがわざとライター型のカメラで王女を撮影する。
「以上で会見を終わります。」
「記者の方々に挨拶を。」(日本語字幕より)
「I believe at the outset, Your Highness, that I should express the pleasure of all of us, at your recovery from the recent illness.」
「Thank you.」
「Does Your Highness believe that federation could be a solution to Europe's economic problems?」
「I am in favour of any measure which would lead to closer cooperation in Europe.」
「And what, in the opinion of Your Highness, is the outlook for friendship among nations?」
「I have every faith in it...as I have faith in relations between people.」
「May I say, speaking for my own press service...we believe that Your Highness's faith will not be unjustified.」
「I am so glad to hear you say it.」
「Which of the cities visited did Your Highness enjoy the most?」
「Each in its own way...」
「Each in its own way was unforgettable. It would be difficult to... Rome! By all means, Rome. I will cherish my visit here in memory, as long as I live.」
「Despite your indisposition, Your Highness?」
「Despite that.」
「Photographs may now be taken.」
「Thank you, ladies and gentlemen. Thank you very much.」
「I would now like to meet some of the ladies and gentlemen of the press.」(英語字幕より)
アン王女は、彼の誠実な存在に触れ、色々な思いにとらわれながらも、苦痛だったはずの会見のやりとりの中に自分らしさを発揮し始めます。そしてそれは、彼女の王女らしさの発揮でもあったように思えるのです。
記者の言葉で、「at the outset」は「最初は」の意。「express」は「(思想・感情などを)表現する」意味があります。
「favour」は「favor」と同じ。「in favor of 」で「〜に賛成」の意。
「opinion」は「意見」、「outlook」は「見晴らし、展望」の意。「among」は「(3つ以上の)間に」。
「faith」は「信頼、信用」。
「unjustified」は、「不当な、筋の通らない」。
「cherish」は「(大切に)心に抱く、持ち続ける」意味があります。
「despite」は、「にもかかわらず」。「indisposition」は「気分の悪いこと」。
「最初に、最近のご病気から回復されたことに対し、私達全員の喜びを表明申し上げます。」
「ありがとう。」
「王女さま、ヨーロッパの経済問題に同盟は解決になるとお思いでしょうか。」
「ヨーロッパの緊密化を導くいかなる方法も私は賛成します。」
「王女さまのご意見として、国家間の友好関係の展望はいかがでしょうか?」
「私はそれぞれに対し信頼しており、それは私が人々の間の友情関係を信じていると同じようにです。」
「申し上げます。我が通信社を代表して、私どもは王女さまの信頼が不当に扱われぬことを信じております。」
「あなたがそう言うのを聞いて、たいへんうれしく思います。」
「王女さまが最も楽しまれたのは、ご訪問された町の中のいずれでしょうか。」
「それぞれにはそれなりの...」
「それぞれにはそれなりの忘れられないものがあります。それは無理な..ローマです。絶対ローマです。私はこの町を思い出として、生きている限り大切に思うことでしょう。」
「ご気分がすぐれなかったのにもかかわらずですか、王女さま?」
「それにもかかわらずです。」
「写真をお取り下さい。」
「ありがとうございます。淑女、紳士のみなさま。ほんとうに有り難うございました。」
「では、記者の淑女、紳士の方々にあいさつしたいと思います。」

アン王女が次第にジョーに近づいていく場面は何度見てもどきどきします。
アン王女とジョーの間には、会話らしい会話はありませんでした。しかし、それにもかかわらず、互いが誠実さを確かめ合い、再会できた喜びを分かち合えたこと、その喜びを胸にしまう辛さも分かち合えたことも、ふたりの表情からうかがえます。
ジョーは、いずれアン王女のことのみを思い、誠実であったことを強く誇りに思うだろうことを信じながらも、あの1日を、アン王女と共に帰してしまったことへの気持ちで、長く悩むことになるのでしょうか。きっと、その後のアン王女の活躍を見て、励まされ、強く生きてゆけるのではないでしょうか。それは、彼女の最後の笑顔が保証してくれたように思えるのです。


まったくの余談になりますが、衣装デザイナーのイーディス・ヘッドは、俳優には衣装に注文をつけられなかった当時の中で、俳優の希望を聞き入れて、うまくそして素晴らしい衣装デザインを行ったそうです。ですから、最初新進気鋭の女優担当だったのですが、女優が成功して大女優になっても、イーディスは人気が高く、信頼を得ていたそうです。
ところで、彼女の映像を見ると、丸いサングラスをかけて、おかっぱ頭なんです。あのアニメ「ミスター・インクレディブル」に登場する衣装デザイナー「うりふたつ」なんです。失礼しました。

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「If you want to take me to the stewardess, then take me. If you want to arrest me, go ahead.」(「刑事コロンボ・殺人処方箋」より)

MY DVD:「PRESCRIPTION MURDER:殺人処方箋(1967年製作)」発売元:CIC・ビクタービデオ株式会社 UDF-1

最近、昔テレビシリーズだった「刑事コロンボ」がまた放映されているようです。
「刑事コロンボ」は、まず先に犯人の殺人が見せられ、後からコロンボが登場し、徐々に犯人を追い詰め、最後には思わぬアイデアで犯人の急所を突くという物語の展開が特徴です。したがって、犯人の気持ちでコロンボに痛いところを突かれる気分を、そしてコロンボ側から犯人の真相に近づき、犯人を追い詰めるおもしろさを、そして最後にまさかの方法で犯人を降参させる痛快さをそれぞれ味わえる、すぐれた作品でした。
DVDで少し作品を追ってみると、まず「殺人処方箋」に始まり、「死者の身代金」に「構想の死角」が続きます。
「構想の死角」で、シリーズ化決定後の最初となっており、ここから本格的にピーター・フォークのコロンボが形作られていったと思われます。実際、「殺人処方箋」の頃は、上等でないレインコートを着ていますが、それなりの靴を履いていますし、髪型も小ぎれいな感じです。当時「うちのカミさんがね」っていうのがトレードマークになっていましたが、最初の2作はそれほど全面的に打ち出している感じはないようです。
また、「構想の死角」はまだ無名だったスティーブン・スピルバーグが監督したというおまけつきです。
テレビではどのように放映されたのか、どの順番で放映されたかは、今となっては定かではありませんが、今回は第一作を取り上げてみようかと思います。なんといっても最後がたいへんおもしろかったし、インパクトありましたから。

犯人は知性高い精神分析医フレミング。自分の妻を殺したあと、自分の患者でもある愛人ハドソンに妻の衣装を着させます。かつらにサングラス、青いドレスに手袋。そして、二人、アカプルコに旅行へ出かける夫婦を装う。しかし、けんかから搭乗した飛行機の中で物別れとなり、妻だけが急遽家に帰ったと周囲の者に思わせて、アリバイを作ったのである。
フレミングの精神分析医らいし計画で、人の思い込みにつけ込んだ大胆なアリバイ工作だったが、これがうまく働くのだった。人は皆、フレミングのそばにいるというだけで、変装した愛人を本当の妻だと思ってしまうのである。
旅行から家に戻ったフレミング。そこには刑事コロンボが待っていた。
妻はどうしたと問い詰めるフレミングに、意外な答えをするコロンボ。
「そのですね。何者かが侵入して、殺そうとしたんです。」
「殺そうとした?」
「ええ、幸いまだ生きていますがね。」((日本語吹き替えより)
「Well...somebody broke in here and tried to kill her.」
「Tried to kill her?」
「That's right, Doctor. She's lucky, she's still alive.」((英語字幕より)

こうして、殺したはずの妻が生きていることを知り、まずは犯人のハラハラする心理を味わうことになります。
結局妻は、犯人である夫の名を呼んで、息を引き取ります。
ここから、コロンボとフレミングの頭脳合戦が幕開けとなります。
さまざまな接触の中から思わぬ痛いところを突くコロンボですが、フレミングを追い詰める手立てには一歩届かず、なかなか歯が立ちません。
コロンボはついに直接対決を避け、精神的に脆い面のある愛人ハドソンへと矛先を向けます。

コロンボが、俳優であるハドソンを訪ねて、撮影所に来る場面。
ハドソンが殺された奥さんの写真を拒むのをみて、ここぞと一気に詰め寄るコロンボ。
「やめて。」
「あんたがいなきゃ、奥さんは生きてられた。」
「やめて。」
「今頃、死体置き場に行かずに済んだ。」
「やめて。」
「あんたが殺したと同じだ!」
「やめて!」(日本語吹き替えより)
「Stop it.」
「Without you that woman would be alive.」
「Stop it.」
「Without you she wouldn't be lying in the morgue.」
「Stop it!」(英語字幕より)

精神的行き場を失ったハドソンは、顔をそむけたままうなだれてしまった。
我が意を得たコロンボ、彼女をやさしく促します。
「それじゃ、本部で供述取りますからね。」(日本語吹き替えより)
「Why don't we go downtown, and you can make a statement.」(英語字幕より)

果たして、彼女が顔を上げたとき、すでに彼女は、長い間失われていた強さを取り戻していたのであった。
「イヤよ。これ、人権侵害よ。あたし、関係ないと言ってるでしょ。全然、全然関係ないわ。」(日本語吹き替えより)
「No! You have no right! I have nothing to do with this. Do you understand? Nothing. Nothing at all...」(英語字幕より)

コロンボは思わず、口にくわえていた葉巻を手に取った。今目の前の彼女には、もはやつい先ほどまでの彼女の姿はどこにもなかった。怒りが、彼女に彼女本来の強さを呼び覚ましたのである。そして、毅然とした態度で彼と対峙していたのである。
「スチュワーデスに会わせたいなら、やるがいいわ。逮捕したいなら、やるがいいわ。でも、なんにも立証できないわよ。逮捕するか、このまま引き下がるか、好きな方にしたらいいわ。」(日本語吹き替えより)
「If you want to take me to the stewardess, then take me. If you want to arrest me, go ahead. But you can't prove anything. Now either charge me or let me leave. I don't care what you do.」(英語字幕より)

コロンボは彼女が自分の言葉を取り戻したことを悟ったのであろう。そして、その態度に敬意を示すかのように言葉を贈った。
「行っていいですよ。」(日本語吹き替えより)
「You can go.」(英語字幕より)

しかし、コロンボはあらためて意を強くしたかのように、彼も自分の決意を彼女に返すのであった。
「ハドソンさん、これからが本番だと、腹くくっておくことですよ。あたしだって、こんなことやりたくないんだ。これからぁ、あんたをまいらせるために、ありとあらゆる手を使うつもりだ。フレミングはひとつだけミスをやった。あんたを使ったことだ。弱いあんたをね。今日は思いがけず、気丈なところを見せられましたが、明日ということもある。その次の日もある。その次の日もある。遅かれ早かれ、あんたはしゃべることになる。その時が来るまで、質問され、尾行され、駆り立てられる。フレミング先生にも止めようがないんだ。あんた一人でがんばるしかない。あたしゃ、あんたを落として、あいつを逮捕します。これは、約束します。」(日本語吹き替えより)
「MIss Hudson... I hope you understand this is only the beginning. In a way, I feel sorry for you. Because from now on I'm gonna do everything I can to break you down. Do you understand? Dr.Flemming made one mistake and you're it. You're the weak link, Miss Hudson. You surprised me today because you're strong. But there's always tomorrow. And the day after that. And the day after that. Sooner or later you're gonna talk to me. Until you do you're gonna be questioned, You're gonna be followed, you're gonna be hounded. Dr.Flemming can't do anything about it. You're on your own, Miss Hudson. And I'm going to get to him through you...that's a promise.」(英語字幕より)

ハドソンは、コロンボの言うとおり、尾行され、自宅も張り込みにべったり監視されることとなった。
そんな中、大胆にも彼女はフレミングに電話するのだった。事情を聞いたフレミングはなおさら警戒を深め、今夜会いに来て欲しいと懇願する彼女の申し出を断り、翌日の再会までの辛抱を要求するのだった。
ある意味で、ここでの彼の計画遂行を優先しようとする非情さが、彼の人生そのものの破綻を招くことになったのである。

英語字幕を確認してみますと、さすがに吹き替えということで、伝えられる情報量が増えるからと思いますが、双方比べてみても、ほとんど違和感ありません。
内容の説明は不要と思われますが、ハドソンが開き直って言い返すセリフの「スチュワーデスに...」のところは、英語でもシンプルながら魅力のある表現となってますね。本来なら、参考人という軽いものではなく、容疑者としてスチュワーデスに会わされたり、あるいは逮捕されたりと受け身な立場にあるはずの彼女が、「then take me:なら、私を連れて行きなさい」とか、「go ahead:おやりなさい」などと命令口調となって、彼女が取り戻した内面の強さが言葉に表れています。

コロンボの反論部分も、吹き替えは彼の人間性を加味したような卓越したセリフとなっています。
英文で意味を確認したくなったのは、「in a way:ある点で(ある意味で)」・「from now on:これより」・「the weak link:弱点、命取りになりかねない人」・「be hounded:しつこく追い回される」・「on one's own:ひとりで、独力で」などがありました。
また「break down」は、辞書ではいくつか意味がならんでいた中で、せいぜい「(抵抗を)やめさせる」ぐらいしか適当なものが見つかりませんでした。そこで刑事もので、つっぱねていた犯人に犯行を認めさせることを、「落とす」という言い方をしますが、このセリフの最後に英文にないところへこの表現を使ってます。むしろこちらの表現を「落とす」でどうかなと考えています。
「ハドソンさん。あなたには、これがただの始まりに過ぎないと言うことを分かっていただきたいですな。ある点では、申し訳ないと思ってます。というのは、これからあなたを落とすためにありとあらゆることをするつもりです。分かりますか? ドクター・フレミングは、ひとつだけミスを犯した。あなたがそれです。あなたが弱点なんです、ハドソンさん。今日はあなたに驚かさせていただきました。あなたの強さにね。しかし、常に明日というものがあります。また、次の日ということもある。そのまた次の日も。遅かれ早かれ、あなたは私に話すことになるでしょう。そうするまでは、あなたは質問され、追跡され、そして追い回されるでしょう。ドクター・フレミングもこのことには何もできません。あなたは自分でやるほかありません、ハドソンさん。そして、私はあなたを通して、彼を逮捕するつもりです。これは約束します。」
この最後の、「that's a promise.:これは約束です。」は、とても強い言葉のようです。「I will」や「I'm going to」などような「つもり」の状態ではないようです。「必ず遂行する」ことが「約束」することのようです。ひょっとすると、精神的には”契約”よりも強いかも知れませんね。”契約”には”破棄”する逃げ道がありますからね。

いよいよクライマックスです。
「殺人処方箋」をこれまで見たことのない方で、結末をお知りになりたくない方は、これからさきはご遠慮ください。
テレビ放映されただろうこと、かなり年月が経っていることから、これから結末までご紹介することをお許し願いたいです。

翌日フレミングのもとには、約束の時間が過ぎてもハドソン嬢は現れなかった。
不安になったフレミングは、秘書に確認の電話をさせるが、検死官や警官が電話に出てくるだけで、なにやら”事故”があったことぐらいしか分からない。業を煮やしたフレミングは、後の患者はキャンセルするよう秘書に指示して、ハドソン宅に向かうのであった。
ハドソン宅に着くと、コロンボ刑事が無表情に突っ立っている。その前を通り抜け、庭の方から中へ入ると、プールの反対側で、水着姿のハドソン嬢が二人の警官に持ち上げられて、搬送用担架に乗せられているところであった。
顔には布が被されるのであった。

「まさか何だというんだ?」
「昨日ちょっと質問したんですが、どうも少しきつく言い過ぎたようです。あの女(ひと)通して、あんたを落とすと。」
「君が彼女を追い込んだんだ。予想できなかったのか。どうでもよかったのか。」
「説教は結構で。これぁ、一生あたしの責任としてしょってきます。が、あんたにも責任がある。二人で殺したんだ。あの女はあんたを守るために自殺したんだ。ただ、あんたのためにです。ところで、おめでとう。これで、あんた一生ご安泰だね。しかし、うまくいったもんだ。ただひとりの証人だったからね。もう、私にはなんにもできない。あんたは、天下晴れて”白”だ。あんたの勝ちですよ。しかし、同情すべき点もある。」
「どういうことだね、それは。」
「あの女ですよ。あの女を愛し、そのために苦労して殺しまでやったのに、いざとなったら肝心の彼女がいないんですからね。なんにも残っちゃいない。」
「何が言いたいんだ?」
「別になんにも。ただ、こう思ったんですがね。これから先はさぞかし孤独だろうとね。秘密をはき出しちゃった方が、楽になりませんか。」
「どんな秘密を。」
「真相をです。」
「つまり、自白しろって言うのかね。」
「不思議じゃないっと思いますが。だって、先生には楽しみもないでしょ。ねぇ、そうでしょ。あの女は死んでしまったし、あの女への手向けになるかも。如何です?」
「ふふふふ。やはり、君はおかしな男だ。」
「わたしゃ、大まじめですよ。」
「しかし、事実おもしろいよ。そう、我が身を罰せよと言うのか。ただひとりの愛人を失い、生きる希望もないからと言うのかね。」
「そう! もし、本当に愛しておられたなら。」
「あの娘(こ)を愛した? 君を買いかぶりすぎたようだな。君なら、人間を理解していると思ったが。僕は愛してなかった。」
「まさか、先生!」
「事実さ。覚えてるだろ、仮定の殺人者の話を。彼にはアリバイが必要だった。あの娘が手近にいたので利用した。それだけさ。」
「そんな。だって、あの女を愛したからこそ、奥さんを殺したんでしょ?」
「もし、僕がキャロルを殺したなら、もちろんその証拠はないが、それは僕自身のためで、大部屋女優のためではない。」
「でも、殺しに手を貸したんだから、結婚しなきゃならんでしょう。」
「そうとは限らんさ。解決法はいくらでもある。事故で死ぬこともあり得るし。」
「そこまで計画してあったの、レイ。」(日本語吹き替えより)
彼女の声が響いた。部屋の奥に女性の姿があった。しっかりした足取りで歩んで来るその姿は、まさに彼女に間違いなかった。彼の存在は音を立ててくずれた。
「はっきり、この耳で聞いたわ。」(日本語吹き替えより)
今度は確かめるように、歩み寄るフレミング。ふと、プールの向こうに運ばれていった死体の方に眼をやると、そこには見慣れた水着を着て、何事もなかったかのように立ってこちらを見ている、まったく別の女性の姿があった。髪の毛の色、顔つき、スタイル。何もかもが彼女そっくり。しかし、彼女ではなかった。
フレミングは静かに、ハドソン嬢を見、コロンボを眺めた。
彼女はしっかりした眼をしていたが、失意の表情だった。一方、コロンボは、先ほどまでの気配を消した表情から一変し、物事を最後までやり遂げる気迫が表に出てたのである。

この快感。
視聴者というよりは、むしろフレミングの立場に近い、”してやられた”っていう感覚に、こみ上げる快感があとを追ってくる。
コロンボに追われ、フレミングに助けを求めていたハドソン嬢に何があったのか。彼女は、コロンボに”落とされ”たのだろうか。彼女はその脆さを突かれ、コロンボに屈したのであろうか。
いや、コロンボは、その意に反して、彼女の中に、愛に生き、彼女を彼女らしい人生に導く生命力のある姿を見た。そして、このことにこそ、コロンボは新たな希望を見出したのであろう。コロンボは彼女の愛を尊ぶ精神に賭けたのだろう。
もはや、脆いのはハドソン嬢ではく、フレミングの愛のない思い上がりの部分となったのである。
コロンボは、ハドソン嬢の愛を尊ぶ力で、フレミングの愛を利用した罪を糾弾したのである。

「You didn't think what?」
「I questioned her yesterday... I guess I pushed her too far. I told her that I... I was gonna get to you through her.」
「You had to bring her into this, didn't you? Didn't you know what she'd do? Or didn't you care?」
「Don't lecture me, Doctor! I'm responsible! And I'm gonna have to live with it. But you're leaving somebody out. We both killed that girl, the two of us together! She committed suicide for one reason...to protect you! You see it was all for you, for you, Doc. By the way, congratulations. I mean, you're home free, aren't you? Boy, you couldn't have worked out better. She was the only one who could have given you away. I can't touch you any more; nobody can. You're free and clear. You've won, Doc. The only trouble is, you didn't get what you were going after.」
「What is that supposed to mean?」
「The girl. You loved her...and you wanted her, and you were willing to murder for her. But now she's gone. All that planning, all that sweat. And you wind up with nothing.」
「What're you trying to tell me?」
「I'm not trying to tell you anything, Doctor. I was just thinking that uh... You're going to be a terribly lonely man from here on in... And maybe you'd feel better if you got a few things off your chest.」
「Like what?」
「like the truth.」
「Are you asking me to confess?」
「Well, that's not so strange. After all, what have you got to look forward to? Think about that, Doc. The girl isn't around any more...and maybe you owe her something. What do you say, Doc?」
「You are very funny man.」
「I wasn't trying to be funny.」
「But you are...more than you know. So you want me to purge myself. My one-and-only love is dead and I have nothing more to live for.」
「All I'm saying is that if you loved that girl...」
「Loved that girl? Look Columbo, I overestimated you. I thought you understood about human nature. I never love that girl.」
「Come on, Doc.」
「No, really... ...remember that hypothetical muudere we were talking about? He needed an alibi. The girl was available so he used her. it was as simple as that.」
「No. You killed your wife because you were in love with the girl.」
「If I killed Carol...and there's no proof that I did...I did it for myself, Not for some dima-a-dozen little actress.」
「She helped you with the murder. You would've had to marry her.」
「Not really. Something would have been arranged. Like an accident, maybe.」
「Always planning ahead, aren't you, Ray?」
「They said there was something I should hear...」(英語字幕より)

「I pushed her too far.」は「あまりに遠くへ彼女を押しすぎた」って感じですが、「push」には「問い詰める」って意味もあるようです。従って、「 I guess I pushed her too far.」は、やはり「どうも、彼女を問い詰めすぎたようです」となりそうです。
「You had to bring her into this」の「had to」は「have to」の過去形で、この場合「違いない」という感じです。「bring O1 into O2」で「O1にO2に入ってもらう」という柔らかな意味があります。しかし、「You had to bring her into this, didn't you?」は、「君が彼女をこの事態に追いやった、違うかね?」と強く詰め寄る内容になっています。
このように「彼女を巻き込んだ」と責められたコロンボは、「 But you're leaving somebody out.」で「しかし、あなたは誰かさんを閉め出したたままにした」と言って、フレミングに「彼女をほったらかしにしたのは誰か」と反論しています。
互いの罪を咎める話が一段落すると、コロンボはハドソン嬢が死んだことで、フレミングが勝利を勝ち取ったと話を振ります。
「you're home free」の「home free」は、「勝利疑いなしの、楽勝ムードの」という形容詞句となります。
「Boy, you couldn't have worked out better. 」はコロンボの皮肉が入った感じです。ここでの「work out」は「(苦労して)〈事〉をやり遂げる」意となりそうです。頭に「boy」を付けて、揶揄するように、「君はね、(頑張ったが)よくやったとは言い難い」って言ってる感じです。
ところが、彼女は死んでしまったわけです。「give away」で「〈秘密など〉をばらす、正体を現す」って意味があるようです。
「free and clear」って法律用語では「〈財産が〉抵当に入ってない」という意味になるそうです。面白いですね。ま、「自由で潔白」でいいと思いますが、イメージを膨らませて「〈自分の身が殺人の〉嫌疑にかからない」という意味にもなることも学べますね。
「you didn't get what you were going after.」って、分かりにくいですね。「あなたは得なかった」・「あなたが(事の)後で向かおうとしたものを」。つまりコロンボは、彼女が死んだことで、フレミングが本当の目的を失ったと言ってます。
「What is that supposed to mean?」の疑問形を、肯定文風にしますと。「that is supposed to mean what」ってなります。「be supposed to do」で「するはずである、しなければならない」であります。従って、「それは〈何〉を意味するはずである」ってなります。回りくどくてすみませんが、「それは何を意味するはずなのかね?」から、「それはどういう意味で言ってるのかね?」って感じになります。
「wind up with」で、「〜でやめる、〜でけりをつける」といった意味を持つようです。「And you wind up with nothing.」は、「そして、あなたは何も手にすることなく、ことが終わってしまった」となり、あるいは「結局、ことが終わって、あなたには何も残らなかった」ってなりそうです。
「get O1 off O2」は、辞書に「O2を説得してO1を手に入れる」とあります。「And maybe you'd feel better if you got a few things off your chest.」は、「そしておそらく、あなたはご自分の胸に相談してなにか少しでも得られたら、気分もよくなるのではないですか」ってなります。
「confess」は「白状する、告白する」。「strange」は「奇妙な、不思議な」。「look forward to」は「期待する」。
「S+owe+O1+O2」で、「SがO2をO1に対して負っている、O1にO2の恩義がある」となります。従って、「 you owe her something」は、「あなたは彼女に対しなにがしかの借りがあるでしょ」って感じです。
「purge」には「清める、あがなう」という意味があります。となりますと、「you want me to purge myself」は「あなたは私に、私自身を清めることを望んでいる」、「君は私に罪をあがなえと言ってるのだね」などとなります。
「overestimate」は「過大評価する、買いかぶる」です。
フレミングは「I thought you understood about human nature.」と言って、「君は人間の本質をよく理解していると思っていたんだがね」と見下していますが、まさにコロンボは人の本質・特質をよく理解した解決方法をこのあと見せることになります。
聞き慣れぬ「hypothetical」は「仮定上の、仮想の」。
「alibi」は「アリビ」ってなんだ?って思いましたが、「アリバイ」でした。加えて、「アリバイに使われる人」って意味もありました。そして、そもそも「口実、言い訳」の意があるのですね。また、ラテン語の「alibi」には「どこかほかのところで」って意味があるそうです。面白いですね。
「available」には「利用できる、得られる」などの意味があります。「The girl was available so he used her.」は、「あの娘は利用できたので、彼は使ったわけさ。」って、こいつひどい奴ですな。
コロンボはそうじゃない、彼女への愛のために人殺しをしたのだろと、愛を謳ってみせます。フレミングは勝ち誇ったように、ハドソン嬢をけなすのでした。フレミングは踏み出してはいけない扉を開けて、自らの真実を語ってしまいます。
「dima-a-dozen」という英文は、おそらく「dime-a-dozen」のなまったものか、間違ったものじゃないかと思われます。「dime-a-dozen」の方は、「a dime a dozen」のことで、「dime」が10セントを示しますので、「1ダースにつき10セント」の意から、「ありあまるほどいる、一山いくらの、ごくありふれた、つまらぬ」などの意味となってます。日本語の「十把一絡げ:どれもこれもあまり価値のないものとして、多数をひとまとめに扱うこと。また、何もかも一緒くたにして扱うこと。」に近い感じ。もっともこちらは「〜に扱う」といった動詞的な意味ですけど。元に戻りまして、吹き替えの「大部屋女優」はなるほどって感じです。
ハドソン嬢の最後の言葉に、トリックの種明かしが含まれていました。
「They said there was something I should hear...」
「かれら(刑事たち)は言った、そこには何かある、私が聞かねばならないものが...」

ところで、先ほど紹介した「be supposed to ~」の文型は、現代風な映画の中でよく耳にします。
「ザ・ロック:THE ROCK」にもありました。
長い間投獄されていたショーン・コネリーが、特殊任務にかり出されそうになったとき、ちょっとしたすきを突いて、逃げだし、唯一の家族である娘に会ったときの会話。
「I've rehearsed this speech a thousand times on the chance that we would meet. Here we are, and I'm lost.」
「Well, I don't know how I'm supposed to be feeling either.」(英語字幕より)
短いシーンですが、ちょっとした見せ場になっています。訳してみました。
「私たちが会える日のために何百回も言い方を練習してきたんだ。なのにこうしてみると、真っ白だ。」
「ええ、私もどう思えばいいのか分からないわ。」
そして、「ショーシャンクの空」での「be supposed to ~」。
長い間囚人生活をしてきて、思わぬところから見つかった自分の無実を証言する青年を無惨にも殺され、自らも独房に入れられた後、ティム・ロビンスの言動はおかしくなっていた。みんなが彼の自殺を心配する中、ひとりがロビンスから1本のロープの調達を頼まれて渡したと言う。非難されるその男。
「Hey, how was I supposed to know?」(英語字幕より)
「私はどうやって知ってることになってたというのか?」。いや、「私にはどうやっても知れやしないじゃないか?」という感じですかね。
はたまた、「ミッション・トゥ・マーズ」にもありました。
「She wasted away in front of his eyes. What was he supposed to do, suck it up? Get with the program? That he showed a little emotion? 」(英語字幕より)
(「waste away」で「衰弱する・やせ衰える」、「suck it up」は「困難を受け入れる」、「get with」は「に取り組む」、文章は途切れているが「that」以下は直前の「the program」を説明している。)
訳してみますと、
「彼の目の前で彼女は衰弱していったんだ。どうすりゃよかったと言うんです、辛抱しろと? (心理)プログラムに取り組めと? 彼のちょっとした感情を見せるための(プログラムに)?」

訳してみました。
「何を思いつかなかったって?」
「彼女に昨日尋問したんです。どうも、問い詰めすぎたようで。彼女に言ったんです。彼女を通してあなたを捕らえると。」
「君が彼女をこの事態に巻き込んだに違いない、そうじゃないかね? 彼女のしそうなことが分からなかったとでも? あるいはどうでもよかったと?」
「説教は結構です、ドクター。責任は私にあります。このこととともに生きていくつもりです。しかし、あなたも閉め出したままにしたよね。私たちは共にあの女を殺したのですよ。私たち二人ともね。彼女が自殺を犯してのはただ一つの理由のため、あなたを守るためだ。すべてがあなたのだめだった、あなたのためにね、ドクター。ところで、おめでとうございます。つまり、あなたは勝利間違いなしってことです。違いますか? あんたは、頑張りましたが、よくやったってわけではなかった。しかし、彼女はあんたの正体を示すことのできる唯一の人間だった。私にはもうあなたに触れもしない。誰にもね。あなたは嫌疑なし。あなたは勝ったんだ、ドクター。ただひとつ問題は、このあとに考えていたものを得られなかったってことですね。」
「それはどういう意味かね?」
「あの女ですよ。あなたは彼女を愛し、そして彼女を望んだ。そしてあなたは彼女のために人殺しを望んだ。しかし、今や彼女は逝ってしまった。すべての企てが、すべての努力が。そして、あなたの手元には何も残らなかった。」
「何を言おうとしてるのかね?」
「何も言おうとしてなんかいませんよ、ドクター。ただ私は、あー、あなたがこの状況ではこれからは耐えられぬほどの孤独な方になろうとしていると。だから、たぶん、手を胸に当てて、何かをすれば安まるのではないかと。」
「たとえばどんな?」
「真実を。」
「君は私に自白を求めているのかね?」
「ええ、不思議なことでもないでしょ。そもそも、何を望んでました? 考えて見てください、ドクター。あの女はもういないのです。それにあなたは、彼女に借りがあるでしょ。どうです、ドクター?」
「君はたいへん面白い人間だ。」
「面白くしているつもりはありません。」
「しかし、君は、自分で思っているより面白い。それで、君は私に罪をあがなえて欲しいのだね。私のまさに唯一の愛が死んで、私には生きていくための何もないと。」
「私が言いたいことのすべては、もしあなたが彼女を愛しているのなら...」
「彼女を愛してる? ねぇ、コロンボ君、私は君を買いかぶりすぎたようだ。君は人間の本質をよく理解していると思ってんだがね。私は彼女を愛したことなんかない。」
「まさか、ドクター。」
「いいや、事実さ。話し合ってた仮想の殺人者を思い出してもらおう。彼にはアリバイが必要だった。あの娘は利用できたんでね、それで彼は彼女を使っただけさ。ただそれだけのことだ。」
「いいえ。あなたが奥さんを殺したのは、あなたがあの女を愛していたからだ。」
「もし私がキャロルを殺したのなら、私が殺した証拠はないがね、それは自分のためであって、どこかのちんけな大部屋女優のためじゃない。」
「彼女は殺しを手伝ったんだから、彼女と結婚しなくてはならないでしょう。」
「そんなことはない。何かが準備されていたってこともある。たとえば、事故とかね。」
「常に先まで計画されていたというわけね、レイ?」
「私が耳にすべきことがあると聞かされたけど...」

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「and we hit it off right way」(「シカゴ」より)

MY DVD:「CHICAGO:シカゴ(2002S年製作)」発売元:ハピネット・ピクチャーズ BIBF-5880A

あけまして、おめでとうございます。
年末年始、ドタバタしまして、ご無沙汰しました。本年もよろしくお願いします。
最近、わたしのブログの異変と言えば、「シカゴ」の「And All That Jazz」の記事にアクセスする数が急増して、トップの「プライベート・ライアン」と肩を並べたということです。
「And All That Jazz」って、それぞれは知っている単語なのにどうも意味が分からないっていう言葉ですよね。ほとんどの方が「All That Jazz」で検索されているようです。私がたまたま「and such similar things」という意味を見つけたのは、「And」がついた「And All That Jazz」のまるごとで探したからでした。
そこで新年のごあいさつをかねまして、たくさんのアクセスに感謝して、今回は再び「シカゴ」から、「Cell Block Tango」を少しご紹介したいと思います。

Cell Block Tango
「cell」には「修道院の独居房」の意があり、「隠す」が原義と辞書にありました。ここでは刑務所の「独房」を表しますが、元々そんな意味があったんですね。

He had it coming
He had it coming
He only had himself to blame
If you'd have been there
If you'd have seen it
I betcha you would have done the same!

この曲で耳に残るところと言えば、
「ヒ、ハディ、カミン」
つまり、
「He had it coming」
ですね。私の感覚ですけども、英語って、簡単な単語で表現されるほど”難しい”って感じです。”さあ、調べるぞ”って思って、見るとすべて知ってる単語ばかりだったりしますが、さっぱり意味わからないんです。これもそんな感じのタイプです。聞いたことのない単語が出てきて、辞書引くとちゃんとした意味が分かったりして、そうかそうかとなれば、結構楽なんですよね。
今回は使役動詞の「have」に着目です。
「S + have + O + doing」の形で、「〈人が〉〈物〉を〜させる」という意味になります。ここでは、
「彼が、itを、来させた」
となります。「it」は、この歌が自分の犯した殺人は無実だと訴える歌ですから、「彼がやがて殺されるに値する罪(となる行為)」を示していると考えられます。
「He only had himself」で「彼はただ自分自身を持っていただけ」。その「自分自身」とは「to blame」で「とがめるべき」ものとなります。「to blame」は名詞「himself」を修飾している「形容詞的不定詞」です。この場合「himself」は「blame」の意味上の目的語と考えられます。従って、「He only had himself + he must blame himself」で「He only had himself whom he must blame 」と同等であると考えます。
「If you'd have been there」は「If you would have been there」で、「もし、あなたがあの場のいたなら」となります。
同様に、「If you'd have seen it」は、「もし、あなたがそれを見たなら」。
「I betcha」は「And All That Jazz」で紹介したように、「betcha」は「bet you」で、「~であることに賭ける、であることを請合う」と考えます。その後は、「あなたは同じことをしたでしょう!」となります。
歌詞カードの内容はこれらの意味を良く伝えています。
自業自得!
自分がまいた種
あいつに天罰が下っただけ
あなたがあたしの立場なら
きっと
同じことをする(歌詞カードより)

あいつがそれを招いたのさ
あいつがそれをもたらしたのさ
あいつがただ持っていたのは 責められるべき自分だったのさ
あんたがあの場にいたなら
あんたがそれを見たなら
きっとあんたも同じことをしたはず

もう少し欲張って、リズとアニーの部分まで訳してみます。
LIZ:
You know how people have these little habits that get you down? Like Bernie. Bernie liked to chew gum. No, not chew. Pop. So I come home this one day and I am really irritated, and I'm looking for a little bit of sympathy and there's Bernie layin' on the couch, drinkin' a beer and chewin'. No, not chewin'. Poppin'! So I said to him, I said, "You pop that gum one more time..." And he did. So I took the shotgun off the wall and I fired two warning shots...into his head.
「get+O+down」で「うんざりさせる」。

リズ:
いるでしょう?ヤな癖持った奴
バーニーにはガムを噛む癖があった
ガムをふくらませてパチン!
その日はイヤなことばっかでイライラして帰宅した
バーニーはソファーに寝っ転がってビール
そしてガムをふくらませてパチン!
今度またやったらとあたしが言った時パチン!
あたしはショットガンを取って警告の2発をかました あいつのど頭にね!(歌詞カードより)

いかに人々がうんざりさせるような小さな癖を持ってるかって、分かるわね。
バーニーみたいにね。バーニーはガムを噛むのが好きだった。いえ、噛むのじゃなくて、パチンとはじけさすこと。
この日帰ってきたときは、本当にイライラしていた。だから、ちょっとでもいいから思いやりが欲しかったの。でもバーニーは長いすに寝そべって、ビール飲んで、そしてもぐもぐ。いえ、もぐもぐじゃなくて、パチンとはじかせた。だから、彼に言ったの。言ってやったわ、「あんたもう一度パチンとやったら...」って。そしたらやつはやったの。だから、あたしは壁からショットガンを取って、警告の2発を撃ったの、あいつの頭の中に。

He had it coming
He had it coming
He only had himself to blame
If you'd have been there
If you'd have seen it
I betcha you would have done the same!

ANNE:
I met Ezekial Young from Salt Lake City about two years ago and he told me he was single and we hit it off right way. So, we started living together. He'd go to work. He'd come home. I'd fix him a drink. We'd have dinner. And then I found out. Single he told me? Single, my ass. Not only was he married...oh, no, he had six wives. One of those Mormons, you know. So that night, when he came home from work, I fixed him his drink, as usual. You know, some guys just can't hold their arsenic.
「hit it off」で「意気投合」する。

アニー:
エゼキエルと知り合ったのは2年前
独身だと言う彼とたちまち意気投合
一緒に暮らし始めて彼は仕事へあたしは家で模範的な主婦
でもやがてバレた
独身だなんて真っ赤な嘘!
それも1人じゃなく妻が6人いたの
モルモン教でね
その夜戻って来た彼にいつものようにカクテル
ミックスしたヒ素が合わなかったみたい(歌詞カードより)

ソルトレイクシティからやって来たエゼキエル・ヤングに会ったのは2年前
彼は自分がシングルと言った そして私たちはたちまち意気投合
私たちは一緒に暮らし始めた 彼は仕事に行く
彼が家に帰ってきたら 私は彼に飲み物を用意する 私たちは夕食を食べる
そして私は分かったの 独身と彼は言ったっけ? 独身、とんでもない
結婚していたどころか、6人の妻がいた モルモン教だったのよ
それであの夜、彼が仕事から帰ってきたとき、あたしはいつものように飲み物を用意した
わかるでしょ、男の中にはヒ素に耐えられないやつがいるのよ

He had it coming
He had it coming
He took a flower in its prime
And then he used it
And he abused it
It was a murder but not a crime
「prime」は「最高の状態、全盛期」の意。「abuse」は「傷つける、虐待する」。「crime」は「罪、犯罪」。

自業自得よ!
自分がまいた種
美しい花を手折って
足で踏みにじり
花は泥まみれ
人は殺したけど犯罪じゃない(歌詞カードより)

あいつがそれを招いたのさ
あいつがそれをもたらしたのさ
彼は最も美しい時期の花を奪い取る
それから彼は悪用する
そして彼は傷つける
あれは人殺しだったけど、罪じゃないわ

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「Live and let die」(「シュレック3」より)

MY DVD:「SHREK:シュレック(2007年製作)」発売元:角川エンターテイメント DWBF-10070-3

今回もシュレックですが、3作目を見てみます。
カエルの王様が亡くなると、懐かしい曲が聞こえてきました。007シリーズで、ロジャー・ムーアがボンド役だった「死ぬのは奴らだ」のメイン・テーマです。カエルの王様は死のお迎えを快く思ってなかったのかも知れませんが、この歌はあまり適切とは思えませんでした。と言うのも、曲を聴いてると心の高揚を抑えられず、一緒に歌いたくなってしまったものですから。
しかし、「ラブ・アクチュアリ」では、妻の遺言により本人の葬式にベイシティ・ローラーズの歌を流すシーンがありました。これも、ひょっとするとカエルの王様が無念を表した、本人のリクエストだったかも知れませんね。
「若さと希望が胸にあふれる時
怖いものはない
すべての人を許して
自分も生きる

でも、世の中は目まぐるしく
変わってゆく
夢は破れ
みじめな自分に涙する

死ぬのは奴らだ
死ぬのは奴らだ」(日本語字幕より)
「When you were young and your heart
Was an open book
you used to say live and let live

You know you did, you know you did
You know you did

But if this ever changing world
in which we live in
Makes you give in and cry

Say live and let die
Live and let die
Live and let die」(英語字幕より)
「open book」という言葉には、「明白な事実、ざっくばらんな人」という意味があるようです。ここでは、「物怖じせず心を開いている」さまと解釈してみます。
「live and let live」は、〔live and let others liveの略で「自分も生き、他をも生かしめよ」が本義〕で、「自分は自分、人は人」という意味となるようです。英英辞典では、「他の人の意見や行動を許容すべきであり、そうすれば他の人もあなたのものを同じように許容してくれるであろう」となってました。今になって、初めて知りました。勉強はしてみるものですね。
「this ever changing world」の部分は、オリジナルの映画「死ぬのは奴らだ」の英語字幕を見ますと、「this ever-changing world」となっており、「ever changing」は「world」を形容詞的に修飾しています。「if」以下の「this ever changing world in which you live in」までが「makes you ~」の主語になっていることが分かります。また、「in which we live in」は「in」が重複しているように見えますが、「live in」で「同棲する」という意味が強くなるようなので、「共に住んでいる」という一つの語句として使っている可能性があります。
「give in」には、「降参する、屈服する」の意があります。
「live and let die」は辞書に例はなく、先ほどの「live and let live」をもじったものと考えられます。つまり、「live and let others die」を意味するものと。「自分は生き、他には死を与えよ」と。だから、「死ぬのは奴らだ」となってたんですね。長い間悩まされた謎が解けたような気がします。
ただ、歌うことが難しいのは変わりありませんね。「リヴ・アンド・レット・ダイ」って、日本語で言うと、もう歌いようがありません。発音できるのは最後の「ダイ」だけですね。あえて言えば、「and」がほとんど消えて、”ェン”となって、”liven:リベン”のようになり、これの”n”は「let」の”l”と結合して、”ンレ”のようになり、「let」の”t”は、「die」の”d”と融合して、”le tdie:レッダイ”のように聞こえます。苦しいですが、”リベンレッダイ”でしょうか? 昔、ソニーの英会話教材では耳に聞こえる音を大事にするとしてました。「What do you say?」が「ワッダヤセイ?」のように。幕末から明治にかけてでしょうか、「What time is it now?」を「掘ったイモ、いじるな」と言ったように。
NHKであったのは、イギリスのケンジントン(Kensington)は発音が難しく、日本語「上杉謙信」の「けんしん」と言うと結構通じるとか。そして、バスなどで使う「I get off :私は降りる」は「揚げ豆腐」がいいとも。「揚げ豆腐、けんしん」と言えば、通じるとか。
”ウェニュア ヤング エンニュァハート
ワズノープン ブック
ユユストゥセ リベンレッリヴ
ユノュ ディジュノュ ディジュノュディッ
バリフジセヴ チェィンジンワー ディンウィッチウィ リビン
メークスュ ギビネックライ
セ リベンレッダイ
リベンレッダイ
リベンレッダイ”
これで、少しは映画と一緒に歌えないですかね。
「若かりし時、心は開かれていた
”自分も生き、他をも生かす”と言っていたものさ
そうだったよね そうだったでしょ そうだったのよ
しかしもし、私たちが共に住んでいる、このいずれ変わってゆく世界が
君を屈服させ、涙を流させるのなら
言えよ、”自分は生き、死ぬのは奴らだ”と
自分は生き、死ぬのは奴らだ
自分は生き、死ぬのは奴らだ」

英語字幕を考える前に、日本語を考えることが必要かも知れませんが、ここでのJK(女子高校生のこと)コトバは理解可能範囲として、説明は省略させていただきますね。
「超ハズいんだけど、友達がそなたにイカれて、”お付き合いしてくりゃれ”と。」
「何だって?」
「神話チックなキャラが、好きな乙女なの。」(日本語字幕より)
「超ハズいんだけどさ、友達のティファニーがあんたのキモさにトキめいちゃって、学園祭とかに共に参るのも超アリだって言ってるわけ。」
「えっ? なんやて?」
「そういう趣味なの。あの子、大学生とか神話チックなキャラに弱いの。」(日本語吹き替えより)
「This is, like, totally embarrassing, but Tiffany thinkest thou vex her so soothy. She thought perchance thou would ask her to the Homecoming Dance.」
「Excuse me?」
「Like, whatever. She's into college guys and mythical creatures.」(英語字幕より)
「totally」は「まったく」。「embarrassing」は形容詞として「まごつかせるような、はずかしがらせる、やっかいな」。
「thou:なんじは、そなたは、そちは」は、詳しくはありませんが、古い言葉で「you」の単数形のようです。「you, your, yours」のように「thou, thy, thine」となるようです。おおざっぱですが、「thou」を使うとき、語法として、一部動詞には、「st」もしくは「est」がつくようです。「canがcanst、didがdidst、prayがprayest」のようにです。ですから、この場合「thinkest」は「think」のことではないかと。もしくは、この語法を勝手にわざと誤用して、使っているのかも知れません。
「vex」はやや古い言葉のようでして、「悩ませる」といった意味のようです。「soothy」って言葉は見つかりませんでした。「sooth」には、形容詞として「本当の」という意味があり、副詞として「soothly」という言葉があります。古くは名詞としても意味があったようで、「真実、事実、現実」の意です。「in sooth 」で「本当に」の意味があるようです。これも「本当に」の造語かも知れません。
「perchance」も古い言葉のようで、「おそらく、たぶん」の意。「homecoming」は、「(アメリカで年1回新学期の始まる9月に開かれる)学園祭」のこと。
「into」には「熱中して」という意味があります。「mythical」は「神話の」。「creature」には「見たこともない[未知の]生き物、想像上[架空]のこわい生き物」という意味があります。
「これは、そうね、超やっかいなんだけど、ティファニーが覚えるに、そなたが彼の娘をいと物狂おしめさるると。彼の子鑑みて、そなたが学園祭ダンスを彼の子に尋ねるもそこはかとなくあらまほしけると。」
「はっ? なんて?」
「こうなの、どうでも。彼女ったら、大学生と神話のキャラにはまってるのー。」
なんだか、違った方向に。気のせいか、大好きなある時代の筒井康隆氏の小説に感じたような違和感が。

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「She's a loaded pistol who likes pina coladas and getting caught in the rain. 」(「シュレック」より)

MY DVD:「SHREK:シュレック(2001年製作)」発売元:角川エンターテイメント DWBF-10070-1

さて場面は、おとぎ話のキャラクターたちをシュレックの沼に追放した、ファークアード卿が、魔法の鏡を脅して王になる方法を聞くところ。魔法の鏡は、姫と結婚することで王になれると言う。その姫には3人の候補が紹介される。
日本語字幕では、「男日照りなプリンセス達」と紹介されますが、英語では、「today's eligible bachelorettes:本日のふさわしき若い独身女性」と「today's」が付いて、料理メニューかテレビ・プログラムみたいな扱いではありますが、シンプルな表現でした。
内訳は、シンデレラ、白雪姫、そしてフィオナ姫。

「候補者ナンバー1! イジメに耐えた悲劇の過去、好物はスシと温泉。趣味は意地悪な義姉たちの世話。拍手をどうぞ、シンデレラ!」(日本語字幕より)
「お嫁さん候補1番。遠い国で虐待を堪え忍ぶ彼女は、お寿司と温泉が目下のマイブーム。趣味は意地悪な二人の姉さん相手の家政婦ごっこ。拍手をどうぞ。シンデレラさん!」(日本語吹き替えより)
「Bachelorette number one is a mentally abused shut-in from a kingdom far, far away. She likes sushi and hot tubbing anytime. Her hobbies include cooking and cleaning for her two evil sisters. Please welcome Cinderella.」(英語字幕より)
「mentally」は「精神的に」。「abuse」には、「〈子供・女性・動物〉を(特に肉体的・性的に)虐待〔酷使〕する」や「レイプする」意があり、前の「mentally」がなければ、ひどく乱暴な言葉になるところです。「shut-in」は、「閉じこもった人」。
「tubbing」は「tub」の進行形。名詞として「おけ、ふろおけ、入浴」などの意味があり、バスタブのタブですね。自動詞として「入浴する」という意味があります。「hot tubbing」は「暖かいお湯を満たした浴槽で入浴を楽しむ」ような意味が込められているようです。日本人だとお風呂として当たり前なんですが、欧米では、シャワーや浴槽で泡を立てて体を洗うことが一般的なようなので、贅沢な趣向なんでしょう。「anytime:いつでも」がついて、「時間を問わず」、やってる感じですね。
「若き独身女性1番は、遠い遠い王国から、精神的に虐待されて閉じ込められた人。彼女のお好みはスシ。そして四六時中OKのお風呂。趣味には、二人の悪魔のような義姉たちのための料理と掃除が含まれています。どうか、暖かくお迎え下さい。シンデレラです。」

「候補者ナンバー2は、この姫! 男7人と清らかな同棲。冷たい唇に熱いキスを。たちまちハートが動き出し、ホットに甦る。白雪姫!」(日本語字幕より)
「お嫁さん候補2番。メルヘン王国出身。男7人と一緒に住んでるけど、身持ちはバッチリ。必殺キッスで唇解かせば、熱いハートが動き出す。さあ、拍手をどうぞ。白雪姫さん!」(日本語吹き替えより)
「Bachelorette number two is a cape-wearing girl from the land of fancy. Although she lives with seven other men, she's not easy. Just kiss her dead, frozen lips and find out what a live wire she is. Come on. Give it up for Snow White!」(英語字幕より)
「cape」は、フード付きマントであるケープです。「cape-wearing」という単語は見つからなかったのですが、「着ている」の「wearing」を引っ付けて、動名詞の形容詞的用法を作りあげてます。「land」は「陸、国、世界、土地」。「fancy」は「空想」。
「easy」は「誘惑を受けやすい」意もあります。例は悪いですが、「easy woman」で「売春婦」という意味まであります。
「frozen」は「freeze」の過去分詞が形容詞化したもの。「freeze」には「凍らせる、麻痺させる、こわばらせる」などの意味があり、形容詞化した「frozen」には「凍った、冷やした、麻痺した」などの意味があります。「find out」は、「(隠された、または知られていない事実を)見つけ出す」が本義とされています。単純に「見つける」という意味では使わないようです。「live wire」の「live」は「生きている」意。語源は「alive」の「a」が消えたものらしいです。「wire」はこの場合「電線」。従って、「live wire」は「電流の通じている電線」。「元気」とか「ホット」とかに収まらない、意外なほど弾けた感じを受けますね。
「give it up for〜」で「〜を熱狂的に支持する、〜に声援を送る」の意。
「若き独身女性2番は、おとぎの国から、ケープを纏った女の子。7人の男性と住んではいるが、身持ちは堅い。死んだように固まった唇にただキスするだけで、彼女がどんなに弾けてしびれる方か発見するはず。さあ来い。白雪姫に声援を!」

「そして最後の候補者は、燃える溶岩に囲まれた、ドラゴンの城の捕らわれ人。”カクテルが好き”というアダルトな彼女。あなたの助けを待ちわびている。フィオナ姫!」(日本語字幕より)
「そして最後はついでじゃないよ。3番は情熱の赤毛。捕らわれの城にはドラゴン。お堀には真っ赤な溶岩。でも、引いちゃダメダメ。いい女なのはダイナマイト級。お酒もいけるアダルトな彼女だよ。あなたの助けを待っている、フィオナ姫さん。」(日本語吹き替えより)
「And last, but certainly not least, bachelorette number three is a fiery redhead from a dragon-guarded castle surrounded by hot boiling lava! But don't let that cool you off. She's a loaded pistol who likes pina coladas and getting caught in the rain. Yours for the rescuing, Princess Fiona!」(英語字幕より)
「least」は名詞として、「最も価値の少ない人、最もつまらない人」の意味があります。
「fiery」は「火のような」から、「情熱的な」の意味もあります。
「dragon-gurded:ドラゴンに守られた」は形容詞として「castle:お城」を修飾し、「surrounded by hot boiling lava:熱く煮えたぎる溶岩に囲まれた」は過去分詞の形で後から「castle」を説明しています。小賢しく考えれば、「castle that is surrounded by hot boiling lava」の「that is」が省略されたとも言えます。
「cool」+「off」で、「静める、さます、興味を失わせる」の意味が出てきます。「cool+you+off」で「youに興味を失わせる」意になり、「don't let+that+cool you off」で「that(姫がドラゴンで守られ、溶岩で囲まれた城にいること)に、cool you off(あなたに興味を失わせること)を、don't let(させるな)」ということになります。
「pistol」には「すばらしい人」という意で、人を賞する意味合いがあるようです。ただ、なぜか「pistol」には「女性のおっぱい」という意味もあるようです。「a loaded pistol」は「弾丸を込められたピストルな人」となり、かなり思い入れのこもった表現です。
「pina colada」は「ピーニャコラーダ:ココナツ果汁・パイナップル果汁・ラムを混ぜた、スペインの酒」。
ところで、ルーパート・ホームズ(Rupert Holmes)という方の、「Escape (The Pina Coladas Song)」という歌がありまして、フィオナ姫が選ばれた時、ちゃっかりバックに流れているんです。ちょっと長いですが、歌詞は次のようになってます。
I was tired of my lady
We'd been together too long.
Like a worn-out recording
Of a favorite song.
So while she lay there sleeping
I read the paper in bed.
And in the personals columns
There was this letter I read:

"If you like Pina Coladas
And getting caught in the rain
If you're not into yoga
If you have half a brain
If you'd like making love at midnight
In the dunes of the Cape.
Then I'm the love that you've looked for
Write to me and escape"

I didn't think about my lady
I know that sounds kind of mean
But me and my old lady
Have fallen into the same old dull routine
So I wrote to the paper
Took out a personal ad
And though I'm nobody's poet
I thought it wasn't half bad

"Yes I like Pina Coladas
And getting caught in the rain
I'm not much into health food
I am into champagne
I've got to meet you by tomorrow noon
And cut through all this red-tape
At a bar called O'Malley's
Where we'll plan our escape

So I waited with high hopes
And she walked in the place
I knew her smile in an instant
I knew the curve of her face
It was my own lovely lady
And she said, "Oh it's you"
Then we laughed for a moment
And I said, "I never knew"

That you like pina Coladas
Getting caught in the rain
And the feel of the ocean
And the taste of champagne
If you'd like making love at midnight
In the dunes of the Cape
You're the lady I've looked for
Come with me and escape
(これについて詳しくは、次のホームページを見ていただくと良いと思います。)
Songs for 4 Seasons : Escape (The Pina Colada Song) by Rupert Holmes
http://songsf4s.exblog.jp/7909728/

かいつまんで説明しますと、歌詞の内容は、
「彼女とは長くて倦怠期。彼女が寝てる間に新聞に目を通したら、”あなたがピーニャコラーダと雨に濡れるのが好きで、ヨガにはまってなく、脳は半分はあって、夜中に岬の砂丘で愛し合いたかったら、あなたの探し求めている恋人は私よ。手紙を私に書いて、そして逃避行へ。”という記事を目にした。早速、それは私にぴったりだと返事した。そして彼女に会ったら、なんとそれは私の彼女だった。僕たちはしばし笑った。思わず言った、「知らなかった」と。ピーニャコラーダと雨に濡れるのが好きで、そして海を感じることやシャンペンの味が好きで、夜中に岬の砂丘で愛し合いたかったら、君は僕の探し求めていた女性だ。僕と一緒に来て、そして逃避行へ。」
というものです。1979年頃のヒット曲のようですね。
つまりフィオナ姫は、この歌詞のように「ピーニャコラーダと雨に濡れるのが好きな、a loaded pistol」なのだそうです。そうすると、「夜中に岬の砂丘で」愛し合うことも好きだと暗にほのめかしてるわけです。字幕や吹き替えの「アダルトな」となるのも、うなづけます。歌詞の締めくくりに来る「escape」も「脱出」という言葉ですから、フィオナ姫の監禁された状況にもぴったりという感じです。ま、怪しげな魔法の鏡の言うことなんですけど。
とにかく、このアニメは、けっこう大人向けのテーストなんですね。
「最後、しかし決して最低ではないですよ。若き独身女性3番は、ドラゴンに守られ、熱く煮えたぎる溶岩で囲まれた城から、情熱の赤毛。しかし、だからと言って引いてはダメ。彼女はピーニャコラーダと雨に濡れるのが好きな、ただならぬ魅惑の女性。救助であなたのものに。フィオナ姫!」

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「Fate had a pretty strange way of making its point.」(「普通じゃない」より)

MY DVD:「a life less ordinary:普通じゃない(1997年製作)」発売元:20世紀フォックスホームエンターテイメント ジャパン株式会社 FXBA-2772

確かに「普通じゃない」はおかしな、普通じゃない感じです。原題も「a life less ordinary」で、「常軌を逸した人生」とか「普通さの欠けた人生」という感じです。
冒頭場面はなにやら警察署のよう。しかし、白尽くめの衣装と建物。どうやら、ここにいるのは天使たち。「Chief of Police;警察署長」の部屋で、署長が「愛」が壊れて、離婚だらけの報告を嘆くところから、物語は始まります。
「愛」の警察署。上におわしますのは、「市長」ならぬ、「神様」のようです。
神様はあまりの軽率な愛に愛想を尽かし、愛の工作員に厳しい条件を与えます。つまり、どのような難しい状況でも、愛の成就を得ること。そして、そうでなければ、永遠に下界から戻ってこれないこと。
この初のミッションに選ばれたのは、テルロイ・リンドーとホリー・ハンター。署長は、「コマンド」でも紹介しましたダン・ヘダヤ。
とても結ばれるとは思えない下界の2人は、社長令嬢で美人だが、命を削るようなことでしか満足を得られなくなっているような危険な女性にキャメロン・ディアス。頼りなくて、うだつの上がらない青年にユアン・マクレガー。キャメロンのドケチな親父にイアン・ホルム。
けっこうなキャスティングです。
ユアンは、3流小説家を夢見る掃除夫。しかし、ある日それも解雇され、彼女からも愛想をつかれ、ビルの社長に怒鳴り込むことになります。一方、キャメロンの方は、金遣いの荒さが父親に知れ、一から働き直せと言い渡されます。ユアンは怒鳴り込んだ社長室で、キャメロンの非常識な助力から誘拐し逃亡することになります。
物語は下界のことに天使2人がからんで、なんでもありの、超ドタバタ・ラブ・コメディ。変わった映画です。

有名なのか、何か話題になったのか、パロディなのか、本の表紙をはっきり見えるように映しながら、恋愛小説というよりは官能小説のきわどい内容が紹介されます。
「JENNIFER HODGE Perfect Love」。「JENNIFER HODGE」という官能小説家は見あたりませんが、この映画の脚本は、「JOHN HODGE」となっているので、世の官能小説家が性や年を偽って名乗っていることを捩ったのかも知れませんね。とにかく、こんな機会はめったにないので、覗いてみますと。

「彼の吐息を聞きながら、かすかに彼女はほほえんだ。今や彼は彼女のなすがままなのだ。彼女は聞いた、「予定の便に乗るの?」彼女は彼を抱きよせた。最高の恋。燃えるような彼の体に、彼女は指をはわせた。かすかな吐息が。彼女は驚きと悦びであえいだ。彼女のふとももの奥深くで、引きしまった彼の肉体がはじけた。秘めたオアシスに残る愛の余韻に、燃えるような官能が。」(日本語字幕より)
「She heard his breathing become shallow, and a flicker of a smile chased across her lips as she meditated on the power she now held over him. "Are you sure you want to catch that flight?" She asked. She pulled him closer, deeper, unable to stop. This indeed was perfect love. ...cold, gloating gaze, she let her hand droop down towards the bulge of his passion. She heard his breathing become shallow. She gasped with surprise and delight. While her soul, like a light, erupted between her thighs as she sensed the firm, exploratory pressure of his warm flesh. In the hidden recess of her pelvis their bodies fused into one writhing mass of torrid, torrid sexual...」(英語字幕より)
「shallow」は「浅い」。「flicker」は名詞としては「ひらめき、点滅」などの意味がありますが、動詞として、「一瞬(顔などに)現れる」意があります。「flicker+across~」で「一瞬~に現れた」のような意味を持ちます。「A look of disappointment flickered across her face.」で「落胆の色が一瞬彼女の顔に現れた。」となります。
「meditate」には「瞑想する」意や「熟考する」という意味がありますが、「企てる」や「(~しようと)思っている」という意味もあるようです。
「hold over」で「(予定以上に)続ける、引き留める」。
「unable」は「できない」。
「indeed」は「本当に」と表現され、意味を強調するように使用されますが、この文のような使い方は辞書には見られませんでした。
「gloat」は「満足してながめる」、「gaze」は「注視、凝視」、あるいは「目線」。
「droop」は「垂らす」。「bulge」は「ふくらみ」、「passion」は「情熱」あるいは「情欲」。
「gasp」は「はっと息をのむ」。『SV+for O』の形で、「~を求めてあえぐ」。
「erupt」は「爆発させる」。「thigh」は「もも」。「firm」は形容詞で「堅い、堅固な、身の引き締まった」の意。「exploratory」は「探検の」。余談ですが、同じ語源の「explore」は動詞で「探検する」で、「explorer」はウィンドウズで使われている「エクスプローラー」と同じで、「探検家、調査者」の意。「warm」は「暖かな」、「flesh」は「肉」。
「hidden」は動詞「hide」の過去分詞形で、形容詞化したもの。「隠れた、隠された、秘密の」の意。「recess」は「奥まった部分」。「pelvis」は「骨盤」。「fuse into」で、「〈2つ以上のものが〉融合して〔1つに〕なる」の意。「writhe」は「身もだえする」。「mass」は「かたまり」。「torrid」は「熱烈な」。「sexual」は「性の、性欲の、性行為の」。
「彼女は彼の息が浅くなるのを聞いた。そして、今や彼女が彼を引き留める力があることを意識したとき、彼女の唇には微笑みが走った。「本当にその便に乗りたいの?」と彼女は訪ねた。彼女は彼をより近く、より深く引き寄せ、そして無抵抗にさせた。まさにこのことは完全な愛だった。..冷たく、満足げな視線で、彼女は彼の情欲のふくらみに手を垂らした。彼女は彼の息が浅くなるのを聞いた。彼女は驚きと悦びで息をのんだ。彼の暖かな肉体の堅くて、探るような圧迫を感じたとき、彼女の生命はふとももの間で、光の如くはじけた。彼女の骨盤の秘めたくぼみで、2人の体は融合し、ひとつの激しく燃え上がる官能の身もだえするかたまりとなった。」

とにかく、次のシーンの驚きを伝えたくて、これを書いてます。夜中にやってきた2人を怪しいと思った隣人が訪ねてきたとき、キャメロンは新婚あつあつの新妻を装って、裸体をシーツでくるまって戸口に顔を出します。このときのキャメロンの表情。見ているだけで、溶けてしまいそうになります。
「私たち新婚なの。ベッドに戻って、ダーリン。」(日本語字幕より)
「We're newlyweds. Are you coming back to bed soon, darling?」(英語字幕より)

テルロイがユアンの代わりに、勝手にキャメロンに出した詩の手紙。
これまた、めったにない機会なので、味わってみます。
「去っておくれ、孤独よ
恋人を返して
離ればなれは、青空もむなしい
君のほっそりした手足
君の指先のやさしさ
でも何よりも僕が好きなのは君の
(読めないわ)
(最後まで読ませて)
花が咲き誇り
やがて実を結ぶように
どうか僕のために息子を産んで」(日本語字幕より)
「Oh, desert me,
wretched loneliness,
and bring me back my love,
for she and I have parted,
and the sky is up above.
Your limbs so svelte and slender,
your touch so soft and tender.
But the bits that I like best
are the bits that
( I'm not going to read that line.)
(Please. Last verse.)
Just as the flowers blossom in the gaze of the shining sun,
I would be most honored if you would bear my son.」(英語字幕より)
「desert」は「見捨てる、放棄する」。「wretched」は「哀れな、惨めな」。「loneliness」は「孤独」。
「love」は『one's love』という形のように、所有格の次に置かれると「恋人、愛人」という意味になるようです。「bring back」で「返す」。
「part」は自動詞として「別れる、離れる」。「for」は(原因・理由)を表しているものと思われます。「up」は「上がった」。「above」は副詞として「上に、頭上に」。
「limb」は「手足」。「svelte」はフランス語から「ほっそりした」。「slender」は「すらりとした」。「touch」は「感触」。「tender」は「きゃしゃな、優しい」。
「bit」は「小部分」。
「last」は他動詞として「終わりまで持つ」。「verse」は「詩歌、詩作品」。
「blossom」は「開花する、実を結ぶ」。「gaze」は名詞として「注視、凝視」の意ですが、動詞として「(賞賛・驚きの感情、興味をもって)じっと見つめる」という意味があります。「be honored」で「光栄に思う」。「bear」は「産む」。
「ああ、立ち去れ、哀れな孤独よ。
そして、恋人を私に返しておくれ。
彼女と別れてからというもの、空は頭上高く離れてしまった。
君の手足は、とてもほっそり、そしてすらり。
君の感触は、とても柔らか、そしてやさしい。
でも私が最も好きなところは、小さなつぶのような...
(この行は読まない。)
(でもお願い、詩の最後まで読ませて。)
輝く太陽に育まれて、花が実を結ぶように、
君が私の息子を産んでくれたら、これほどの光栄はないだろう。」

フィナーレはなぜか、恋愛うんちく。これもめったにお目にかかれないので、ご紹介します。
「成功した関係は、天国が決めたものなの? 日々の暮らしの中で、2人が見いだすものでなく?」
「”成功した関係”なんて言うなよ、”愛”だろ。愛は神秘的な所から訪れる。」
「愛とは、物理的な必然性を感情的な言葉で表したものじゃないの?」
「ぜんせん。」
「ほんとうに?」
「運命が人生を変えるんだ。」
「私たちもそうね。」
「運命が僕らを結びつけてくれた。僕らは運命の2人。」
「運命は変わった方法でやってくる。」
「だから、素晴らしい。説明も、予測もできず、支配することも、理解もできない。」
「撃たれたわ。」
「でも死ななかった。いま一緒にいる。」
「不思議な出来事を証明する方法は?」
「ない。」
「普通ではありえない事と思う?」
「もちろん。」
「じゃ、なぜ信じるの?」
「僕は夢追い人だからさ。」
「それは私も同じだわ。」
「いいかい?」
「もちろん。」
「行こう。」(日本語字幕より)
「So you're telling me that successful relationships are made in heaven? Not founded on the daily practicality of 2 people being prepared to tolerate the imperfections of one another?」
「It's not successful relationships, Celine. It's love. And it comes from a strange and wonderful place that we don't know about.」
「So then you also reject the idea that love is merely an emotional adaptation to a physical necessity?」
「Completely.」
「Are you serious?」
「Fate intervenes in people's lives.」
「In ours, for instance.」
「Fate bought us together. It kept us together. We were destined for one another.」
「Fate had a pretty strange way of making its point.」
「But that's part of the beauty of it. It's inexplicable, unpredictable and absolutely beyond control or understanding.」
「But you nearly got killed.」
「But I didn't, and here we are.」
「Do you have any substantial evidence to back all of this?」
「None at all.」
「And you realize that it's absurd and irrational?」
「I know that.」
「Then why do you believe it?」
「Because, Celine, I'm a dreamer.」
「Well, I guess that makes 2 of us.」
「Are you ready?」
「As I'll ever be.」
「Then let's go.」(英語字幕より)
「practicality」は「実際的なこと、実際(実用)的なもの」。「prepare」は「準備する、覚悟する」。「tolerate」は「許容する、耐える、我慢する」。「imperfection」は「不完全さ、欠陥」。「one another」は「互い(に)」。
「reject」は「拒絶する、はねつける」。「idea」は「考え、見解」。「merely」は「たかが〜にすぎない」。「emotional」は「感情の、感情的な」。「adaptation」は「改造、改作」。「physical」は「肉体の、物理的な、自然の」。「necessity」は「必要性」。
「completely」は「完全に」。ここでは、「I completely reject.:私は完全に拒絶する」の意。
「serious」は「本気で」。
「fate」は「運命」。「intervene」は「干渉する」。「for instance」で「例えば」。
「bring together」で「(人を)接触させる」。「destine」は通常受け身(be + 〜d)で使用され、この場合は「〈人が〉〔を受ける〕運命にある〔for〕」の意。
「pretty」は「かなり、非常に」。「strange」は「奇妙な、不思議な」。「way」は「やり方、方法」。「make one's point」で「言い分を立証する、考えを述べる」の意。
「the + beauty」で「美点、長所、利点」。「inexplicable」は「説明のつかない、解釈しがたい」。「unpredictable」は「予測できない、意外性のある」。「absolutely」は「完全に、まったく」。「control」は「支配する、操作する」。
「substantial」は「実質的な、本質的な、内容のある」。「evidence」は「証拠」。「back」は動詞として、「支援する、裏打ちされる、の背景になる」。
「realize」は「悟る、はっきり理解する」。「absurd」は「常識に反した、理屈に反する、不条理な」。「irrational」は「不合理な、ばかげた」。
「それで、あなたは成功した関係は天国で準備されたと言おうとしてるの? 互いの不完全さを我慢するよう覚悟を決めた2人の人間の日常的実際の中には見いだせないと?」
「それは、成功した関係なんかではなく、セリーン。それは愛さ。そして、それは我々が知らない、不思議ですてきなところから来るんだ。」
「ではあなたは、愛はたかが肉体的な必要性を感情的な言い換えであるということも拒絶するのね?」
「まったくね。」
「本気なのね?」
「運命が人々の人生を左右するのさ。」
「私たちのが、その例だわ。」
「運命は僕たちを結びつけた。それは僕たちを結び続けたんだ。僕たちは互いに運命づけられたんだ。」
「運命は、言い分を立証するのに随分奇妙な方法を使ったわ。」
「しかしそれがその美点でもあるのさ。それは説明もつかず、予測不可能で、まったく支配や理解を超えている。」
「でも、あなたはもう少しで殺されるところだった。」
「しかし殺されなかった。しかも僕たちはここにこうしている。」
「これらすべてを裏打ちする実質的な証拠はなにかあるの?」
「まったくないよ。」
「それが非常識で、不合理なことは分かっているの?」
「分かっているよ。」
「じゃ、どうして信じるの?」
「なぜなら、セリーン、僕は夢を追う人間だからさ。」
「そう、私もそれが私たち2人を結びつけたと思うわ。」
「用意はできてる?」
「いつだってOKよ。」
「じゃ、行こう。」

こうして、恋愛の「官能」、「ポエム」、そして「観念」の3種類を味わうことができました。あたかも恋愛の逆の手順を踏んでいるかのようでしたが。愛が成就しているから、この順番で良いでしょうが、そうでないと最後に頭でっかちで終わるのは後に響くかも知れませんね。

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「That's what I wish for the chance to squint at a sky so blue that it hurts your eyes just to look at it.」(「フィールド・オブ・ドリームス」より)

MY DVD:「FIELD OF DREAMS:フィールド・オブ・ドリームス(1989年製作)」発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン UNPD-29581

先日、ふと「フィールド・オブ・ドリームス」を見てましたら、”ドク・グラハム”演じるバート・ランカスターの「まぶしくて、目が痛いほどの青空」と言いながら、まるでその青空を感じてるかのような仕草が好きで、好きで。「フィールド・オブ・ドリームス」は以前、「good」のところで少しだけ取り上げましたが、もう少しご紹介することにします。
この物語は幻想的な部分があるのですが、違和感が少なくて、自然と入り込んで行けます。ケビン・コスナーの自然な感じがそうさせているのかも知れません。

ある日自分が作ったトウモロコシ畑から、「それを作れば、彼は来る」という声を聞き、畑を潰して野球場を作る主人公のレイ・キンセラ。果たして、野球場にはある人物が現れます。別な声に導かれながら、レイは60年代活動家だった作家を巻き込みながら、一夜だけメジャー・リーグで守備をした”ムーンライト・グラハム”を求めて、車の旅を続けます。”ムーンライト・グラハム”はすでに亡くなっていましたが、街で彼は不遇な人や子供たちにも手厚く医療を尽くした医者として、”ドク・グラハム”の名を残していました。そんな彼の取材を終えた不思議な夜。モーテルを出たレイは、自分が70年代初頭のその街に立っていることに気がつきます。

”ドク・グラハム”と出会ったレイは、快く彼に迎えられ、彼の診療所に招かれます。そして、メジャーでプレイしたときはどうだったかと聞きます。”ドク・グラハム”の答えは示唆に富むものでした。
「夢が叶うまで、あとこれだけ。だが夢は肩をかすめ、歩み去った。人生の節目となる瞬間は、自分ではそれとは分からない。”また機会があるさ”と思ったが、実際はそれが最後だった。」(日本語字幕より)
「It was like coming this close to your dreams and then watch them brush past you, like a stranger in a crowd. At the time, you don't think about it. We don't recognize the most significant moments in our lives when they happen. Back then I thought, "Well, they'll be other days." I didn't realize that that was the only day. 」(英語字幕より)
レイは「So what was that like?:それでそれはたとえばどのような?」って、「like」を使って聞いています。これは「is like」・「feel like」・「look like」・「seem like」・「sound like」の「のような」という意味の「like」です。質問は「So that was like "what":それでそれは”何”のようだった」を疑問形にしたものと考えられます。「Like what?」は「たとえば(どのような)?」という「For example?」よりくだけた表現になります。深読みかも知れませんが、こうした何かにたとえるような表現は、仮定法に近づいた表現ではないのでしょうか。「仮定法は空間的に遠ざかったように表現する」と、NHKの教育番組で説明されてたと思います。これもそうなら、自分に起こったという事実として表現するのではなく、「君」に起こったかのように、自分の身から距離をおいて、間接的に表現しようとしているのではないかと、考えています。もちろん、どこにもそのような説明はなく、根拠もないのですが、”ドク・グラハム”の答えは「君」に起こったかのように話しています。ついでに、「夢」は複数として、「dreams」と表現されています。これまで、気がつかなかったのですが、映画の邦題も英語を反映して、「フィールド・オブ・ドリームス」とされてますね。
「brush past you」は他動詞「brush」として「(通りすがりに)君にさっと触れる」という意味を持ちます。「significant」は「重大な」。
「それは、まるで君の夢までこれだけにまで近づいたようであり、そしてそれらが君をかすめて過ぎ去るのを見たようだった。人混みの中の見知らぬ人のようにね。その時、君は何も考えつかない。我々はそれが起こったとき、我々の人生の最も重大な瞬間だとは分からないのだよ。振り返って、”よし、またいつの日か”と私は思った。私にはそれが唯一の日だったと分からなかったのだ。」

次にレイは、「もし、叶うとしたら、何を望むか」と問います。
「私はメジャー・リーグで打席に立った事がない。一度でいいから立ちたい。ピッチャーをにらみ、彼が投げる構えに入ったら、ウインクする。”見てろ。かっ飛ばしてやるぞ”とね。まぶしくて、目が痛いほどの青空。球を打った時の、腕の感覚。2塁で止まらず果敢に、頭から3塁に滑り込み、ベースを腕で抱き込む。それが私の夢だよ。レイ・キンセラ。」(日本語字幕より)
「Well, you know, I never got to bat in the major leagues. I'd have liked to have had that chance just once, to stare down a big-league pitcher --, to stare him down just as he goes into his windup, wink. Make him think you know something he doesn't. That's what I wish for -- the chance to squint at a sky so blue that it hurts your eyes just to look at it, to feel the tingle in your arm as you connect with the ball, to run the bases, to stretch a double into a triple and flop face first into third, wrap your arms around the bag. That's my wish, Ray Kinsella. That's my wish.」(英語字幕より)
”ドク・グラハム”の答えは、文節は離れていますが、「chance + to 〜」で「(願わくば)〜をする機会(を得たかった)」という形を使ってます。これを2回使ってますが、いずれも最後には、「to」は省略されているようです。
「you know」は、日本語の「あの」とか「ほら」などに近い感じですね。つなぎ言葉として「you see」より頻繁に使われているように思います。雑誌の付録のようなインタビューで、有名な俳優でも「you know」が多くて内容が分かりづらいものあったぐらいです。
「bat」は動詞として「打席に立つ」。「stare down」は通常は間に目的語を伴って、「にらみつけて目をそらさせる」意があります。威圧する感じですね。ちょっと意味合いは違いますが、「相手を見下ろす」という日本語にも当てはまる感じです。「squint at」で「目を細めて見る」。「hurt」は「痛める」。「stretch」には「長打にする」意があり、「stretch a single into a double」で「シングルヒットを2塁打に」、「stretch double into a triple」で「2塁打を3塁打に」という意味になります。「flop」は「飛び込む」意があって、ヘッドスライディングのことのようです。「wrap」は「巻き付ける」意で、この中では日本語字幕のように「両腕でベースを抱き込む」ことのようですね。「bag」には「野球のベース」の意味がちゃんとあるようです。
「うん、そう、私はメジャー・リーグでは打席に立ったことがない。たった一度でいいから、そんな機会が欲しかった。大リーグピッチャーをにらみつける。ワインドアップに入るやいなやにらみつけて、ウインク。何も考えられないようにしてやるのさ。私の願いは、見ようものなら目を痛めてしまいそうな青い空を目を細めて見ること。球を捕らえたときの腕のしびれを感じ、ベースを駆け抜け、2塁打を3塁打にせんと、3塁へ顔から突っ込んで、ベースを両腕で抱き込む。これが私の願いだ、レイ・キンセラ。これが私の願いだ。」

レイは”ドク・グラハム”に夢を実現できると自分の野球場へ誘おうとします。しかし、”ドク・グラハム”は断ります。
「50年前の5分間、夢まであとこれだけだった。そこまで来て、手が届かなかったなんて、それは悲劇です。」
「医者の仕事が5分なら、それは悲劇だろう。帰らねば... アリシアが気をもんでる。」(日本語字幕より)
「Fifty years ago, for five minutes, you came this close. It would kill some men to get that close to their dream and not touch it. God. They'd consider it a tragedy.」
「Son, if I'd only gotten to be a doctor for five minutes, now that would have been a tragedy. I better be getting home. Alicia will think I got a girlfriend.」(英語字幕より)
「50年前、5分間、あなたはあとこれまでに来ていた。夢の近くまでやってきて、触れもできないなんて、そのことで幾人もの男たちの命を絶つことさえ可能でしょう。神よ。彼らにとって悲劇としか考えられないでしょう。」
「息子よ、もし私がたった5分間しか医者でいられなかったなら、それなら悲劇だったと言えよう。帰らなくては。アリシアは私が女友達を作ったと思ってしまう。」
さらりととても大切なことを述べて、あたたかく、すべてを包み込むような笑顔を贈る”ドク・グラハム”でした。

レイに告げられた3つの言葉は、次のようでした。
「"それを作れば、彼は来る。苦痛を癒せ。やり遂げろ。”」(日本語字幕より)
「"If you build it, he will come. Ease his pain. Go the distance."」(英語字幕より)
「go the distance」は「仕事などを最後までやり抜く」という意味になります。ちなみに野球では「完投する」と言う意味になるようです。
物語の最後にやっと分かるのですが、「彼」とはレイの「父」でした。
最初、映像に感覚がついて行けませんでした。レイの目の前に現れたのは、レイより若い彼の父親でした。レイにどう映ったのかが分からなかったのです。自分の父親を、彼の父親のような気分で見ることで、一体自分に何が起こるのでしょうか。自分の父親が、自分と同じように、世にもまれ、様々なことに心を砕き、小さな事にも一喜一憂する人間であることを感じることができるのでしょうか。それは自分にどんな感情をもたらすのでしょうか。

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「I could not have parted with you, my Lizzie, to anyone less worthy.」(「プライドと偏見」より)

MY DVD:「PRIDE & PREJUDICE:プライドと偏見(2005年製作)」発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン UNPD-43349

かつて「ユー・ガット・メール」の中でメグ・ライアンが「プライドと偏見」という本のことを話題にしたとき、その題名から堅苦しくて、とても面白くないものを想像してました。ところが、いろいろな人物のさまざまな思いを実に楽しめる映画でした。ラブ・ストーリーなんですね。ベネット家次女、エリザベスの心を通して、女性が結婚でしか生きる方法がなかった頃の家族や男女の仲が描かれています。
ベネット家と俳優を紹介します。
ベネット氏:ドナルド・サザーランド
ベネット夫人:ブレンダ・ブレッシン
ジェーン・ベネット:ロザムンド・パイク
エリザベス・ベネット:キーラ・ナイトレイ
メアリー・ベネット:タルラ・ライリー
リディア・ベネット:ジェナ・マローン
キティ・ベネット:キャリー・マリガン

エリザベスは滞在中の将校ウィッカムの姿を舞踏会に求めるも、しかし彼は理由も告げず去ってしまいます。そして、「憎むべき、いとこ:the dreaded(案じられる) cousin」と評するコリンズ氏からの求婚を受けますが、これを断ります。娘の結婚に心砕いている母は撤回するようエリザベスに迫ります。しかし、父ベネット氏は見せかけの幸せには捕らわれない目を持っていたのです。
「断れば母親と会えなくなる。承諾すれば、私と会えなくなる。」(日本語字幕より)
「Your mother will never see you again if you do not marry Mr. Colins, and I will never see you again if you do.」(英語字幕より)
英文では、ベネット氏の思いの秘密が最後のif文に込められており、最後の最後に妻の母としての思いよりも娘の意志を尊んだ結論が明かされます。ベネット氏は、娘たちと少し距離を置いているように見えますが、彼なりの愛情をもって、俯瞰的な観点から、娘一人一人に何がふさわしいかを考えているようです。
「母さんは二度とお前と会わなくなる。もしお前がコリンズ氏と結婚するのでなければ。そして、私は二度とお前と会わなくなる。お前が(結婚)するのであれば。」

姉ジェーンは、ビングリーとの恋を失い、心を癒すためロンドンに向かいます。ベネット氏は求婚を断ったエリザベスと失恋したジェーンを見つめながら、ジェーンにはロンドンへ行かせることで、エリザベスには次の言葉で、次の1歩を後押ししています。
「かわいそうなジェーン。失恋もいいものだ。考える手立てになる。武勇伝にも。」
「やさしいのね。パパ。」
「今度はお前の番だぞ。コリンズを断ったんだ。今度は自分が、その目にあってみては。」(日本語字幕より)
「Poor Jane. Still, a girl likes to be crossed in love now and then. It gives her something to think of and a sort of distinction amongst her companions.」
「I'm sure that will cheer her up, Papa.」
「It's your turn now, Lizzie. You've turned down collins. You're free to go off and be jilted yourself. 」(英語字幕より)
「be crossed in ~」は成句としてあるわけではありませんが、「(恋・計画など)をだめにされる」という意味になるようです。「now and then」は「時折」。「a sort of」は「一種の、ようなもの」。「distinction」は「区別、識別」ですが、ここでは「名誉、名声」。「amongst」は「among:の中から」の古い言葉。「companion」は「仲間、友達」の意。「turn down」は「(申し出などを)断る、はねつける」。「go off」は「駆け落ちする」。「jilt」は面白い言葉で、「(恋人をぽいと)捨てる」意だそうです。
「かわいそうなジェーン。いまだ、少女は時折恋路を邪魔されることを好むところがある。それは彼女に深く考えさせるし、仲間内での名声のようなものももたらしてくれる。」
「きっとそれは彼女を元気にさせるわ。パパ。」
「今度はお前の番だ、リジー。お前はコリンズをはねつけた。いつでも駆け落ちして、そしてぽいと捨てられてみるんだな。」

思いがめぐるエリザベスですが、そこへ突然親友のシャーロットがやって来ます。かのコリンズと結婚すると言うのです。
「そんな目をしないで。私、幸せになるのよ。」
「彼は愚か者よ。」
「やめて。私には他に仕様もない。居心地の良い住居と保護。感謝して余りある。私は27よ。お金も展望もない。すでに両親の重荷。恐ろしいの。私を非難しないで。」(日本語字幕より)
「For heaven's sake, Lizzie, don't look at me like that. I should be as happy with him as any other.」
「But he's ridiculous.」
「Oh, hush. Not all of us can afford to be romantic. I've been offered a comfortable home and protection. There's a lot to be thankful for. I'm 27 years old. I've no money and no prospects. I'm already a burden to my parents. And I'm frightened. So don't judge me, Lizzie. Don't you dare judge me.」(英語字幕より)
「sake」は「目的、理由」の意ですが、「for God's sake」や「for goodness sake」そして「for heaven's sake」となって、「お願いだから」という意味で使われるようです。直訳すれば「神様の目的のために」ってなるのでしょうか。「神様も願ってるはずだから」ってことでしょうか。「ridiculous」は「おかしな」。「hush」は「黙らせる」。「afford」は「S can afford to do」の文型で、「余裕がある、する立場にある」という意味を持つようです。「comfortable」は「快適な、居心地の良い」。「protection」は「保護」。「prospect」は「見込み」で、地位・金銭などの「期待」も意味します。「burden」は「重荷」。「be frightened」で「こわいと思う」。「judge」は「非難する」。「dare」は、「SV (to) do」の文型で、「あえて~する」の意。
「お願いだから、リズ、そんな風に私を見ないで。他の人と(結婚して)なれるように、彼とも幸せになれるわ。」
「でも、彼はとんでもない人よ。」
「ああ、黙って。みんなが皆、恋愛を夢見る立場にいるわけじゃないわ。私は快適な家と保護を申し込まれたの。感謝して余りある。私は27才。金もなければ、見込みもない。すでに両親の重荷なの。そして、こわいの。だから、私を非難しないで。あえて非難しないで欲しいの。」

シャーロットの優れた才能は、物事を受け入れる力なのかも知れません。結婚後、招かれて訪れたエリザベスに彼女から、彼女の幸せが伝えられます。
「ここなら静かよ。この居間は私専用。自分の家を持つのは良いものよ。」(日本語字幕より)
「We shan't be disturbed here. This parlor is for my own particular use. Oh, Lizzie, it's such a pleasure to run my own home.」(英語字幕より)
「shan't」は「shall not」。「disturb」は「邪魔する」。「parlor」は「居間、応接間」。アメリカでは他の言葉と複合させて、「(客間風の)~店」と使われてるようです。日本で見る「フルーツ・パーラー」なんてそれの影響なんでしょうね。「particular」はここでは「個人の」の意。
「ここなら邪魔されることはないわよ。この居間は私の個人使用専用よ。ああ、リズ、自分自身の家を切り盛りするのはとても喜びがあるわ。」

ダーシーの愛の告白を機に、互いが真実の心をぶつけ合うはずが、互いが思い込みの誤りを思い知らされることになります。エリザベスはひどく傷つけられたはずが、一方的に傷つけていたことに戸惑ったのではないでしょうか。ダーシーを思いの限りはねつけながら、しかしかえって
彼の誠実さに触れることになります。そこへ叔母夫妻ともに出かけた小旅行先で意に反して、ダーシーの屋敷を訪問することになります。エリザベスにはまだ心の整理ができていないときの訪問であったはずです。しかし、これまでなら金持ちの屋敷に関心を抱かないだろう彼女なのに、そこに飾られている芸術品の数々が、ダーシーの心の扉である寡黙な誠実さを開けてはじめて見ることのできる、彼の豊かな心の世界を物語る象徴のように映って見えたのかも知れません。
思いがけない、可憐で幼気な妹ジョージアナの歓迎が、なお一層エリザベスの心を癒しているようです。
「私のひどい演奏を聴かせたことが。」
「とてもお上手だと言っていたわ。」
「とんだ偽証ね。」
「”かなり”上手だと。」
「”とても”ではないのね。満足ですわ。」(日本語字幕より)
「He once had to put up with my playing.」
「He says you play so well.」
「Then he has perjured himself.」
「I said "quite well".」
「"Quite well" is not "very well". I'm satisfied.」(英語字幕より)
「put up with」は「我慢する」という意味になります。「perjure oneself」で「偽証する」。天使のようなジョージアナにはウソはつき難いことを、神聖な法廷での偽証に例えて言うエリザベスの心の豊かさと言い表す意志が現れた言葉ですね。彼女の心の状態が良いことを示しているのではないでしょうか。「quite」は「まったく、すっかり」という意味の言葉ですが、イギリスではしばしば控え目な表現として用いられるようです。「なかなか、まあまあ、多少」や「と言ってもいいくらい」という感じでしょうか。そうすると、「very:非常に、たいへん」ではない「quite」はエリザベスに受けいられるわけですね。
「彼は以前私の演奏に我慢せねばならなかったことがあったの。」
「兄はあなたがとても良く演奏したと言ってたわ。」
「じゃあ、偽証したってわけね。」
「私は”なかなか良く"と言っただけで。」
「”なかなか良く”は”とても良く”とは違うわね。満足です。」

そのときの笑顔から、もう彼女に必要なのは、あと少しのきっかけだけだったように思えます。ダーシーがリディアの駆け落ち騒動をまとめたのも、ジェーンにビングリーを連れ戻したのも大切な事柄だったかも知れません。ただ、こうしたことでダーシーは誠意を積み直すことができるのですが、エリザベスは自分の誠実を示す場もないもどかしさを感じてたと思うのです。
ダーシーは淡々と自分がすべきことをやって、僅かな望みにかけていたのでしょう。

さて、「恋に落ちたシェークスピア」でご紹介したせりふです。
「はい。千回でも答えます。」
「Yes. A thousand times yes.」
答えるジェーンだけを映したこのシーンがとても印象的でした。
ジェーンの純真な心を映した返事でしたね。あれだけ1年沈んだ思いを抱いていたのに、こんなに幸せそうに、ビングリーを許し受け入れるなんて。父ベネット氏はこれまたユニークなジェーン像を語ってます。夫となるビングリーと似たもの同士だというのです。どうやら、二人ともお人好しだと見ているようです。確かにそうだと思えてくるのが、楽しいですね。一方母ベネット夫人は、ジェーンの美貌をよい縁談に結びつけることができたことに、深い満足を感じてるようです。
「二人はきっと、うまくやるよ。性格も似ている。召使いたちに手ひどくだまされ、気前が良すぎて、家計はいつも赤字だ。」
「赤字ですって? 年収5千ポンドですよ。美貌が無駄になるはずはないと思った。」(日本語字幕より)
「I am confident they will do well together. Their tempers are much alike. They will be cheated assiduously by their servants. And be so generous with the rest, they will always exceed their income.」
「Exceed their income? He has 5,000 a year. I knew she did not be so beautiful for nothing.」(英語字幕より)
「confident」は「確信している」。「temper」は「気性」。「alike」は「似ている」。「cheat」は「だます」。「assiduously」は「せっせと、根気強く」。「servant」は「召使い」。「generous」は「気前の良い」。「the rest」は「その他の人々」。「exceed」は「超える」。「income」は「収入」。
「彼らはきっと一緒にうまくやるよ。二人の気性は似ているんだ。彼らは召使いたちにせっせとごまかされるだろう。また他人には気前が良くて、常に収入を超えてしまうだろう。」
「収入を超える? 彼は年収5000ポンドよ。彼女がただ美しいだけじゃないことは分かってたわ。」

そして、エリザベスに必要なきっかけは、思わぬところからもたらされました。キャサリン夫人です。
彼女もエリザベスのように若いときから、才女だったに違いありません。でも、エリザベスの時代よりももっと封建的で女性には不遇の時代に生きたのではないでしょうか。まわりの女性に厳しいほど教養を求め、与えようとするのはそうした彼女のくやしさなのかも知れません。キャサリン夫人はすぐに、自分がそうであったように、エリザベスが他の娘と違うことを知ったに違いありません。エリザベスには発言力も行動力もあります。余談ですが、「天空の城ラピュタ」で、海賊の女頭ドーラが見込みのある少女シータを見て、自分の若い頃そっくりと言うので、息子たちが「あんなかわいい子がママみたいになるの?」と驚くところを思い出しますが、さすがにそこまで似ていると思っているわけではありませんが。とにかく、風聞が立つやすぐに、エリザベスの人物を考えて行動を起こしたのでしょう。自分の娘の幸せは譲れません。彼女も自分に誠実であることに躊躇しないようです。残念ながら、ちょっと非常識で、誰よりも思い込みが激しいみたいです。ただ、この彼女の勘は当たってるのですが。

「はっきりおっしゃい。婚約しているの?」
「いいえ。」
「そのようなことはしないと、約束しますか?」
「そんな約束はできません。」(日本語字幕より)
「Tell me once and for all, are you engaged to him?」
「I am not.」
「Will you promise never to enter into such an engagement?」
「I will not and I certainly never shall.」(英語字幕より)
エリザベスはキャサリン夫人に屈服しない態度を取りつつ、真実を伝えています。
キャサリン夫人が思い違いしているように、婚約していないこと。婚約しないとは約束できないこと。
「とにもかくにも、もう一度言いなさい。彼と婚約しているの?」
「私はしていません。」
「そのような婚約は決してしないと約束しますか?」
「約束はしないし、必ずや、約束することは決してありません。」

エリザベスにも、ダーシーにも眠れぬ夜を与えたキャサリン夫人。おかげで二人は夜明けの戸外で巡り会うことができました。叔母の行いにあきれながらも、希望を抱いて、いてもたってもいられず、はやる気持ちでやってきたのはダーシーでした。もし、エリザベスがいなかったら、どこまでも追いかけ、いつまでも待ったのではないでしょうか。
「眠れなかった。」
「僕もだ。叔母が...」
「ええ、来ました。」
「一体どうしたら償える?」
「リディアやジェーンまでお世話になって。私こそ償わなくては。」
「分かっているはず。すべてあなたのためです。あなたは誠実な方だ。叔母との会話から、私は希望を持ちました。初めてのことです。気持ちが以前のままなら、そう言ってください。私の愛情と望みは、今も変わりません。でもあなたの一言で、二度と口にしません。でも、もし気持ちが変わっていたら、あなたに伝えなくては。私はあなたの虜です。身も心も。あなたを、愛しています。二度と離れたくない。」
「それでは。あなたの手、冷たいわ。」(日本語字幕より)
「I couldn't sleep.」
「Nor I. My aunt...」
「Yes, she was here.」
「How can I ever make amends for such behavior?」
「After what you've done for Lydia and, I suspect, for Jane, it is I who should be making amends.」
「You must know. Surely you must know it was all for you. You are too generous to trifle with me. You spoke with my aunt last night and it has taught me to hope as I'd scarcely allowed myself before. If your feelings are still what they were last April, tell me so at once. My affections and wishes have not changed. But one word from you will silence me for ever. If, however, your feeling have changed I would have to tell you, you have bewitched me, body and soul, and I love... I love... I love you. I never wish to be parted from you from this day on.」
「Well, then. Your hands are cold.」(英語字幕より)
「amend」は「償いをする」。「suspect」は「想像する、推測する」。「generous」は「気前の良い、高潔な」。「trifle」は「もてあそぶ、ふざける」。「scarcely」は「ほとんどない」。「affection」は「(穏やかで持続的な)愛情」。「bewitch」は「呪文をかける、魅惑する」。「part」は「離れる、別れる」。
「眠れなかった。」
「私も。叔母が...」
「はい、来られました。」
「あんなことをするなんて、どうしたら償えるでしょう?」
「あなたがリディアにしていただいたことを考えれば、そして想像ですが、ジェーンにも。償いをしなければならないのは私ですわ。」
「ご存じのはずです。すべてあなたのためだとお分かりのはずです。あなたは高潔で私をからかうような方ではありません。あなたは叔母と昨夜話し、そしてその会話は、これまで自分に許すことのできなかった、希望することを悟らせてくれました。もし、あなたの感じてることが、まだ4月の頃のままなら、1度だけそうおっしゃってください。私の愛情や願いは変わっていません。しかし、あなたからの一言が私を永久に黙らせることでしょう。もし、しかしながら、あなたの感じてることが変わったのなら、私は申し上げねばなりません。あなたは私の、身も心も魅了し続けています。そして愛して、愛して、愛してます。今日この日より、二度とあなたから離れたくありません。」
「では。あなたの手は冷たいわ。」
エリザベスが、ジェーンのように「Yes」と言わず、また言葉を尽くさずただ手を取ったのは、これまで誰にも見せなかった、最も女性らしい、彼の愛を受け入れるという気持ちの表れだったように思います。

最後の父と娘のシーン。
エリザベスは父に対し、「愛してる」とここでは断言します。一方、ベネット氏は半信半疑でした。しかし、エリザベスが堪えきれないように吹き出しながら、笑顔で二人の欠点を言うとき、ベネット氏はエリザベスが真にダーシーを愛してることを悟るのでした。そして、エリザベスが彼にとって特別な存在であったことも明かされます。それは、何にも代え難い祝福の言葉となりました。
「私、ばかだったわ。彼もジェーンのことは間違えてた。他にも。でも私も同じ。私と彼は、とても似てるわ。二人ともすごく頑固。パパ、私...」
「本当に愛してるんだね。」
「とても。」
「お前に相応しい男がいるとは。考え違いか。心から祝福しよう。これ程の男でなければ、手放さない。」
「ありがとう。」(日本語字幕より)
「I've been nonsensical. But he's been a fool about Jane, about so many other things. But then, so have I. You see, he and I are... He and I are so similar. We're both so stubborn. Papa, I...」
「You really do love him, don't you?」
「Very much」
「I cannot believe that anyone can deserve you. But it seems I am overruled. So I heartily give my consent. I could not have parted with you, my Lizzie, to anyone less worthy.」
「Thank you.」(英語字幕より)
「nonsensical」は「無意味な、ばかげた」。「similar」は「よく似た」。「stubborn」は「頑固な、強情な」。「deserve」は「に値する」。「overrule」は「くつがえす、却下する」。「heartily」は「心から、熱烈に」。「consent」は「承諾する」。「worthy」は「値する、価値がある」。
「私ったら、ばかだった。でも、彼もジェーンのことでは愚かだったし、他のいろんなことについても。とは言え、私もそうだった。ほら、彼と私は... 彼と私はとてもよく似てるの。私たち二人は、あまりに頑固で。パパ、私...」
「お前は本当に彼を愛してる。そうだね。」
「とっても。」
「誰かがお前の伴侶に値するなど信じられない。しかし、どうやら私の意見はくつがえされたようだね。それでは、熱烈に祝福するとしよう。価値のない男になら、リジー、お前を手放しはしなかったぞ。」
「ありがとう。」

窮屈な訳で申し訳ありません。英語字幕を大切にしようとすると日本語らしさを失いがちです。
DVDの特典映像では、アメリカ版のラストシーンが紹介されていました。エリザベスとダーシーが、屋敷の庭でエリザベスをどう呼べばいいかを確かめ合うシーンが付け加えられているようです。そこまで、ハッピーエンドを強調しなくちゃだめなんでしょうね。アメリカでは。
どこかの監督が言ってました。ハッピーエンドは大切だって。確かに、願いが叶うことの心地よさは、生きる喜びをわき上がらせてくれますよね。

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「A revolution without dancing is a revolution not with worth having.」(「Vフォー・ヴェンデッタ」より)

MY DVD:「V FOR VENDETTA:Vフォー・ヴェンデッタ(2006年製作)」発売元:ワーナー・ホームビデオ DLW-82379

「Vフォー・ヴェンデッタ」。原作はコミックですが、台詞にはシェークスピアなどの引用が多く、高尚な内容の台詞で評価の高い作品のようです。加えて、物語の背景となるのが、イギリス歴史上の伝説の人物、ガイ・フォークス。”男”とか”奴”などの意味で使われ、”タフガイ”などで知られる、「ガイ」はこのガイ・フォークスの名から来ているというのですから、びっくりです。ちなみに、コミックと映画ではストーリーや設定などが違うようです。
物語は、近未来の独裁政治下のイギリス。細菌兵器によるテロをきっかけに、国民は平和と秩序を約束するサトラーを議長に選ぶが、それ以降全体主義国家の道を進んでいる。そこへ、ガイ・フォークスの仮面をつけた男”V”が現れる。彼はまず11月5日のガイ・フォークス・デイに最初の爆破テロを起こすのだが、1年後の同じ日、11月5日の議事堂爆破予告と国民の奮起を促しながら、次にはサトラー政府の要人を次々と殺し始める。彼はサトラー政府に復讐を行っているのだ。事件を追うのは、この政権下には珍しい気骨のある刑事フィンチ。彼の追求により、テロ事件は政府の隠された不正に深く関わっていることが明かされていく。そして、”V”と運命的な出会いをする女性イヴィ。彼女はこの物語の語り手である。
彼女は、物語の始め、ガイ・フォークスを紹介しながら、理念の強さと人間の弱さを訴える。しかし、彼女は理念を讃えながらも、人を尊ぶ大切さ、愛することの大切さを伝えようとしているかのようである。

イヴィが外出禁止令の出ている夜に外出し、悪徳巡回員に暴行を受けようとしたとき、Vが現れる。
悪人たちの振る舞いをまるで歌うかのように口ずさみながら、登場。日本にもありました。「一つ、人の世の生き血を啜り、二つ、不埒な悪行三昧、三つ、醜い浮き世の鬼を、退治てくれよう、桃太郎」。失礼しました。
「その者、数々の悪事をまといし者なり。血糊の付いた太刀を持ち、高々と振りかぶる。殊勝な振る舞いで、己の悪魔を覆い隠すは人の常。」(日本語字幕より)
「The multiplying villainies of nature do swarm upon him. Disdaining fortune, with his brandish'd steel which smoked with bloody execution. We are oft to blame in this 'Tis too much proved. that with devotion's visage and pious action we do sugar o'er the devil himself. Spare the rod.」(英語字幕より)

イヴィに誰と問われ、仮面の者に無意味な質問とたしなめながら、「V」で始まる単語を46個使って自己紹介が行われます。
「ご覧の姿は道化師のもの。時に弱き者を、また時に悪しき者を演じることも。仮面はただの虚飾にあらず。もはや素顔をさらして歩ける世界でないゆえだ。しかし、この厄介者が再び姿を現したのは、世の悪をただすため。この腐った世界に、うごめくウジ虫を掃除する、そのために。そう、これは”血の復讐”だ。復讐の誓いは、今も生きている。悪を絶ち切り、自由をもたらすために。少々長い自己紹介になったようだ。」(日本語字幕より)
「Voila! In view, a humble vaudevillian veteran cast vicariously as both victim and villain by the vicissitudes of fate. This visage, no mere veneer of vanity is a vestige of the vox populi, now vacant, vanished. However, this valorous visitation of a bygone vexation stands vivified and has vowed to vanquish these venal and virulent vermin vanguarding vice and vouchsafing the violently vicious and voracious violation of volition. The only verdict is vengeance, a vendetta held as a votive not in vain, for the value and veracity of such shall one day vindicate the vigilant and the virtuous. Verily, this vichyssoise of verbiage veers most verbose. 」(英語字幕より)

では、46個の「V」ではじまる単語をご堪能ください。
1. voila:ほら
2. vaudevillian:寄席芸人の
3. veteran:経験豊富な人
4. vicariously:身代わりとして
5. victim:犠牲者
6. villain:悪人
7. vicissitude:移り変わり
8. visage:顔つき
9. veneer:うわべの飾り
10. vanity:虚栄心
11. vestige:痕跡、名残り
12. vox:vox populi:民の声、世論
13. vacant:からっぽの
14. vanish:消える、消滅する
15. valorous:勇敢な
16. visitation:訪問
17. vexation:苛立ち
18. vivify:生き返らせる、生き生きさせる
19. vow:誓う
20. vanquish:打ち破る、打ち負かす
21. venal:金銭次第の、金目当ての
22. virulent:悪意に満ちた
23. vermin:社会の害虫、人間のくずども
24. vanguard:先頭に立つ、指導する
25. vice:悪
26. vouchsafe:与える、授ける
27. violently:激しく、手荒に
28. vicious:悪意のある、邪悪な
29. voracious:旺盛な、どん欲な
30. violation:違反行為、暴行
31. volition:意志作用、意志
32. verdict:評決、決定
33. vengeance:復讐、名誉回復
34. vendetta:復讐、敵討ち
35. votive:自由意志による、奉納されたもの
36. vain:in vain:むだに
37. value:価値
38. veracity:誠実さ、真実性
39. vindicate:避難の不当性を立証する、正当性を立証する
40. vigilant:絶えず警戒している、油断のない
41. virtuous:徳の高い、高潔な
42. verily:本当に、実際は
43. vichyssoise:ビシソワーズ(ジャガイモで作る冷たいクリームスープ)
44. verbiage:冗長、言い回し
45. veer:向きを変える
46. verbose:言葉数が多い、くどい

しりとりなら、「V」で始まる言葉では誰にも負けないって感じですね。未熟ながら、訳に挑戦してみました。
「やあ、ご覧いただくは、卑しき老練の道化師。運命のいたずらにより被害者と加害者のいずれにも身代わって演ずるものなり。この仮面は、世論の名残りにて、ただの虚飾にあらずも、今は中身も失せ、消滅せり。しかしして、いにしえの厄介者が命を得て、勇ましく再来せしは、誓いを立てたため。悪を導き、甚だしい邪悪と暴力を欲して止まぬ心を与えんとする、これら金目当ての悪意に満ちた、世のダニどもを打ち破らんや! この決意こそ復讐なり。無駄となることのない自由意志として執り行われる復讐なり。なぜなら、このような価値あるものごとと誠実さは、いつの日か、絶え間ない警戒心と高潔さの正当性を立証するに違いないからである。まったく、言い回しのポテトクリームスープはほとんどくどいものになってしまったようだ。」

ここに登場する「V」で始まる言葉はその多くががフランス語を語源とするもののようです。おもしろいですね。かつてフランスが力を持ち、世界の文化の中心であったことを物語っていると思います。
蛇足というものになるでしょうが、次の「very」を入れると、47個になります。
「要するに、簡単に”V”と呼んでいただければ結構だ。」(日本語字幕より)
「So let me simply add that it's my very good honor to meet you and you may call me V.」(英語字幕より)

サトラー議長のためのバターを盗んだことを、「You're insane.:正気じゃない」と言われたVは、マクベスの言葉を借ります。
「男となるに必要ならば、何でもやろう。」(日本語字幕より)
「I dare do all that may become a man. Who dares more is none.」(英語字幕より)
「男とならせるものはすべてやろう。しかしやり過ぎは何も生みはしない。」って感じでしょうか。

巌窟王の映画を見終わった二人なのですが、感想は微妙に食い違うのでした。
「自分の木を探せ。気に入った?」
「ええ。でも、メルセデスがかわいそう。」
「なぜ?」
「彼は復讐を優先したから。」(日本語字幕より)
「You find your own tree. Did you like it?」
「Yeah. But it made me feel sorry for Mercedes.」
「Why?」
「Because he cared more about revenge than he did about her.」(英語字幕より)
そうですよね。理念は理念のうちは良いのですけれど、復讐となりますとね。それほど肯定できるものではなくなってきますよね。そんな復讐を自分より大切にしたとなると、受け入れられないものがあるでしょう。

ニュース報道から、新たな殺人があったことを直感するイヴィは、Vがなにか関わっていると考えます。
「真実を知りたいか?」
「この事件と何か関係が?」
「私が殺した。」
「そんな、何てことを。」
(「うろたえてるね。」)
「プロセロを殺したのよ。」
「君を襲った男たちを殺しても不満か?」
(「なに?」)
「”正義の鉄拳”もある。」
「何のこと?」
「裁きさ。」
「なるほど。」
「法廷が機能しないからだ。」
「もっと殺す気なの?」
「そうだ。」(日本語字幕より)
「Would you prefer a lie or the truth?」
「Did you have anything to do with that?」
「Yes, I killed him.」
「You... Oh, God.」
「You're upset.」
「I'm upset? You just said you killed Lewis Prothero.」
「I might have killed the Fingermen that attacked you. I heard no objection.」
「What?」
「Violence can be used for good.」
「What are you talking about?」
「Justice.」
「Oh, I see.」
「There's no court in this country for men like Prothero.」
「And are you going to kill more people?」
「Yes.」(英語字幕より)
「きみは、ウソを好むかね、それとも真実?」
「この事件にかかわって何かやったの?」
「そうだ、私が彼を殺した。」
「あなた、ああ、神様。」
「うろたえてるね。」
「うろたえる? あなた、たった今プロセロを殺したと言ったのよ。」
「私はきみを襲ったフィンガーマンたちを殺さねばならなかった。異議申し立ては聞かなかったが。」
「なに?」
「暴力はいいことにも使うことができる。」
「なんのことを言ってるの?」
「正義だ。」
「ああ、なるほど。」
「プロセロのような男たちのための法廷がこの国にはないのだ。」
「そして、あなたはもっと人を殺すつもりなのね。」
「そうだ。」
女性は命を宿し、命を育みます。人を殺す? 受け入れられるものではありません。いや女性でなくてもこうは言えるでしょう。人を殺すことに躊躇がなくなったら、人は人でなくなり始めてる。いや、地球上で最も互いを殺し合っているのは人間です。私には肉親や愛する者を奪われた経験はありません。それでも人を憎むことがあります。人は人をあやめる可能性のある生き物なのかも知れません。だからこそ、イヴィのように人を殺すことを非難する存在が必要でしょう。

ある日、イヴィは自分の家族のことを話します。
「父は作家だった。よく言ってたわ。”政治家はウソを語り、作家はウソで真実を語る”と。」
「その考えに賛成だ。」(日本語字幕より)
「My father was a writer. You would have liked him. He used to say artists used lies to tell the truth while politicians used them to cover the truth up.」
「A man after my own heart.」(英語字幕より)
「cover up」は他動詞の成句として、「隠す」の意。「after O's (own) heart」で「気に入った、心にかなった」の意。
「私の父は作家だった。あなたも父を気に入ったはずよ。彼はよく言ってた。芸術家は真実を語るためウソをつくが、政治家は真実を隠すためにウソをつく。」
「私の心にかなった方だ。」

イヴィの幼い弟の死をきっかけに、彼女の両親は活動家となります。彼女が心配するなか、両親は捕らえられ、帰らぬ身となりました。
イヴィは自分が強い人間になりたいと言います。強くなること、勇気を持つこと。それがイヴィにとって、両親や弟の死を受け入れ、乗り越える方法なのかも知れません。
「かわいそうに。」
「私は悔しい。父や母みたいに、強い人間じゃないのが。悔しい。怖がってはいけないけど、怖い。社会が異常なのは、誰よりも知っている。さっきの頼みだけど、もし、私で役に立つなら、手伝わせて。」
「お望みなら。」(日本語字幕より)
「I'm sorry, Evey.」
「No, I'm the one that's sorry. Sorry I'm not a stronger person. Sorry I'm not like my parents. I wish I was, but I'm not. I wish I wasn't afraid all the time, but I am. I know this world is screwed up. Believe me, I know it better than most. Which is why I wanted to ask, if there is anything I can do to help make it right, please let me know.」
「If you wish.」(英語字幕より)
「気の毒だったね、イヴィ。」
「いいえ、私はそれを残念とする者よ。もっと強い人間でないのが残念。両親のようでないことが残念。そうでありたいと願ったけど、そうじゃなかった。常に恐れないでいたかったけど、恐ろしかった。世界が奪い取られているのは知ってるわ。信じて、誰よりもよく知ってる。そこのところが、私が頼みたいわけだけど、私に世界を正すのに何かできることがあるのなら、どうか私に教えて。」
「君が望むなら。」

ラテン語と思われる、「V」で始まる言葉が鏡に刻まれています。ここではイヴィはVのこだわりを軽くあしらってます。
「ヴィ、ヴェリ、ヴェニヴァルサム、ヴィヴス、ヴィシ。」
「真実の力により、我、宇宙を制服せり。」
「座右の銘?」
「ファウストだ。」
「悪魔をダマす話でしょ?」
「そう言えば、手助けの話は、まだ生きているのかな?」
(「もちろんよ。」)(日本語字幕より)
「Vi Veri Veniversum Vivus Vici」
「By the power of truth, I, while living have conquered the universe.」
「Personal motto?」
「From Faust.」
「That's about trying to cheat the devil, isn't it?」
「It is. And speaking of the devil, I was wondering if your offer to help was still standing.」
「Of course.」(英語字幕より)
Vの手伝いを申し出て、要請を受けたイヴィでしたが、司教の命を奪うことを受け入れたわけではなかったようです。むしろ、社会の敵かも知れぬ司教に真実を伝え、また自分の罪も許してもらおうとします。このときのどこか盲目的な彼女の行動は、あたかも父の愛を求める幼い少女のようです。一方、かの司教は神ではなく、悪魔に使える魂の主でした。彼女の、その得難くて彼女そのもののような良心は、受け入れられませんでした。イヴィは両親を失ったときのように、居場所を失い、心のよりどころも失ってしまいました。
ゴードンの家でわずかな間落ち着きを取り戻しかけますが、それも無残に奪われてしまいます。しかも、今度は自らがとらわれの身となります。

イヴィは独房で、壁の片隅の割れ目の中にヴァレリーという女性が残した手記を見つけます。イヴィは過酷な孤独にあって、彼女の手記を砂漠で見つけたわき水であるかの如く求め、呼吸するかのように読み返し、赤子が飲み込んだ母乳のように吸収したのでした。ヴァレリーの言葉はイヴィの血となり肉となり、精神となったのでした。
「こんなひどい所で死ぬなんて。でも、私には幸せなバラの3年間があった。私はここで死ぬ。私の体が消えても、残るものがある。一つだけ。”真実”。それは小さく壊れやすい。でも唯一価値のあるもの。失ってはいけない。奪われてもいけない。あなたが誰であれ、逃げてほしい。世界が正常に戻ってほしい。でも、一番の願いは、理解してもらうこと。会ったこともない、あなたに。顔を見ることもない、一緒に笑ったり、泣いたり、キスもできない。でも、あなたを、心の底から愛してるわ。ヴァレリー。」(日本語字幕より)
「It seems strange that my life should end in such a terrible place. But for three years, I had roses and apologized to no one. I shall die here. Every inch of me shall perish. Every inch but one. An inch. It is small, and it is fragile and it is the only thing in the world worth having. We must never lose it or give it away. We must never let them take it from us. I hope that, whoever you are, you escape this place. I hope that the world turns and that things get better. But what I hope most of all is that you understand what I mean when I tell you that even though I do not know you and even though I may never meet you laugh with you, cry with you or kiss you, I love you. With all my heart I love you. Valerie.」(英語字幕より)
「こんなひどい場所で私の人生が終らねばならぬとは奇妙な感じ。しかし、私にはバラがあって、誰にもわびる必要のない3年間があった。私はここで死ぬでしょう。私のどんな細かな部分も消滅する。どんな細かな部分も、ただひとつを除いて。1インチ。それは小さく、壊れやすい。そしてそれは持てるものの中で、唯一世界で価値のあるもの。決して失ってはいけない。あるいは譲ってもいけない。決して奪われてはいけない。あなたが誰であれ、この場所から逃げて欲しい。世界が変化して、物事がより良くなって欲しい。でも、何よりも願っているのは、私が次のように言ったとき、私が意味していることを理解してくれること。たとえあなたを知らなくても、たとえあなたと笑いあうことも、泣くことも、キスすることもないとしても、あなたを愛しています。私の心すべてをかけて、あなたを愛しています。ヴァレリー。」

イヴィは命より、魂が導く示すべき態度を選択します。
しかし、イヴィは突如解放されます。なにもかもが、Vの作った”ウソ”だったのです。
「大嫌い! 憎んでやる!」
「それだ! 私には”憎しみ”しかなかった。私の世界すべてを”憎しみ”が支えていた。”憎しみ”の中で死ぬはずだった。だが、何かが起きた。私の中で、君と同じように。」
「黙ってよ! ウソはたくさん!」
「”作家はウソで真実を語る”、君の父上の言葉だ。君をダマした。だが、そのお陰で、君は自分を見つけた。」
「違う。」
「君は恐怖を克服した。本当の自分を見つけたんだ。」
「もう何も分からないわ!」
「逃げるな。君は逃げ続けてきた。」
「苦しい。息ができない。ぜん息が、子供の時。」
「聞きなさい。人生で一番大事な時だ。向き合え。彼らは君の両親を奪い、弟を奪った。君を施設に押し込め、命以外のすべてを奪った。命しかないと思ったはずだ。だが間違いだった。そうだな?」
「もうやめて。」
「まだあったのだ。命より大事なものを見つけたのだろ? だから、協力すれば助かる時でも、死を選んだのだ。死に直面しても、みじんも動かなかった。その気持ちを思い出せ。」
「どうしよう。私。」
(「うん。」)
「目が回る。空気を。お願い。外へ行きたい。」(日本語字幕より)
「Leave me alone! I hate you!」
「That's it! See, at first, I thought it was hate too. Hate was all I knew. It built my world, imprisoned me, taught me how to eat, how to drink, how to breathe. I thought I'd die with all the hate in my veins. But then something happened. It happened to me just as it happened to you.」
「Shut up! I don't want to hear your lies!」
「Your own father said that artists use lies to tell the truth. Yes, I created a lie. But Because you believed it, you found something true about yourself.」
「No.」
「What was true in that cell is true now. What you felt in there has nothing to do with me.」
「I can't feel anything anymore!」
「Don't run from it, Evey. You've been running all your life.」
「I can't... Can't breathe. Asthma. When I was little...」
「Listen to me, Evey. This may be the most important moment of your life. Commit to it. They took your parents from you. They took your brother from you. They put you in a cell and took everything they could take except your life. And you believed that was all there was, didn't you? The only thing you had left was your life, but it wasn't.」
「Oh, please.」
「You found something else. In that cell, you found something that mattered more to you than life. When they threatened to kill you unless you gave what they wanted you told them you'd rather die. You faced your death, Evey. You were calm. You were still. Try to feel now what you felt then.」
「Oh, God. I felt...」
「Yes?」
「I'm dizzy. I need air. Please, I need to be outside.」(英語字幕より)
「ほっといて! あなたなんか嫌いよ!」
「それだ! そう、最初、私が考えたのも憎しみだった。憎しみこそ私が知っているすべてだった。憎しみが私の世界を作った。憎しみが私を閉じ込めたのだ。憎しみが私に食べ方を教え、飲み方を教え、息の仕方を教えたのだ。私は私の血管を埋め尽くす憎しみによって死ぬのだと思った。しかし、何かが私に起こった。君に起こったように。」
「黙りなさい! あなたのウソなど聞きたくない!」
「君自身の父君が芸術家は真実を語るためにウソをつくと言った。そう、私はウソを作り上げた。しかし君こそ信じてるはずだ。君が自分についてなんらかの真実を見つけたことを。」
「いいえ。」
「あの独房の中で見つけた真実は今も真実だ。あそこで君が感じたことは、私とは関係ないものだ。」
「私はもう何も感じないわ!」
「逃げないで、イヴィ。これまでの人生逃げ続けたじゃないか。」
「私、息ができない。ぜん息。私、小さい頃。」
「聞いてくれ、イヴィ。今が君の人生で最も大切な時だ。心を注ぐんだ。彼らは君から両親を奪った。彼らは君から弟を奪った。彼らは君を部屋に閉じ込め、命以外のすべてを奪った。そして君はそこにあったものがすべてと信じた。そうだろ? 君に残された唯一のものは、君の命だと。しかし、そうじゃなかった。」
「ああ、お願い。」
「あの部屋で君は何かほかのものを見つけた。君にとって命よりもっと重要な何かを見つけたんだ。彼らが彼らの望むものを与えなければ、君を殺すと脅したとき、君はむしろ死ぬ方がよいと彼らに言った。君は君の死と向き合ったんだ、イヴィ。君は平静だった。君は平穏だった。あのとき感じたことを今感じるんだ。」
「ああ、神よ。私、感じる。」
「うん。」
「目が回る。空気を。お願い、外に。」
興奮するVになりかわって申したいことがあります。決してイヴィは死を選んだのではなく、あくまで命よりも重要なものを選んだのだと。

イヴィはVのもとを去ることを決心します。
Vは、ウソの中の真実であったものをイヴィに見せます。ヴァレリーもヴァレリーの手記も真実だったのです。
「死ぬ直前に書かれ、君と同じように手に入れたのだ。」
「事実だったのね。」
「そう。」
「隣の独房に。そういうことだったの。復讐なのね、彼女とあなた自身の。」
「奴らが私を創った。宇宙の法則だ。”作用には必ず反作用がある。”」
「それがあなたの考え方?」
「彼らがしたことは、」
「怪物を創った。」(日本語字幕より)
「She wrote the letter just before she died. And I delivered it to you as it had been delivered to me.」
「Then it really happened, didn't it?」
「Yes.」
「You were in the cell next to her. And that's what this is all about. You're getting back at them for what they did to her. And to you.」
「What was done to me created me. It's a basic principle of the universe that every action will create an equal and opposing reaction.」
「Is that how you see it? Like an equation?」
「What was done to me was monstrous.」
「And they created a monster.」(英語字幕より)
最後の2つの言葉を取り上げてみます。
「私になされたことは、極悪非道なことだった。」
「そして、彼らは怪物を創った。」
Vはイヴィに1年後11月5日の前に会ってくれることを申し込んだのでした。

1年後イヴィは約束を守って、Vの前に現れます。
「君に贈り物があるんだ。だが、それを渡す前に、ひとつ頼みがある。踊ってくれないか?」
「今から? 革命前夜に?」
「ダンスのない革命など、革命に値しない。」
「喜んで。」(日本語字幕より)
「I have a gift for you, Evey, but before I give it to you, I'd like to ask you something. Would you dance with me?」
「Now? On the eve of your revolution?」
「A revolution without dancing is a revolution not with worth having.」
「I'd love to.」(英語字幕より)
ダンスは、Vがイヴィにプロボーズしたのだと思います。

「もう時間だ。」
「仮面を配ったわね。そこら中、あなただらけ。」
「正体を隠すのを手伝って、変装がうまくいくように。」
「十二夜の、」
「ヴァイオラだ。」
「でも、どうして?」
(「なにが?」)
「私の人生を変えたあなたのことを、私は何も知らない。生まれた場所、ご両親のこと、あなたの兄弟のこと。あなたの顔さえ知らない。」
「いけない。この仮面の下の顔は、私ではない。顔の下の筋肉も、その下の骨も、私とは違う。」
「分かった。」
「ありがとう。」(日本語字幕より)
「It's nearly time.」
「The masks were ingenious. It was strange to suddenly see your face everywhere.」
「Conceal me what I am, and be my aid for such disguise as haply shall become the form of my intent.」
「Twelfth Night.」
「Viola.」
「I don't understand.」
「What?」
「How you can be one of the most important things that has happened to me and yet I know almost nothing about you. I don't know where you were born, who your parents were if you had any brothers or sisters. I don't even know what you really look like.」
「Evey, please. There is a face beneath this mask but it's not me. I'm no more that face than I am the muscles beneath it or the bones beneath them.」
「I understand.」
「Thank you.」(英語字幕より)
Vは、あたかも理念そのものであるかのように、抱くことも、キスすることもできない存在だったのかも知れません。

「この線路は議事堂に。」
「そうだ。」
「本当に爆破するのね。」
「それは君の決断次第だ。」
(「え?」)
「これが贈り物だ。私の家、書籍、画廊、そしてこの列車。すべてを君に委ねたい。」
「またダマすの?」
「いや、もうダマさない。ウソもない。真実のみ。今までの私は間違っていた。それを教えてくれた君に、このレバーを委ねる。」
「なぜ?」
「なぜなら、私や彼らを生み出した古い世界は、今夜終焉を迎えるからだ。明日から世界は変わる。だから、このレバーは新世代に委ねる。」(日本語字幕より)
「These tracks lead to Parliament.」
「Yes.」
「Then it's really going to happen, isn't it?」
「It will if you want it to.」
「What?」
「This is my gift to you, Evey. Everything that I have: my home, my books, the gallery, this train. I'm leaving to you to do with what you will.」
「Is this another trick, V?」
「No. No more tricks. No more lies. Only truth. And the truth is, you made me understand that I was wrong that the choice to pull this lever is not mine to make.」
「Why?」
「Because this world , the world that I'm a part of and that I helped shape, will end tonight. And tomorrow, a different world will begin that different people will shape, and this choice belongs to them.」(英語字幕より)
Vは、イヴィを通じて、新しい世界を担う新世代の人々を信じることができたのかも知れません。あるいは愛することができたのかも知れません。あるいはまた、自分が固執していたものを手放すことができたのかも知れません。
「なぜなら、この世界は、私が属し、私が形作ることに手を貸した世界だが、今夜終わりを告げる。そして明日、新たな人々が形作る新たな世界が始まる。そしてこの選択もその者たちに属するものだ。」

Vは復讐の仕上げに出向こうとします。
「どこへ行くの?」
「創造主と対面する時間だ。借りを返さねばならない。」
「待って! 復讐は忘れて。一緒に行きましょ。」
「以前、君が言ったことは正しい。私は怪物なのだ。望むものは、このトンネルの先にある。」
「違うわ。」(日本語字幕より)
「Where are you going?」
「The time has come for me to meet my maker and to repay him in kind for all that he's done.」
「V, wait! Please, you don't have to do this. You could let it go. We could leave here together.」
「No. You were right about what I am. I have no tree waiting for me. All I want, all I deserve, is at the end of that tunnel.」
「That's not true.」(英語字幕より)
Vの「私を待ってくれる木はどこにもなく、私が欲するものすべてはトンネルの先にある」に対するイヴィの、「それは真実じゃない」という指摘は、正しいのだと思います。
Vはイヴィが待ってくれることを知っていたはずです。帰るところは、イヴィの胸の中と決めていたはずです。イヴィと生きれば新たな世界を知ることができたでしょう。
しかし、それはもともとなかったもの。すべてこの日のために生きてきたが、最後に憎しみに満たされない恵みを得たのは、イヴィのお陰だ。Vの復讐はいつしか使命に変わったのかも知れません。イヴィにより良い世界を渡すと言う。

「なぜ死なん?」
「仮面の下にあるのは、”理念”だからさ、クリーディー君。理念は決して死なない。」(日本語字幕より)
「Why won' you die?」
「Beneath this mask there is more than flesh. Beneath this mask there is an idea, Mr. Creedy. And ideas are bulletproof.」(英語字幕より)
命を超えたもの。そして今は真に復讐を超えたもの。理念は倒すことができない。
「仮面の下には肉体を超えたものがある。仮面の下にあるのは理念だ、クリーディー君。そして、理念に弾丸は通じない。」

Vは最後にイヴィと共に世界を生きます。愛に満ちた世界です。
「20年間、この日を待ち望んだ。このために生きた。だが君と出会って、すべてが変わった。君に恋したのだ。あり得ないことだった。」
「死なないで。」
「それが、君が私にくれた最上の贈り物だ。」(日本語字幕より)
「For 20 years I sought only this day. Nothing else existed until I saw you. Then everything changed. I fell in love with you, Evey like I no longer believed I could.」
「V, I don't want you to die.」
「That's the most beautiful thing you could have ever given me.」(英語字幕より)

議事堂を爆破するためのレバーをイヴィは引こうとします。やめさせようとするフィンチ刑事の言葉にも動じることがありません。Vが正しいと主張します。Vはシンボルが必要だと言いました。イヴィはそれが”希望”と言うシンボルだと確信していました。
「終わったのか?」
「まだよ。」
「やめろ。手を離せ。」
「イヤよ。」
「何のために?」
「彼のため。」
「どうして?」
「必要なのは、建物じゃなくて、”希望”だから。」(日本語字幕より)
「Then it's over?」
「Almost.」
「Stop. Get your hand off that lever.」
「No.」
「Why are you doing this?」
「Because he was right.」
「About what?」
「That this country needs more than a building right now. It needs hope.」(英語字幕より)

「この国の人々は、この夜を忘れないだろう。そして、私は決して彼を忘れない。」(日本語字幕より)
「No one will ever forget that night and what it meant for this country. But I will never forget the man and what he meant to me.」(英語字幕より)
「今宵を忘れる者はいないだろう。そしてこれがこの国にとって意味することを。しかし、私はこの男のことを忘れないだろう。そして彼が私に意味したことも。」

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「He should not suffer by our ignorance.」(「ロレンツォのオイル」より)

MY DVD:「LORENZO'S OIL:ロレンツォのオイル(1992年製作)」発売元:ユニバーサル・ビクチャー・ジャパン UNKG-25397

最初、不思議な題名と思いながら、前知識なしで見ました。テレビ(NHK BS放送)で放映されたものの録画でした。
「ロレンツォ」は、不治の病にかかった少年の名前。「ロレンツォのオイル」とは、その両親が医学の知識がなかったにも関わらず、自らの調査と推考により、体内の脂肪酸に関係する酵素の生合成のメカニズムを解明し、そしてそこから病状の特徴である血中の脂肪酸濃度の正常化を成功させた食用オイルのことである。オドーネ家、父オーグストと母ミケーネ、ひとり息子ロレンツォの物語である。
ロレンツォの病名は、Adrenoleukodystrophy:副腎白質ジストロフィー。
映画によると、この病気はALDと呼ばれ、女性では発病せず、キャリアになるだけで、発病は男子にのみ見られます。この病気にかかると、長鎖C24とC26の飽和脂肪酸と呼ばれる脂肪分を代謝することができなくなり、血中の脂肪酸濃度が異常に高くなります。その結果、代謝できずに溜まった脂肪酸が、脳の神経細胞を保護するミエリンを剥がしてしまうため、脳の白質の変質をまねき、全身が機能を失い、最後には命を奪われる恐ろしい病気です。病気の進行は非常に早く、不機嫌や歩行不安などの発病から無言症・嚥下困難・失明・皮膚剥離などを経て、当時発病から2年以内に死ぬと考えられていました。

「ロレンツォのオイル」は実話をもとにした映画で、多くの事柄が盛り込まれています。2年の命と宣告されてから、1年後最初のオイルで血中濃度は50%まで下げたものの、それ以上改善できず、さらにもう1年たってやっと希望の持てるオイルにたどり着こうとします。ロレンツォが正常値を得るのは、診断から2年8ヶ月後です。以下は、映画に示された日付をもとにした略歴です。
1983年10月 ワシントンDC ロレンツォ発病
1984年3月から4月 ワシントン小児病院 病名判明 2年以内に死亡と宣告される
1984年5月 ロレンツォ、歩行不安状態 小児科神経学のニコライス教授と出会い、食餌療法開始
1984年6月 ボストン 免疫抑制療法、病状悪化を覚悟で開始
1984年8月 オーグスト、ロレンツォの病気を自らの力で調べることを決意する 夫婦で国立保健研究所に通う
1984年10月 ネズミの実験で違う無害な種類の脂肪酸を与えて生合成を抑えたことを知る 夫妻、シンポジウムの開催を呼びかける
1984年11月10日 第1回国際ALDシンポジウム開催 オレイン酸に期待するも、トリグリセリドにしないと有害であることがわかる
1984年11月21日 プロトケム研究所から提供されたトリグリセリドC18単不飽和油の食餌療法を開始する
1984年12月 正常な人の4倍ある血中の脂肪酸濃度が15%低下
1985年1月 血中脂肪酸濃度が50%に低下する しかし、主治医ニコライスも財団主催者も、ロレンツォの結果発表を拒む
1985年3月 血中脂肪酸濃度は50%のまま
ロレンツォのけいれんは長時間におよぶが、ロレンツォは耐え忍ぶ オーグスト、再び自ら生化学の調査を開始する事を決める
1985年5月29日 ロレンツォ7歳の誕生日を祝う
二つあると見えていた酵素が実は同一のものであることを思いつく エルカ酸を加えれば、C24/26を抑えられると考えられた
1985年9月 ロンドン・クローダ化学で半年後に定年をひかえたサダビー博士から単不飽和C22の抽出の約束を得る
1986年9月 サダビー氏のエルカ酸のトリグリセリドが完成 キャリアの妹ディードレの血中濃度は正常となる ロレンツォへの投与を開始
1986年12月9日 ロレンツォのC24とC26の数値が正常となる
1987年2月 ロレンツォが自力で唾液を飲み込むようになる
1990年 ロレンツォがまばたきで意思を伝えられることが分かる
ロレンツォは14歳で、視力を回復したとしている

オドーネ夫妻の印象は、それぞれがたいへん自立心のある人たちであるということです。人任せにしないで、自らが責任を取るタイプの人たちと思います。
母親のミケーラは、病名を伝えられた直後、夫オーグストに支えられて部屋を出てきましたが、その後そのような姿を見せる事はありませんでした。苦しむロレンツォの前で弱音をはくようなこともありませんでした。彼女は全身全霊をかけてロレンツォを守り抜く覚悟を決めたのでしょう。あたかもたいへん太くて短い命綱でふたりの間をロックしたかのようです。ロレンツォを決して見放さないと決意した彼女は、ロレンツォが眼も見えず、言葉も出せず、手足も動かせなくて、意識があるのかさえ分からない状態になっても、彼の魂が苦しみと戦い生き抜こうとしていることを信じて疑いませんでした。
彼女が、18年の経験のある有能な看護士をクビにするのも、ロレンツォの魂を理解していないと判断したためのようです。
「もう耐えられません。」(日本語字幕より)
「I'm not comfortable with this situation.」(英語字幕より)
「ここの状況は心地よいとは言えません。」
このように言う看護士ルースをその場でクビにしてしまいます。
「ルースは暗に、ホスピスを薦めたのよ。ロレンツォは耐えに耐えてきたのに。」(日本語字幕より)
「She's talking about placement, Deirdre. It's a euphenism for "hospice." Lorenzo has enough to endure. We will not expose ourself to doubt and despair.」(英語字幕より)
「彼女は場所のことを言ってるの、ディードレ。遠回しにホスピスを言ってるの。ロレンツォは耐えに耐え抜いてるわ。私たちは疑いや絶望をさらけ出すわけにはいかないのよ。」
ここでの”ホスピス”は、治療の当てがない患者の最後の安息に満ちた時間をケアする施設のことで、ロレンツォに安楽な死を迎えさせることを示すことになります。唾液が気管に入るのはどんなに気をつけても避けられない部分があるようです。そして、そのときけいれんを起こして、泣き叫ぶロレンツォの姿はあまりに惨いものなのでしょう。ロレンツォを我が身とし、戦う事を誓った母親でなければ、耐えられないほどの苦痛を看護する者も味わうのかも知れません。ロレンツォの苦しむ様子に耐えられなくなった看護士ルースの心情をすばやく読み取ったミケーラは、そうした弱音をロレンツォに一切触れさせたくないため、即座に彼女をクビにしたに違いありません。加えて、ミケーラには、ロレンツォ以外に人を励まし、受け入れるだけの余裕はなかったのかも知れません。
しかし、そばにいた妹ディードレも、その言動を目の当たりにして、ミケーラの心情を疑わざるを得なかったようです。「ロレンツォ以外の人生も考えて欲しい」と訴えるディードレであったが、ミケーラは何よりもロレンツォを理解しない人間に悔しさをぶつけます。
「息子は物も言えないし、生きる力もないから? そんな考えなら出て行って!」
「息子をかばう事が異常?」
「息子があんな状態で、なぜ自分が楽しめる?」(日本語字幕より)
「Do you think that he has no voice? No will to live? He asserts it through us! If you can't see that, there's no place for you here!」
「You think I'm crazy because I speak for our son?!」
「How I can? How can I enjoy anything when he enjoys nothing?」(英語字幕より)
「彼が言葉を失っていると思ってるの? 生きる意思もなくしたと? 彼は私たちを通して主張してるのよ! それが分からないのなら、ここにあなたのいる場所なんてないわ。」
「私たちの息子のために話すことが、狂ってる事だと言うの?!」
「どうしろと言うの? あの子が何も楽しめないときに、どうして私がなにか楽しめるの?」

しかし、最も意思が強いのはロレンツォなのかも知れません。
重い病気と戦いながら、おそらく大人でも耐え難いであろう免疫抑制治療の1ヶ月に耐えており、医師さえ手放してしまいそうになった、長時間のけいれんが続いたとき、さすがの母ミケーラもつらいなら天国に行ってもいいと言ったとき、しかしついにロレンツォは耐え通したのでした。加えて、彼はまばたきで意思を伝えられるようになるまで、5年以上暗黒の世界に住んでいたことになります。
ロレンツォは、あの免疫抑制治療の後、大好きなお話を両親にねだっています。サン・ロレンツォのお話です。
「手をにぎって。何か、お話をして。」
「どんなお話がいい?」
「サン・ロレンツォのお話だよ。」
「それは誰かしら?」
「僕の守護聖人で、パパの村の聖人だよ。」
「そうね。で、その聖人は?」
「ローマにいたんだ。だけど、後は忘れた。」
「さてと、大昔に悪人が、その聖人に言った。”教会の宝を持ってこい”とね。すると聖人は、物乞いの人や、病気の人を連れてきたんだ。そして言った。」
「”これが教会の宝だ”と。」(日本語字幕より)
「Now hold my hand.」
(「Yes, sweetie.」)
「Now the story.」
「What story is that, sweetheart?」
「La notte di San Lorenzo.」
「San Lorenzo, who is?」
「My patron saint. And saint of my father's village.」
「That's right. And what happened to him?」
「He was in Rome.」
(「Mm-hm.」)
「And... I forgot.」
「Well, many years ago, the bad guy says to him "Bring us the riches of your church." And Lorenzo, he brings them the beggars and the sick people and he says...」
「"These are our riches."」(英語字幕より)
ロレンツォは、このお話から3つのことを学んでいたのではないかと思います。
1つは、自分が頑張れば他の子供を救うことになるということ。自分と同じ名の聖人ロレンツォのように、貧しい人や病人を救うことができるということ。
2つ目は、この日、8月10日が聖人ロレンツォの日であり、流れ星の夜であり、願い事は叶うということ。
3つ目は、何よりも大切なことなのですが、自分は病人であるが、聖人ロレンツォにとって、そしてもちろんパパとママにとって、自分が宝であり続けることに変わりはないということである。

この翌朝、オーグストは自らロレンツォの病気を調べる決意をします。
「だが医者も何も知らん。手探り状態だ。食餌療法も成果なしだ。あのひどい免疫抑制も、何の役にも立ってない。息子を盲目的に、医者の手に任せておけない。我々の無知で、わが子を苦しめたくない。責任を持とう。」(日本語字幕より)
「Michaela, the doctors are in the dark. They're groping in the dark. They've got Lorenzo on a turvy-topsy diet. And that bloody immunosuppression is brutal and useless. Michaela, we should not have consigned him blindly into their hands. He should not suffer by our ignorance. We take responsibility.」(英語字幕より)
「ミケーラ、医者たちも無知の状態だ。彼らは無知で手探り状態だ。彼らはロレンツォを草みたいでマヌケのダイエットを与えたし、おぞましい免疫抑制は、残忍で使いものにならない。ミケーラ、彼を盲目的に彼らの手にゆだねることはできない。彼を我々の無知で苦しませてはいけない。私たちが責任を持つんだ。」
こうして、夫妻は国立保健研究所に通い出します。
オーグストは前にも1度、国立保健研究所を訪れています。ロレンツォの病気が告知されたすぐ後です。彼は知らされた病気のことを知ろうと、そこを訪れたのでした。しかし、その病気の恐ろしさを臨床例の記述から思い知らされることになりました。病気の進行の早さ、失明など残酷無比な病状の数々。オーグストはロレンツォを待ち受けている恐ろしい病状と運命に、激しく打ちのめされたのでした。
オーグストは調査を得意としているようですが、このときばかりは2度とロレンツォの病気についてそれ以上知りたいとは思わなかったのではないでしょうか。
しかし、免疫抑制という無慈悲で過酷な試練を耐え抜きながら、健気にも崇高な、聖人ロレンツォのお話を求めるロレンツォの魂に触れて、再びロレンツォの病魔と対峙する決意をしたのだと思います。
このあと、ロレンツォが長時間苦しみを耐え抜いたとき、ロレンツォが戦い抜いたように、自らも再びロレンツォの病気を理解し解明するという、さらなる調査の戦いを決心することになります。このときは、ロレンツォの命ばかりでなく、妻ミケーラの命さえも救う必要があったと考えずにはいられません。彼女の生命の消耗も著しいものがあったはずです。

私は、しかしミケーラの精神が揺らいだのは、ロレンツォが長時間けいれんに苦しんだときを除けば、オモウリを呼び寄せたときではなかったかと考えています。
このころは、病名判明から1年11ヶ月ほどたっており、発病からは2年を超えています。加えて、サダビー博士が定年を迎えようとしているのにまだ新しいオイルのメドがたってない時期に重なります。オモウリをロレンツォのために呼び寄せることの傲慢さは、ミケーラ自身が良く分かっていたのではないかと思うのです。
ロレンツォにとってオモウリは特別な存在に違いありません。だからこそ、むしろ、ミケーラ自身のためにどうしてもオモウリの助けが必要だったのではないでしょうか。持つことも、見せることもあってはならない、疑いと絶望がたとえどんなに僅かでも、ミケーラを脅かしたのではないでしょうか。

ロレンツォが唾液の吸引を必要とするようになった頃、プロトケム研究所から、細胞実験で脂肪酸濃度を50%に低下させたとされる純粋な単不飽和油で、食用として使えるトリグリセリド型のものが1リットルあると連絡が入ります。
ニコライス教授は、この実験には消極的で、距離を置こうとします。
「先生、ロレンツォは診断後もう7ヶ月です。無言になり身動きもできない。」
「私は科学者です。皆さん方のお役に立つには、客観性を維持しないと。」
「私は一人の父親に過ぎない。息子が何を食べればいいか知りたいだけ。」
「オドーネさん、医学の世界は物理と違って、数学的な確実さは何もないのです。苦しむ人間が相手ですから、無慈悲に見えますが。」
「分かります。」(日本語字幕より)
「Yes, well, Gus, it's been seven months since Lorenzo was diagnosed. Now he is silent. He's immobile.」
「Augusto, I am a scientist, and I'm of absolutely no use to you whatever unless I can maintain my objectivity.」
「And I am not a scientist. I am a father. And nobody can tell me what dressing I put on my kid's salad, OK?」
「Augusuto. This science of medicine. You know, it's not like physics. There's no mathematical certainty. And because we deal with human beings who suffer, it can appear heartless.」
「I know.」(英語字幕より)
「うん、そう、ガス。ロレンツォが診断を受けてから、もう7ヶ月になる。今じゃ、彼は無言で、身動きできない。」
「オーグスト、私は科学者で、自分の客観性を維持できなければ、私はまったく使い物にならないのじゃよ。」
「そして、私は科学者じゃない。私は父親だ。そして、息子のサラダに何をドレッシングするか、誰からも指図は受けない。いいですね?」
「オーグスト、これは医学の科学なんだ。分かってるだろうが、物理学のようにはならないんだ。そこには数学的な確実さはないんだ。苦しむ人間を扱うのだから、冷酷に見えるだろう。」
「分かってます。」
ニコライス教授は医学の難しさを語っています。同じ病気でも人によって病状は微妙に違いますし、同じ薬を投与しても人によって利き方は違うことを言っているのだと思います。教授は、長年患者への感情移入をできるだけ避けて、また良い結果や悪い結果に一喜一憂しないで、成績を冷静に判断することで、医学に貢献してきたのだと思います。彼にとって、オーグストの取り組みは医学的と言うより、民間療法的というものに近いと感じずにはいられないのでしょう。医学会は権威主義と批判を受け易い体質とは言え、誰もが同じ方法で一定以上の成果を得られるのでなければ、つまり客観的な再現性がなければ認められないというシステムでなければ、科学の一分野とは言えないのは違いありません。彼は科学者であろうとしていますが、医者の立場から、個人的にはオーグストたちに助力を与えようとしているのでしょう。

「オレイン酸:OLEICACID」と記された、ロレンツォの血中脂肪酸濃度のグラフが50%まで下がった時、オーグスト、ミケーラの喜びはとても大きかったでしょう。そして、同じ病気に苦しむ人たちに早く知らせてあげたいと思うのは当たり前だと思われます。
ニコライス教授は例のごとく、いかなる結果に対しても中立を保とうとします。結果、公表に反対するのでした。
ALD基金を創設したマスカティ夫妻にとっても受け入れ難いものでした。何も出来ず、目の前で子供が病魔に侵され、死ぬのを見守るしかなかった者の覚悟は、オドーネ夫妻とは違うものでした。「希望」の残酷なことを彼らは思い知らされていたのです。

「じゃ、言わせてもらおう。長男が発病した時、ひどい苦しみだ。すぐ死んだのが救いだった。次男のトミーは、3年間生きたが、2年間は眼も見えず、悲惨な状態の植物人間だった。少しでも病人の立場にたてば、苦しみを長引かすような行為は、止めるだろう。」
「息子さんは、延命を望んでいるかしら?」(日本語字幕より)
「You think you know so much. Let me tell you something! When Michael got sick, we looked for anything that might help him. And the best thing that happened? He was taken quickly. Now, Tommy... he has lasted three years. For two of 'em, he's been without his sight, his mind, everything that makes him a human being. He's a vegetable! Oh, boy! If you would stop all this denial, you wouldn't do a thing to prolong your boy's suffering and indignity one minute longer.」
「Has it occurred to you that maybe he doesn't want to be around anymore?」(英語字幕より)
「あんたは随分知ってると考えているようだ。言わせてもらうよ。ミカエルが病気になったとき、彼を救うあらゆるものを探した。そして、起こった最良のこととは? すぐに召されたことだった。そしてトミー、彼は3年生きてる。そのうちの2年は視力も、心も、人間らしいすべてを失ったままだ。彼は植物人間だ! もしこんな(存在の)否定状態を食い止めたいなら、息子さんの苦しみや屈辱的状態を1分たりとも長引かせるようなことはしてはならないんだ。」
「息子さんがもうこれ以上生きたくないないのではないかと思ったことはない?」
オドーネ夫妻の願いを聞き入れて欲しいと思いながらも、マスカティ夫妻の心情は私の創造を超えており、何も言えそうもありません。ただ、何かどこかがしっくりこないとすれば、マスカティ夫妻にとってALD財団の運営が慰めになっているのかも知れないということです。
この後、血中脂肪酸濃度は50%まで下がるものの、それ以上は進まなくなります。

それから、2ヶ月あまりのち、オーグストは画期的な発見をすることになります。
しかし、ニコライス教授の協力は得ることが出来ず、診断から17ヶ月後、1985年の9月、企業の協力を得ることができたのである。それはイギリスの企業の研究員だった。彼はロンドンのクローダ化学であと半年で定年を迎える、ドン・サダビー博士。
余談だが、ドン・サダビー氏は彼自身を演じていると紹介されているので、サダビー氏は本人が出演してるようである。
それから実に1年後、エルカ酸は抽出されたのである。定年を過ぎて、なお献身的な研究を重ねたことがここからわかります。
その3ヶ月後、ついにロレンツォの血中脂肪酸濃度は正常となるのである。

オドーネ夫妻は周囲から疑念を向けられながらも、自分たちが戦わなければならないものと戦い抜いたと言えるのだと思います。
映画の冒頭には、オドーネ一家と縁の深かったアフリカに伝わる歌が紹介されています。
”この人生は戦いだ。勝敗は神の手にある。戦いを祝福しよう。”
スワヒリ戦士の歌より
" Life has meaning only in the struggle. Triumph or defeat is in the hands of the Gods... So let us celebrate the struggle! "
Swahili Warrior Song

残念ながら、ウィキペディアによりますと、母ミケーラは2000年7月に肺ガンで亡くなり、ロレンツォも誤嚥性肺炎で2008年5月に亡くなったとのことです。安らかな眠りが得られますよう、ただただお祈りするばかりです。

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「And All That Jazz」(「シカゴ」より)

MY DVD:「CHICAGO:シカゴ(2002S年製作)」発売元:ハピネット・ピクチャーズ BIBF-5880A

ミュージカルは本場ニューヨークで見たこともありますが、正直言ってさっぱり英語を聞き取れませんでした。セリフでさえ聞き取れないのですが、歌となるとまた一段と聞き取れなくなります。しかし、ミュージカル映画「シカゴ」のDVDには、日本語字幕と英語字幕はもちろん、加えて「歌詞カード」という名の冊子が「封入特典」、つまり「おまけ」として入ってます。
物語は、ショーに出たいと夢見る女性、ロキシー・ハートが夫の知らない間に、段取りをつけてくれるという男と情事のあと、だまされたと知って、撃ち殺してしまうところから始まります。刑務所に入ると、ショーで人気者のヴェルマ・ケリーがすでに悪徳弁護士と組んで裁判対策を始めていました。世間知らずのロキシーですが、ここから彼女のおろかで意地汚くも、しかし可笑しくて笑える、人生の巻き返しが始まるのでした。ここでも確かに、彼女のど根性にぶら下がっている「夢」と「希望」は刑務所の中でも生きる原動力となっていました。
ロキシー役はレニー・ゼルウィガー、ケリー役がキャサリン・ゼタ=ジョーンズ。人の良さそうな?悪徳弁護士のリチャード・ギアも驚きましたが、この二人の女優が踊って歌える才能ある方々とは知りませんでした。賄賂を要求するけどこれまた憎めない所長ママ・モートンを演じていたクイーン・ラティファも、「ボーン・コレクター」ではデンゼル・ワシントンの看護役で、すてきでしたが目立たない役どころでした。
同じような驚きでは、「ミスティック・リバー」や「デイ・アフター・トゥモロー」でその可憐な印象だけだったエミー・ロッサムが、「オペラ座の怪人」で吹き替えなしで歌っていましたね。すごいですね。
とにかく、冒頭から、キャサリン・ゼタ=ジョーンズの「アンド・オール・ザット・ジャズ」がとてもセクシーで楽しくって参ってしまいます。
「And All That Jazz」って、英英辞書によりますと、「and such similar things」となっており、「それと似たようなあれやこれや」って感じのようです。「jazz」は音楽のジャズそのものですが、英語スラング辞典では「性交」と出ております。歌の訳はそれなりのハメを外して遊ぶ内容なんですが、その裏にはエッチを想像させる楽しいものになっているようです。

And All That Jazz
ベイビー
夜の街が呼んでるわ
オール・ザット・ジャズ
ひざにルージュを塗って
ストッキングを下げて
オール・ザット・ジャズ
Come on, babe
Why don't we paint the town?
And all that jazz
I'm gonna rouge my knees
And roll my stockings down
And all that Jazz(歌詞カードより)

「paint the town red」で「お祭り騒ぎをする、酔って公衆に迷惑をかける」となっており、アメリカでは最後の「red」は省略されることが多いようです。「why + not」で「なぜ~しないんだ?」で「~しましょう」って意味に使われています。
「ベイビー。さあ、ハメを外して街に繰り出そう。そしてあれも。ひざにはルージュを塗って、ストッキングを下げて、そしてそんななにもかも。」

車を出して
あたしいい店を知ってるの
冷えたジンと
ホットなピアノ
ひと晩中
お客はドンチャン騒ぎ
オール・ザット・ジャズ
Start the car
I know a whoopee spot
Where the gin is cold
But the piano's hot
It's just a noisy hall
Where there's a nightly brawl
And all that jazz(歌詞カードより)

「whoopee」は「わーい」という叫びや「バカ騒ぎ」の意。英語スラング辞典では「セックス」となってます。「nightly」は「夜ごとの」、「brawl」は「乱痴気バーティー」。
「車を出そう。知ってるのよ、いい店。いかすピアノが聞けて、よく冷えたジンが自慢で、騒がしいところだけど、夜ごと乱痴気パーティーができるわ。そしてそんななにもかも。」

オール
ザット
ジャズ!
何でもあり
(Skidoo)
And all that jazz
(Hotcha! Whoopee)
And all that jazz(歌詞カードより)

「skidoo」は英英辞書では「leave somewhere quickly」となっており、「さっさと消え失せる」と言えそうで、「さっさと失せな」といった感じでしょうか。「hotcha」は「ホットジャズの、元気でセクシーな」と「すごーい、やった」の意。
「(失せな)そしてあれ。(すごーい!わーお)そしてあれのなんでも。」

髪をなで付け
靴にはバックル
オール・ザット・ジャズ
サックスが吹き鳴らす
あのブルース
オール・ザット・ジャズ
Slick your hair
And wear your buckle shoes
And all that jazz
I hear that father dip
is gonna blow the blues
And all that jazz(歌詞カードより)

「dip」はスラングとしては「大酒飲み、麻薬中毒」の意味があるようです。「青い」という意味の「blue」は「the blues」で、いわゆる「ブルース」となるようです。ジャズで有名なニューヨークのお店で、日本にもある「ブルー・ノート」は「ブルースのノート」で、つまり「ブルース曲」という意味のようです。また最近使い始めたiPod Touchのウィズダム英和・和英辞典では、「blue note=ブルーノート」として「ブルース音階で半音ずつ下げた第3音・第7音」とありました。もう20年近くも前ですが、1度だけプライベートの海外旅行をしたのが、ニューヨークでした。日中は美術館通い、夕方からはミュージカル。ミュージカルがはねたら、ジャズ・ライブ。3日もすれば時差もあってへろへろになりました。お店「ブルー・ノート」の上はお土産屋さんになってて、東京タワーの土産店もびっくりの品揃えでしたね。ありとあらゆるものに「blue note」と書かれて売られてました。「ビレッジ・バンガード」では演奏の合間にお客は入れ替えとなります。列にならんで、ドアが開かれるのを待ってました。いざ開くと、地下につながる階段からぞくぞくと日本人が出てくるではありませんか。なんと7割以上が日本人の客でした。びっくりしました。
「blow」には「即興でジャズを演奏する」という意味もあります。「blow:吹く」ですから、やっぱりサックスなんでしょうね。
「髪をなでつけ、バックルの靴はいて。そしてあれ全部。大酒飲みのおやじさんがブルースを演奏しようとしてるのが聞こえる。そしてそんななにもかも。」

待って ハニー
バニーハグを踊りましょう
アスピリンも買ったわ
あんたが途中でヘタばって
やり直す時のために
そうよ
オール・ザット・ジャズ
Hold on, hon
We're gonna bunny hug
I bought some aspirin
Down at United Drug
In case you shake apart
And want a brand new start
To do that jazz(歌詞カードより)

「hon」は「honny」の詰まったものと言えそうです。「bunny hug」は「20世紀初頭に流行った社交ダンス」だそうです。「buy down」って不動産関係の専門語としてはあるのですが、成句としては参考になるものありません。ただ、「bring down」で「値段を下げさせる」意味があります。ちょっと強引ですが、これを使ってみようと思います。
「待ってハニー。バニーハグを踊るのよ。ユナイテッド・ドラッグ店でアスピリンを値切って買ったわ。あんたがガタガタになったって、最初のときのように、あのそれをやりたいときのためにね。」

お酒はどこ?
早く飲ませて
オール・ザット・ジャズ
ここが
お酒の隠し場所
オール・ザット・ジャズ
Find a flask
We're playing fast and loose
And all that jazz
Right up there
is where I store the juice
And all that jazz(歌詞カードより)

「flask」は器で「フラスコ」。お酒のビンという意味もあるようです。「juice」はジュースですが、「酒」や「体液」の意味もあります。
「器を捜すのよ。すばやくそして節操なく遊ぶわ。そしてあれ全部。さあここよ。私がジュースをしまってるところ。そしてそんななにもかも。」 
なんだかとてもエッチな内容になりそうと思うのは、考え過ぎなんでしょうね。

ベイビー
大空に舞い上がって
すべてがボーッと
霞んじゃう
ここの騒ぎも
別世界のよう
オール・ザット・ジャズ
Come on, babe
We're gonna brush the sky
I betcha Lucky Lindy
Never flew so high
'Cause in the stratosphere
How could he lend an ear
To all that jazz?(歌詞カードより)

「brush」には「力ずくで進む」という意味があります。「betcha」は「bet you」で、「~であることに賭ける、であることを請合う」となるようです。「Lucky Lindy」の「Lindy」は、単葉飛行機で大西洋横断に成功したリンドバーグ(Lindbergh)みたいですね。「the stratosphere」は「成層圏」のこと。「lend an ear」は「耳を貸す」で、「耳を傾ける」の意。
「ベイビー。大空に突き進むの。賭けてもいいわ。あのリンドバーグだってこんな高くには来なかったはず。だって、成層圏なんかにいたんじゃ、あのあれ(ジャズ)も聞けなかったんじゃない?」

いくわよ
腰をシェイクして踊ろう
オール・ザット・ジャズ
腰を押し付けるの
ガーターがちぎれるまで
オール・ザット・ジャズ
Oh, you're gonna see
Your sheba shimmy shake
And all that jazz
Oh, she's gonna shimmy
Till her garters break
And all that jazz(歌詞カードより)

「sheba」は「シバの女王」で有名なシバのこと。ここでは性的に魅力のある女性のことを示していると思われます。「shimmy」は「シミー」というジャズダンス。「シュミーズ(下着)」の意味もあるようです。シミーは「上半身とシュミーズを振るわせて踊る」ようです。「shake a shimmy」で「シミーを踊る」の意となります。「you're gonna」は「you are going to」、「she's gonna」は「she is going to」。
「ほら、あんたの色っぽい娘がシミーを踊るよ。そしてそんななにもかも。あれま、あの娘はガーターがちぎれるまでシミーを踊るよ。そしてそんななにもかも。」

下着が丸見えになるまで
こんなあたしを見たら
ママはきっと卒倒する
オール・ザット・ジャズ
show her where to park her girdle
Oh, her mother's blood'd curdle
(if she'd hear her baby's queer)
For all that jazz(歌詞カードより)

「girdle」は「ガードル」。「curdle」は「(血の)凝結」。「queer」で「変人の」。「be queer for」で「異常なまでの欲求をもつ」という意味になります。「her mother's blood'd curdle」は「her mother's blood would curdle」、「if she'd hear her baby's queer」は「if she would hear her baby is queer」。
「ガードルの止めてるとこまで見せちゃって。ああ、ママの血が固まっちゃう。あの娘があんなにあれ(ジャズ)を欲しがるのを聞いたら。」

亭主なんかいないわ!
こういう人生大正解!
オール・ザット・ジャズ
大正解!
No, I'm no one's wife
But, oh, I love my life
And all that jazz
That jazz(歌詞カードより)

「いいえ、あたしは誰の妻でもないわ。でも、ああ、自分の人生が大好き。そしてそんななにもかも。これよ。」

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「No, we begin by coveting what we see every day.」(「羊たちの沈黙」より)

MY DVD:「the silence of the lambs:羊たちの沈黙(1991年製作)」発売元:20世紀フォックスエンターテイメントジャパン株式会社 GXBU-15907

極めて特異な物語。まだFBI訓練実習生のクラリス・スターリングが、上司クロフォードの特命を受け、彼自身が猟奇殺人者であり人肉を食うというレクター博士との交流をもとに、女性の皮を剥ぐという連続猟奇殺人事件の解決に立つというもの。しかし、記憶に残るのは、猟奇殺人事件や犯人”バッファロー・ビル”のことではなく、レクター博士とクラリスのことである。
クラリスがレクター博士から、「ミス・モフェットを捜せ」というヒントをもらったあと、新聞記事を探るシーンがあります。ここで訳がないまま流れた記事のうちの1つを見てみます。レクター博士の異常な犯行の1例が示されています。
「New Horrors in "Cannibal Trial"
The Doctor of Death Cooked His Victims for Gourmet Meals Then Served Them to His Friends, Michael Ronboz of City Council Among Those at Dinner Table」
「人肉公判での新たな恐怖
”死”の博士は、食通を喜ばせる食事として、犠牲者を料理し、友人たちをもてなした。市評議員のマイケル・ロンボズ氏はその夕餉の食卓を囲んだ人たちの中にいたのである」
しかし、もっと恐ろしいのは、レクター博士が揺るぎない精神性と、非常に高い知能を有して、しかも高い教養を持っていること。なによりも我々を遥かに凌駕する鋭い洞察力があるということではないでしょうか。彼の前では、我々はまるで赤子のようなもの。クラリスとレクター博士の面接場面で、いきなり私たちはレクター博士の存在感に圧倒されるのであります。
クロフォードの忠告を聞いてみます。
「ドクター・チルトンから説明があると思うが、あいつは特別な異常者だ。個人的な話はするな。まともな人間だと勘違いするな。その点は忘れないでくれ。」
「気をつけます。」
「レクターは怪物だ。正真正銘の異常者だ。」(日本語字幕より)
「Dr. Chilton at the asylum will go over all the physical procedures used ( with him ). Do not deviate from them for any reason whatsoever. You're to tell him nothing personal. ( Believe me. ) You don't want Hannibal Lector inside your head. Just do your job but never forget what he is.」
「And what is that?」
「Oh, he's a monster, a pure psychopath.」(英語字幕より)

「施設のドクター・チルトンは(レクターに)使われている実際の手続き上の決まりをなにからなにまで教えてくれるだろう。それがたとえどんな理由であろうと、決まりを破ってはいけない。個人的な話は一切するな。(私を信じなさい。)ハンニバル・レクターを理解したいなどと考えるな。ただ任務を行え。決して彼がなんであるか忘れるな。」
「では、彼は何ですか?」
「おお、彼は怪物だ。正真正銘の精神病質者だ。」

日本語字幕ではクラリスの質問が返事に変えられてますが、クロフォードの説明に対するクラリスの質問に答えているのは、ドクター・チルトンです。ドクター・チルトンは専門家でありながら、陳腐な表現でレクター博士を説明します。彼がいかにレクター博士を理解してないかが、この言葉に凝縮されています。”手法”というよりは”遊び”と言えそうな、このシーン構成はリュック・ベンソンの「フィフス・エレメント」で大事な”ストーン”に関わるシーンに多用されてましたね。
せっかくのクロフォードの忠告だったのですが、結果的にはクラリスはその忠告を超えてしまうことで、レクターとのつながりを深くし、事件解決の糸口をつかむことになります。同時に、受け入れ難い彼女自身の深い孤独も、レクターによって、解き明かされるまでになります。映画では彼女が「羊たちの沈黙」を得られたかは表現していませんが、少なくともその糸口もつかんだのではないでしょうか。

以前に「But not today」を集めました。次のもコレクションに入れたいですね。
レクター博士は、クラリスのことを隣のミグズの言うように「アソコがにおう」ことはないと言ってますが、今日つけてない香水の種類を嗅ぎ当てられては、なにもかも嗅がれているようで、クラリスは裸で立っているような居心地の悪さを感じたに違いありません。
「香水は”レール・デュ・タン”だ。今日はつけていない。」(日本語字幕より)
「And sometimes you wear L'Air du Temps. But not today.」(英語字幕より)

「そしてときには”レール・デュ・タン”をつける。だが、今日ではない。」
ぞぞっときますね。

レクター博士はたいへん意図的に行動します。クラリスにヒントを与えても、ストレートなものではありません。クラリスの能力を見越して、ひとひねり、ふたひねりしたものです。
クラリスは、レクター博士の元患者に関係する、放置された倉庫を見つけ出します。そこには、その患者と思われる、女装した頭部が瓶詰めにされていました。
「”ヘスター・モフェット” つづり変え遊びね。”私の残り(ザレストオブミー)”でしょ。」(日本語字幕より)
「Hester Mofet. It's an anagram, isn't it, doctor? Hester Mofet; "The rest of me"? "Miss The Rest Of Me," meanig that you rented that garage?」(英語字幕より)

「ヘスター・モフェット。つづり換え遊び、ですね、ドクター? ヘスター・モフェット;”私の残り”? ”ミス ザレストオブミー(私の残りを見落とす)”とは、あなたがあのガレージを借りていたということを意味しますね?」

後にクラリスは、レクター博士から”バッファロー・ビル”の事件を解決する情報を得るため、特別待遇を提示することになります。実はこれはウソなんですが、映画を見直すと、レクター博士自身がクラリスのこのウソの約束を引き出したということがよくわかります。
彼にとって、監禁状態に変化を与えるのであれば、それがクラリスであろうが、クロフォードであろうが、かれらを妬んだドクター・チルトンであろうが、誰でも良かったのだろうと思います。自分の行動・発言がどこの誰にどのように影響を与えるか読み切っていると考えざるを得ません。
クラリスは、レクター博士の出したヒントを解いて、高揚しています。レクター博士の持っているものをもっと引き出したいと考えています。一方、レクター博士は別の事を考えているようです。クラリスと親密な関係を続ければ、きっとドクター・チルトンが癇癪を起こす、そうすれば、この監禁状態にスキができるのだと。そしてそれには、少し芝居が必要だと。
「私はここに8年もいる。生きている間は、もう出られない。でも景色を見たい。窓が欲しい。木や水が見たいんだ。ドクター・チルトンから、遠くへ離れたい。」
「あの首の事ですが、彼を殺したのは誰です?」
「バッファロー・ビルの心理面を、資料から分析できる。逮捕を手助けしよう。」
「犯人を知っているのね。あの首を切ったのは誰?」
「”待つ者にこそ幸いあれ” 私は辛抱強いが、君や上司はどうかな? バッファロー・ビルはもう、次の獲物を探してる。」(日本語字幕より)
「I've been in this room for eight years now, Clarice. I know they will never ever let me out while I'm alive. What I want is a view. I want a window where I can see a tree or even water. I want to be in a federal institution far away from Dr. Chilton.」
「What did you mean by "fledgling killer"? Are you saying he's killed again?」
「I'm offering you a psychological profile on Buffalo Bill based on the case evidence. I'll help you catch him, Clarice.」
「You know who he is, don't you? Tell me who decapitated your patient, doctor.」
「All good things to those who wait. I've waited, Clarice. But how long can you and old Jackie-boy wait? Our little Billy must already be searching for that next special lady.」(英語字幕より)

クラリスは誘拐された娘の母親が議員であることを使って、レクター博士に施設変更に年1度のバケーションとそれらしい交換条件を作って、”バッファロー・ビル”の資料とともに渡します。レクター博士は、提示された条件にさほど興味を見せず、クラリスの個人情報、心の傷を交換条件に”バッファロー・ビル”の情報を与えます。
レクター博士は、人の心に巣くう闇にただならぬ興味を示します。クラリスの中にも、影を見つけ、ゆっくりゆっくりと心の底に近づいて行くのでした。
果たして、ドクター・チルトンはクラリスのウソの交換条件をあばき、議員に報告して、自らの名を上げようとします。議員の要請を受けて、レクター博士を連れ出します。それは、結局ドクター・チルトンの命を縮めることになるのですが。

レクター博士が議員に伝えた犯人の名は、「ルイス・フレンド」。
クラリスは、レクター博士が描いた絵をみやげに、真の情報を得ようと試みます。クラリスはなぜかレクター博士に気に入られていると感じているようですし、それを信じているようです。そして「ルイス・フレンド」はあたかも、クラリスに送られたメッセージであるかのようでした。クラリスはこれに応えます。
「ルイス・フレンド。つづりを変えると”まがい物”よ。」
「 Louis Friend? Iron sulfide, also known as fool's gold.」
「Iron sulfide」は黄鉄鉱。黄鉄鉱は「fool's gold」とも言われ、金と間違えられるものとして「ムダな試み」という意味に使われるようです。

クラリスはレクター博士に迫ります。直接的な答え、犯人の名を欲しがるクラリスですが、今度もレクター博士はなぞのようなヒントを与えるだけです。
「ビルの資料は読んだか? あれを読めば、すべて分かる。」
「と言うと?」
「根本に目を向けろ。答えは簡単さ。アウレリウスの哲学書を読め。物事の本質を探れと書いてある。諸君が追い求める男は何をしている?」
「女を殺してるわ。」
「違う。それは二次的な事だ。本質は何だ? 彼を殺しに駆り立てるものは?」
「怒りか。社会の冷たい仕打ちか。性の抑圧・・・」
「違うね。極度の切望だ。それが本質だ。切望の始まりは? まず欲しい物を探す? 質問に答えろ。」
「つまり・・・」
「毎日見てる物を欲しがる事から始まる。君の体も多くの目にさらされてる。いつも目が自然に何かを追い求める。」
「だから、どうなの?」(日本語字幕より)
「Well, I've read the case files. Have you? Everything you need to find him is there in those pages.」
「Then tell me how.」
「First principles, Clarice. Simplicity. Read Marcus Aurelius. Of each particular thing, ask: What is it in itself? What is its nature? What does he do, this man you seek?」
「He kills women.」
「No. That is incidental. What is the principle thing he does? What needs does he serve by killing?」
「Anger, social acceptance and sexual frustration--」
「No! He covets. That is his nature. And how do we begin to covet, Clarice? Do we seek out things to covet? Make an effort answer now.」
「No, we just--」
「No, we begin by coveting what we see every day. Don't you feel eyes moving over your body, Clarice? And don't your eyes seek out the things you want?」
「All right, yes. Now, please tell me how.」(英語字幕より)

「そう、私は事件ファイルを読んだよ。君は? 彼を探し出すのに必要なものはすべて、そこのページの中にある。」
「じゃあ、どうファイルにあるのか言って。」
「第一原則だよ、クラリス。単純。マーカス・アウレリウス(五賢帝の1人、ローマ皇帝、ストア哲学者)を読みたまえ。特異なことごとに、尋ねてみるのだ。その中身は何なのか? その本質とは? 彼は何をするのか、君たちが探しているこの男は?」
「女を殺している。」
「違う。それは付随的なものだ。彼がやっていることの根本は何か? 何が、彼が殺すことで与えているものを必要としているのか?」
「怒り、社会受容度加えて性的欲求不満・・・」
「違う! 彼は切望している。それが彼の根本だ。そして、我々はどうやって切望を始める、クラリス? 我々は切望するものを見つけるのかね? さあ、しっかり答えるんだ。」
「いいえ、私たちはただ--」
「いいや、我々は毎日見ているものを切望することから始める。君の体中に注がれる視線を感じないかね? クラリス。 そして君の目は自分が求めるものを探し出しているのではないかね?」
「そうね、そうだわ。では、どうファイルにあるのか話して。」

レクター博士の中では、クラリスに必要な情報も、これから始まる脱走の計画もすべてやり終えたかのようです。
彼の意識はただクラリスの闇の部分のみに向かいます。
「今度は君が話す番だ。もうウソは、お断りだよ。なぜ牧場から逃げた?」
「ドクター、質問ごっこをしてる時間はないの。」
「今、君は任務を離れてるだろ。ゆっくりすればいい。」
「お願い。もう時間が・・・」
「ダメだ。今すぐ聞きたい。君は10歳の時、孤児になって、モンタナの母のいとこの羊牧場に行った。そして?」
「ある朝、逃げ出したの。」
「ただ逃げたわけじゃないね。理由は? 何時に逃げた?」
「朝。暗いうちに。」
「何かで目が覚めた。夢か? 何だった?」
「奇妙な音で・・・」
「何の音だった?」
「あれは、悲鳴だった。子供の声のような悲鳴。」
「君はどうした?」
「私は、階下に下り、外に出て、そっと納屋に近づき、恐る恐る中をのぞいたの。」
「そこで何を見たんだ?」
「子羊よ。悲鳴を上げていた。」
「子羊たちを殺していたのか?」
「悲鳴を上げてた。」
「それで逃げた?」
「子羊を逃がそうと、ゲートを開けたわ。でも子羊たちは全然逃げないの。」
「だが君は、逃げ出した?」
「子羊を1頭抱えて、必死で逃げたわ。」
「どこに行った?」
「分からない。食料も水もなく、とても寒かった。凍えそうに。少なくとも、1頭だけは助けたと思ったけど、とても重くて、ダメだった。ほんの数キロ逃げて、保安官に捕まったわ。怒った牧場主は、私を施設へ送ったの。牧場はそれが最後。」
「君の連れ出した子羊は?」
「殺されたわ。」
「今でも時々、目が覚める? 明け方に目覚めて、子羊の悲鳴を聞く?」
(「イエス。」)
「キャサリンを救えたら、もう悲鳴も消え、暗い明け方に目が覚める事もないと思う? 悲鳴に悩まされずにすむと?」
「分からない。分からないわ。」
「ありがとう。」(日本語字幕より)
「No. It is your turn to tell me, Clarice. You don't have any more vacations to sell. Why did you leave that ranch?」
「Doctor, we don't have any more time for any of this now.」
「But we don't reckon time the same way, do we? This is all the time you'll have.」
「Later. Please listen. We've only got five--」
「No! I will listen now. Your father's murder orphaned you when you were 10. You went to live with cousins on a sheep and horse ranch in Montana. And?」
「And one morning I just ran away.」
「Not "just," Clarice. What set you off? You started at what time?」
「Early, still dark.」
「Then something woke you. Was it a dream? What was it?」
 「I heard a strange noise.」
「What was it?」
「It was screaming. Some kind of screaming, like a child's voice.」
「What did you do?」
「I went downstairs. Outside. I crept up into the barn. I was so scared to look inside, but I had to.」
「And what did you see, Clarice? What did you see?」
「Lambs. They were screaming.」
「They were slaughtering the spring lambs?」
「And they were screaming.」
「And you ran away?」
「No. First I tried to free them. I opened the gate to their pen. They just stood there, confused. They wouldn't run.」
「But you could and you did, didn't you?」
「Yes. I took one lamb and I ran away as fast as I could.」
「Where were you going, Clarice?」
「I don't know. I didn't have any food, any water and it was very cold. It was very cold. I thought... I thought if I could save just one but he was so heavy. He was so heavy. I didn't get more than a few miles when the sheriff's car picked me up. The rancher was so angry he sent me to a Lutheran orphanage in Bozeman. I never saw the ranch again.」
「What became of your lamb, Clarice?」
「They killed him.」
「You still wake up sometimes, don't you? Wake up in the dark and hear the screaming of the lambs?」
「Yes.」
「And you think if you save poor Catherine you can make them stop, don't you? You think if Catherine lives you won't wake up in the dark ever again to that awful screaming of the lambs.」
「I don't know. I don't know.」
「Thank you, Clarice. Thank you.」(英語字幕より)

「いや。君が私に話す番だ、クラリス。きみには売れる休暇プランはもうないぞ。なぜ、牧場を去ったのかね?」
「ドクター、今このことのためのそんな時間はないの。」
「しかし、これまでどおりに時間を考えることはないだろ? 今回は君が持っているだけの時間がある。」
「あとで。どうか聞いて。私たちが得たのはたったの5--」
「いや! さあ、聞こう。君が10歳のとき、父親が殺されたことで君は孤児となった。君はいとこと暮らすため、モンタナの羊と馬の牧場に行った。それで?」
「それで、ある朝、私はただ逃げ出したの。」
「”ただ”ではない、クラリス。何が君にそうさせた? いつ始めた?」
「早い時間、まだ暗い時。」
「それで何かが君を目覚めさせた。それは夢だった? 何だった?」
「奇妙な音が聞こえた。」
「それは何だった?」
「それは悲鳴だった。子供の声のような、悲鳴だった。」
「君は何をした?」
「階段を下りた。外へ。忍び足で納屋に向かった。中を覗くのはとても怖かった。でも私はそうせずにはいられなかった。」
「そして何を見たのかね? クラリス。何を見たんだ?」
「子羊たち。子羊たちは悲鳴を上げていた。」
「かれらは春に生まれた子羊たちを殺していたんだね?」
「子羊たちは悲鳴を上げていたの。」
「それで君は逃げ出した?」
「いいえ。最初、私は子羊たちを逃がそうとしたの。おりの扉を開けたの。子羊たちはただそこに立ち尽くして、当惑してた。全然逃げようとしないの。」
「しかし、君にはできたし、そうしたのだろ?」
「ええ。私は1匹の子羊をつかんで、そして力の限り走って逃げた。」
「どこへ向かったのかね? クラリス。」
「分からない。食べものもなければ、水もなかった。そしてとても寒かったの。とても寒かった。私は思ってた。1匹は救えたのかと思ってた。でもとても重かった。とても重かったの。保安官の車が私を乗せたとき、私はほんの数マイルも行ってなかった。牧場主はとても怒って、私をボーズマン(モンタナ州)にあるルター派教会の孤児院に送り込んだの。牧場主に再び会うことはなかったわ。」
「その子羊はどうなった? クラリス。」
「かれらはその子を殺したわ。」
「君はまだときどき目が覚める、そうだね? 未明に目が覚め、そしてあの子羊たちの悲鳴を聞く?」
「ええ。」
「そして、君はあのかわいそうなキャサリンを救えば、子羊たちの悲鳴を止められると思っている。そうじゃないかね? 君はキャサリンが生き延びれば、未明にあのおぞましい子羊たちの悲鳴で目が覚めることがなくなると思っている?」
「分からない。分からないの。」
「ありがとう、クラリス。ありがとう。」

レクター博士の繰り返す「Thank you」が、彼のこの上ない満足を示しているようです。彼は、クラリスと子羊の絵を描き、仕上げに何かを祝うかのように子羊の料理を注文します。そしておぞましくも、鮮やかな脱走が始まります。
一方、クラリスはレクター博士のヒントから、発見がわざと遅らされていた第一被害者が犯人の身近にいたとわかり、捜査を進めます。

最後の祝賀パーティーにかかってきた電話。
「クラリス。子羊の悲鳴はやんだか?」
「ドクター・レクター。」
「逆探知は無駄だ。すぐ切るから。」
「今どこに?」
「電話する気はなかった。君は注目の的だしな。私の事もほっといてくれ。」
「その約束はできないわ。」
「もっと長く話したいが、これから古い友人を夕食に。さよなら。」
「ドクター・レクター!」(日本語字幕より)
「Starling.」
「Well, Clarice, have the lambs stopped screaming?」
「Dr. Lector?」
「Don't bother with a trace. I won't be on long enough.」
「Where are you, Dr. Lector?」
「I have no plans to call on you. The world's more interesting with you in it. So you take care now to extend me the same courtesy.」
「You know I can't make that promise.」
「I do wish we could chat longer but I'm having an old friend for dinner. Bye.」
「Dr. Lector! Dr. Lector. Dr. Lector. Dr. Lector?」(英語字幕より)

「スターリンです。」
「やあ、クラリス。子羊たちは悲鳴をやめたかね?」
「ドクター・レクター?」
「逆探知で困らせないでくれよ。そんなに長くは(電話)しないからね。」
「どこに、ドクター・レクター?」
「きみに電話する予定じゃなかった。世界中がきみに注目しているからね。だから、これまで通りのやさしさを施すよう今も心がけてもらいたいね。」
「お分かりのように、その約束はできません。」
「もっと長くおしゃべりしたかったのだが、夕食に古い友人をね。バイ。」
「ドクター・レクター! ドクター・レクター。ドクター・レクター。ドクター・レクター?」

こちらは繰り返される「ドクター・レクター」が、クラリスの大きな不安を表しています。

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「Because I choose to.」(「マトリックス レボリューションズ」より)

MY DVD:「MATRIX REVOLUTIONS:マトリックス レボリューションズ(2003年製作)」発売元:ワーナー・ホームビデオ DL33209

今回も紹介したい本があります。
松柏社 奥村みさ/スーザン・K・バートン/板倉厳一郎著 「映画でわかるアメリカ文化入門」です。
この本では、30本の映画を題材にアメリカ文化が紹介されています。その中で、「マトリックス」については、キリスト教的価値観が取り入れられていると紹介されています。たいへん興味深い内容です。
主人公ネオはもちろん映画の中でも「救世主」としての存在です。加えて、恋人のトリニティ:Trinityが「三位一体(さんみいったい)」で、映画の中で現実の人間が住んでいるザイオン(Zion)がユダヤ人にとっての約束の地シオン(Zion)を意味してるなどを教えてくれます。そして、この映画がキリストの受難物語をなぞっていることを示してくれます。
ちなみに、「三位一体」を広辞苑で引きますと、「(the Trinity)キリスト教で、創造主としての父なる神と、贖罪者キリストとして世に現れた子なる神と、信仰経験に顕示された精霊なる神とが、唯一なる神の三つの位格(ペルソナ)であるとする説。この3者に優劣の差はない。」となっています。残念ながら、ますます分からなくなりました。
ネオを救世主と信じて疑わないモーフィアス(Morpheus)はギリシャ神話に登場する眠りの神の子で夢の神(モルペウス)だそうです。
じゃあそれではと、この「レボリューションズ」に登場するナイオビ(Niobe)を辞書で引いてみると、「ギリシャ神話で愛児を皆殺しにされ、悲観のあまり石化してなお涙を流すタンタロスの娘(ニオベー)」となります。
こうなりますと、「マトリックス」3部作に登場する人物全部を調べなくてはならなくなりそうです。申し訳ありませんが、それは興味のある方におまかせしたいと思います。
とにかく、この映画で描かれてる、この世界が実は機械が支配しているプログラムによるものだという、一見荒唐無稽とも思える物語が、実は救世主受難の物語を意識していることを知っただけでも儲け物ですよね。ジョージ・ルーカスがアメリカに神話をSF映画「スターウォーズ」でもたらしたように、ウォシャウスキー兄弟は救世主受難の物語をSF映画に作り上げたのかも知れません。一方、タイトル画面の始まり部分の表現方法が、日本アニメ、押井守監督の「攻殻機動隊」を模倣していることもよく知られています。また、この3作目ではザイオンを守る戦闘員のリーダーミフネ船長が黒澤明監督映画に切っても切れない役者、三船敏郎のそっくりさんであることも、画像を見てすぐ分かります。

余談ですが、今年は黒澤明監督没後10年の年です。NHKでは、黒澤明監督全30作品を放送する予定だそうです。すでに放映された「用心棒」・「椿三十郎」は久しぶりに見ましたが、改めてその面白さに感心しました。今見ても、最近見た映画の中でも最も見応えのある映画と言えます。スピルバーグ監督は、作品を作る前にはいつも、「アラビアのロレンス」と「七人の侍」を見ると言ってます。昔の映像で、ロスでの黒澤監督のインタビュー番組でジョージ・ルーカスとフランシス・コッポラの両名が双子のようにりっぱな髭を生やして、サングラスをかけて出演しているのがありました。資金難であった「影武者」を救った出資者の二人です。その番組の中で、ジョージ・ルーカス監督は、黒澤監督の「隠し砦の三悪人」を見て、「スターウォーズ」の中のC3POとR2D2のロボットを思いついたことを語っていました。黒澤明監督は彼らにとって父親のような存在であるようでした。他の番組では、海外の関係者に黒澤明監督作品でどれが一番良かったかをアンケートしたところ、当時その頃までに作られた26作品のすべての名前が候補に上がったと紹介されていました。黒澤明監督がいかに世界中の映画関係者から高い評価を受け、尊敬されていたかを示しています。すごいですね。

さて、「マトリックス」も3作目となりますと、お話も随分込み入ってきます。
マシンは、人間の住んでいるザイオンに総攻撃することを開始しています。刻一刻とザイオンに絶滅の危機が迫っています。一方、マトリックスの中の特別警護員だったスミスは、ネオとの対決で破れてから、特別な能力を得てマシンとの接続を断ち、異常に増殖を繰り返しています。かつて、人間が資源を食い尽くしては増殖するウィルスであると言っていたスミスが、自らガン細胞であるかのように増殖してマトリックス世界の滅亡を目指し始めています。
ネオは、マトリックスの世界だけでなく実世界でも、不思議な能力を持つまでになっていました。機械であるセンチネルを自分の精神によって打撃を与えたのです。しかし、その瞬間ネオの精神はマトリックスと実世界の間の閉ざされた世界に飛ばされていました。
逆にスミスはひとりの人間の精神を支配するまでになり、人間世界でネオに近づいていました。

気がつくと、ネオは地下鉄の駅に寝ていました。現実世界ではありません。しかし、人間世界で言うインド系の親子と対面するのでした。
一家の人たちは、主人がラーマ・カンドラ、妻カマラ、そして娘のサティー。英文ではRama-Kandra、Kamala、そしてSati。
主人の名は、Ramachandraに酷似しています。Ramachandraは、古代インドの叙事詩ラーマヤナの主人公、あるいはヒンドゥー教のVishnu神の7番目の化身ラーマチャンドラの名です。Kamalaはインド産の植物の名ですが、Kamaはヒンドゥー神話の愛の神カーマ。SatiはSiva神の妻の名。父と夫の争いのあとで、みずから火の中に入って犠牲となったとあります。
描かれているのは、救世主受難の物語ばかりではないようです。
彼らはそれぞれプログラムのひとつです。しかし、ラーマから意外なことを聞くことになります。

「娘を心から愛しています。私の大切な宝物です。でも、我々の世界ではプログラムには目的が必要で、なければ削除されます。娘を救いたいのです。理解できない?」
「プログラムがー」
「愛を語るのは変だと?」
「愛は人間の感情だ。」
「ただの言葉です。大切なのは、言葉が表す”関係”です。愛する人がいますね。その人を守るために何をします?」
「何でも。」
「では、我々がここにいる理由は同じです。」(日本語字幕より)
「I love my daughter very much. I find her to be the most beautiful thing I have ever seen. But where we are from, that is not enough. Every program that is created must have a purpose. If it does not, it is deleted. I went to the Frenchman to save my daughter. You do not understand.」
「I just have never-」
「-heard a program speak of love.」
「It is a human emotion.」
「No, it is a word. What matters is the connection the word implies. I see that you are in love. Can you tell me what you would give to hold on to that connection?」
「Anything.」
「Then perhaps the reason you are here is not so different than the reason I am here.」(英語字幕より)

「私は娘をたいへん愛しています。私は彼女に今まで見た中でも最も美しいものを見出します。しかし、私たちが出て来た元のところでは、それは十分ではありません。作られたプログラムは皆目的を持っていなくてはなりません。そうでなければ削除されるのです。娘を救うために私はフランス人のところへ行きました。理解できないのですね。」
「ただ私は聞いたことがないんだ。」